浄土真宗親鸞会がネットギア「M4250」を導入、能登半島地震では「機動力の高さ」が生きる
大規模イベントの“ワンオペ映像業務”、実現したのはNDIとネットギアPro AVスイッチ
2024年09月12日 10時00分更新
「浄土真宗は『聞(もん)の宗教』と言われ、法話を『聴聞する(聞く)』ことが一番大切とされています。そこで親鸞会では、より多くの方に法話を聞いていただけるよう、小規模な講演会から大規模会場でのイベント、インターネット配信まで、さまざまな形の取り組みを行っています」
浄土真宗親鸞会(以下、親鸞会)は、富山県射水市に本部会館を持つ宗教団体だ。浄土真宗の宗祖である親鸞聖人の教えを、現代の言葉で分かりやすく伝える活動を展開している。日本全国に親鸞会の会館があるほか、米国、メキシコ、ブラジル、台湾、東南アジアなど海外にも多くの拠点を持つ。
フリーランスのフォトグラファーとして活動するかたわら、親鸞会で映像部門の主任を務める山本哲志氏は、動画撮影、映像編集、インターネットでのライブ配信、イベントでのステージ映像投影など、映像関連の幅広い業務を担ってきた。
そんな中、親鸞会では2022年から幕張メッセ、インテックス大阪、東京ビッグサイトなどの会場で大規模イベント「歎異抄大學」を開催している。広い会場内で、映像周辺機材をシンプルにしつつ業務を“ワンオペ”で担うために山本氏が導入したのが、ネットギアのAV over IP対応 ProAVスイッチ「M4250シリーズ」だった。なぜM4250スイッチを選んだのか、その背景を山本氏にうかがった。
法話や講演を「聞く」機会を積極的に作る取り組み
冒頭コメントにあるとおり、親鸞会では法話や講演を「聞く」機会を積極的に作ってきた。日本全国での講演/イベント開催のほか、現在ではインターネットを通じて世界60カ国以上への配信も行っているという。
「2009年から、国内外350カ所を超える会場に向けて法話を配信していた時期がありました。その頃は電話で音声を届ける方法が主流だったので、莫大な電話代が課題でした。その後、インターネット配信が普及し、手軽に扱える映像機材も出てきたので、わたしから『これを使えば経費も節減でき、映像も音声も楽に配信できますよ』と提案しました。実は当時はまだ、配信の知識は全然なかったんですけどね(笑)」
山本氏は、プロ向けのデジタル一眼レフカメラが登場したころからフォトグラファーとしての活動を開始した。機関誌向けの写真撮影からスタートしたが、その後、カメラの進化で動画撮影もできるようになったため記録映像の撮影を、さらにインターネット配信の需要が生まれたので配信を――と、現場のニーズに応じて活動範囲を広げてきたという。
「専用機材とYouTubeやVimeoを用いたインターネット配信は、コロナ禍の少し前から始まりました。当初は会議室のような狭いスペースからの配信でしたし、ハイブリッドイベントでもなかったので、配信システムは『ATEM mini』(Blackmagic Design製の小型スイッチャー)に直接、ビデオカメラをHDMI接続するだけで済んでいました。もちろん、カメラ操作も含めてワンオペです」
巨大な会場でのハイブリッドイベントも“ワンオペ”で?
