NFL、MLBなど米国のスタジアムWi-Fiで多くの実績を持つExtreme Networks幹部に聞く
いまやスポーツスタジアムは「Wi-Fi整備」が不可欠……なぜ?
2024年08月06日 09時00分更新
ライブイベントやスポーツイベントがことごとく中止、延期となってしまったコロナ禍の時期。その反動からか、コロナ禍が落ち着いたこの2年ほどはイベントラッシュだ。日本でも海外アーティストの来日コンサートが続いており、世界ではサッカーやバレー、そしてオリンピックなど、数年に一度の大型スポーツイベントが目白押しとなっている。
大勢の人が集まるイベント会場やスタジアムでは、これまで「いかに人々を安全に動かすか(誘導するか)」が主なチャレンジだった。しかし、ここ10年ほどは「通信ネットワーク」も重要な課題になっている。スマホを手にした来場者が、オンラインチケットの入場からSNSへの投稿まで、幅広い用途で会場のネットワークを使うからだ。
こうした大規模な施設向けのWi-Fi設備を得意とするのが、Extreme Networksだ。同社では2012年、スポーツスタジアムをはじめとする大規模施設専門の事業を立ち上げた。同社の本拠地である米国では、アメリカンフットボールのNFL、野球のMLB、ホッケーのNHLなどの「公式Wi-Fiネットワークソリューションパートナー」になっており、この分野をリードするネットワーク機器ベンダーとなっている。
今年6月末、Extreme NetworksのWi-Fiを導入した野球場「Oracle Park」において、Extreme Networks幹部が、スタジアムWi-Fi分野のトレンドやWi-Fiの最新技術動向などについて説明した。
スタジアム向けWi-Fiには「あらゆる業界の無線要件が凝縮」
Extremeが大規模施設専門の事業を立ち上げた2012年といえば、ホテルやレストラン、あるいは駅や空港でフリーWi-Fi(ゲストWi-Fi)を探すのが当たり前になった頃だ。ただし、スポーツチームやスタジアムがWi-Fiを提供する理由は、単に「来場するファンがフリーWi-Fiを期待しているから」というだけではないようだ。
現在では、あらゆるスポーツがインターネットで観戦できるようになっている。スポーツファンの自宅には大画面のテレビがあり、ソファでくつろぎながら迫力のある試合観戦が可能なのだ。さらには、試合を観ながらスマホで選手のスタッツ(成績)をチェックしたり、応援するチームが得点したらSNSで仲間と喜びや興奮をシェアすることもできる。
そうした変化の結果、スポーツチームやスタジアムは「なぜ、わざわざスタジアムまで足を運び、チケット代金まで支払って観戦しなければならないのか?」というファンの疑問に答えなければならなくなった。スタジアムでの観戦に“付加価値”が求められるようになったのだ。
幸いなことに、来場するファンは皆スマホを手にしている。これを活用すれば、さまざまな付加価値サービスが提供できる。たとえば「ネットで購入したモバイルチケットで入場する」「座席についたままで売店のフードをオーダーし、自席で受け取る」「会場内の混んでいないトイレを探す」といったものだ。さらには、スタジアム内の“つながった”ファンに対してタイミングの良いマーケティングキャンペーンも打てるだろうし、スタジアム側は施設内の人流をリアルタイムに分析しながら適切な導線オペレーションも実施できる。
こうしたサービスを展開していくうえで、Wi-Fiをはじめとするネットワークは重要な役割を果たすことになる。
「スタジアムのWi-Fiに求められる要件は、(ホテルなどの)ホスピタリティ業界、小売業界などの幅広い要件を足し合わせたような、特殊なものだ」と説明するのは、Extreme NetworksのCTOオフィスでワイヤレスネットワーク担当ディレクターを務めるデビッド・コールマン氏だ。ネットワークの業界に長く身を置き、Wi-Fi技術関連の著書も持つベテランである。
Wi-Fiだけでなく有線ネットワーク、ネットワーク管理、セキュリティなどの技術も持つExtremeでは、スタジアムごとの要件に合わせてネットワーク設備を設計、構築、提供している。MLBとは公式のWi-Fiパートナーとして、機器の提供だけでなく管理、さらにアナリティクスなども手がけることで、スタジアムにおけるファン体験(付加価値サービス)の改善と、スタジアムの運用支援などの役割を担っている。
「Extremeでは、収容人数1万人以下のスタジアムから12万5000人の大規模施設まで、さまざまな要件に対応してきた経験から、ネットワーク設計のメソドロジーを確立している。われわれの構築したネットワークを通じて、世界中のスタジアムで516万6000人がWi-Fiを利用している」(コールマン氏)
同社には、スタジアムなどの大規模施設専門の部門があり、プロフェッショナルサービスも提供している。立ち上げから12年、現在では同社のビジネスを牽引すると言っても過言ではない事業になっているという。