こうして映像周りの“ワンオペ”経験と実績を積んでいた山本氏だが、そこに大きな転機が訪れる。前述した大型イベント、歎異抄大學の開催だ。初年度の2022年は幕張メッセとインテックス大阪で開催されることになっていた。
だが、準備を進めるうちにいくつもの課題が浮上してきた。まず、インターネット配信と録画に使う映像の撮影とスイッチングに加えて、ステージ上の大型LEDビジョン(3面)に投影する映像送出のオペレーションも、山本氏がオペレーション卓から“ワンオペ”でこなさなければならない。ステージとオペレーション卓が数十メートル以上離れるため、講師を撮影するPTZカメラは前方に設置してリモート操作するしかない。そして、ステージとオペレーション卓、カメラとオペレーション卓の間は、これまで使ってきたHDMIケーブルではとても接続できない距離になる。
「数十メートルを超える距離で映像を伝送するためには、専用のSDIケーブルとマトリクススイッチャーが必要になると考えていました。そんな機材は持っていませんし、購入もレンタルも高価です。また、SDIは入力と出力が1対1で固定された規格なので、ステージとオペレーション卓の間で何本もの長いケーブルを敷設することになります。設営や撤収が大がかりになりますし、急な変更にも対応しにくくなります」
そんな難題に悩んでいたとき、山本氏は偶然、映像専門誌で「NDI」というキーワードを知る。IPネットワーク、つまりLANケーブルを使って映像を伝送できる新しい規格だ。
LANケーブルならば、最長の100メートルのものでも比較的安価に入手できる。さらに、NDIは多対多の通信規格であり、複数の映像ソースを1つのIPネットワークにまとめることができる(表示側でテレビのチャンネルを選ぶように映像ソースを選べる)ので、敷設するケーブルの本数そのものも少なく済む。その間にネットワークスイッチを挟むだけで、伝送距離をさらに延ばしたり、複数デバイスのケーブルを1本にまとめたりすることも可能だ。NDIは“ワンオペ”にはとても好都合だった。
タイミングよく、地元の富山県にあるプロ映像機材販売代理店の神成(かんなり)株式会社が、NDI製品を詳しく紹介するイベント「HOKURIKU NDIフェアー 2022」を開催することも知った。山本氏はこのイベントに参加し、そこでネットギアのPro AVスイッチに出会うことになる。
ネットギアのPro AVスイッチを導入、NDIシステムをシンプルに構築
神成株式会社のNDIフェアーに参加した山本氏は、まず最初にネットギア担当者からネットワークスイッチの説明を聞くよう案内されたことに驚いたという。
「ネットギアさんのことは知っていましたが、『映像関係のイベントに、なぜネットギア!?』と驚いてしまいました。それまで、ネットワークスイッチは単なる“LANの分配器”だと思っていましたから」
山本氏はこのとき初めて、NDIを含むAV over IP向けのネットワークでは、トラフィックを最適化するためのスイッチの設定が重要であることを知った。しかも、通常のスイッチの場合はコマンド入力で設定を行う必要があり、ネットワークの専門的な知識がないと難しい。
しかし、ネットギアのPro AVスイッチの場合はAV over IP専用のGUIを備えており、誰でも簡単に設定ができる。「その説明を聴いて、自分に使えるマネージドスイッチは“M4250一択”だなと思いました」(山本氏)。
それから2カ月後の2022年4月には、1台目のM4250スイッチとHDMI-NDIコンバーターを購入。5月に幕張メッセで開催された歎異抄大學のオペレーションに臨んだ。この現場で得られた知見を生かし、11月にインテックス大阪で開催された第2回の歎異抄大學では2台目のM4250スイッチを導入。この第2回目で、NDIをメインとした“ワンオペ”の運用スタイルはほぼ確立できたという。
現在はステージ側、オペレーション卓側のそれぞれに1台ずつM4250スイッチを配置し(その距離が100メートルを超える場合は3台目を間に挟む)、その間を冗長化した2本のケーブルで接続している。あとはそれぞれのスイッチに、映像ソース(カメラやPCなど)、出力先デバイス(LEDビジョン、講師用のモニターディスプレイなど)をHDMI接続したコンバーターをつなぐだけなので、構成は非常にシンプルだ。
「通路にたくさんのケーブルをはわせることなく、スッキリと敷設できる点はやはり評価が高いです。それに、ワンオペなので現場での設営や撤収が早く終わるのも助かりますね。PTZカメラは映像、リモート制御、それにPoE給電までケーブル1本でできますので、電源ケーブルを敷設する必要もない。昔から映像のオペレーションを手がけてきた先輩は、NDIの機動力の高さに驚いていますね」