体験改善を目指し、グローバルエリアネットワーク全体を見渡す“望遠鏡”を提供
シスコ“Catalyst+Meraki”事業統合へ、新戦略は「デジタル体験」
2024年07月18日 13時00分更新
シスコ(Cisco)の企業DNAとも言えるネットワーキング事業が、大きな変革期を迎えている。
シスコシステムズは2024年7月16日、国内の事業戦略に関する記者向けの説明会を開催した。今年6月に米国で開催した年次イベント「Cisco Live! 2024」の振り返りも兼ねたもので、ネットワーキング、クラウドインフラ(データセンター)&ソフトウェア、セキュリティという3つの事業について、それぞれ最新の動向と戦略が説明された。ここでは、特に大きな動きとなるネットワーキングについてまとめる。
ネットワークのスペックよりも「デジタル体験」が重要な時代に
シスコでは、長年にわたってエンタープライズ向けの旗艦ブランドと位置付けてきた「Catalyst」と、クラウド管理型のネットワーク製品「Meraki」という2つの事業を合体させて、新たに「ネットワークエクスペリエンス事業(NX)」部門とする計画を進めている。この新事業部門は、6カ月間の統合パイロット期間を経て、2024年8月よりグローバルで正式に発足する計画だ。
これまでCatalystとMerakiはそれぞれ独立してセールスや製品開発などを行ってきたが、新事業では製品、ロードマップ、組織を含めて1つに統合される。「Cisco社内では大きな事業統合になる」と、シスコシステムズ 執行役員 ネットワーキングエクスペリエンス事業担当の高橋敦氏は説明する。
「ネットワークエクスペリエンス」という名前が示すとおり、新事業部門がフォーカスするのはネットワーク製品のスペックではなく、実現されるネットワークを通じた「デジタル体験」である。これは世界的なトレンドであり、日本でも顧客の多くがデジタル体験を重視し始めているという。
「ネットワーク製品のポート数、パケット処理性能、冗長化方式といった議論も引き続き重要だが、安心、安全、快適なネットワークを提供してユーザーのデジタル体験を高めることの方が重要になっている」(高橋氏)
特に、現在の顧客企業ではパブリッククラウドの利用が増えており、利用するネットワークは自社所有のインフラだけにとどまらなくなっている。高橋氏は、このネットワークを“グローバルエリアネットワーク”と表現し、グローバルエリアネットワーク全体の状態を把握する必要があると説明する。
オンプレミスとクラウドの運用統合「Cisco Networking Cloud」が加速
ここでシスコは、「マルチドメイン」と「ドメイン固有」という2種類の異なるスコープを組み合わせるアプローチを推奨する。グローバルエリアネットワーク全体の体験を広く見渡す“望遠鏡(=マルチドメイン)”と、自社所有ネットワークの状態を詳細に把握する“顕微鏡(=ドメイン固有)”の組み合わせだ。
“望遠鏡”となるマルチドメインをまたいだ体験把握は「データの可視化」からスタートする。まずここでは、ネットワーク可視化製品の「Cisco ThousandEyes」が重要な役割を果たす。
さらに6月のCisco Live!では、「Cisco Networking Cloud」「Cisco Security Cloud」「Cisco Splunk(オブザーバビリティ)」という3つの層で、あらゆる人/モノ/場所、アクセスネットワーク、ネットワークサービス、クラウド接続インフラ、アプリケーションをまたぐ可視化とセキュリティを実現するビジョンが打ち出された。
ネットワーク運用に関係するのが「Cisco Networking Cloud」だ。昨年(2023年)のCisco Live!で構想が発表された、あらゆるネットワーク製品の管理を一元化するクラウドサービスである。高橋氏は「オンプレミスとクラウドの運用モデルをサポートするプラットフォーム」であり、「Ciscoのネットワーク関連製品戦略の中核をなす」と説明する。
すでに、Catalyst製品(スイッチ、アクセスポイントなど)のクラウド監視をシングルサインオンで実装しており、ThousandEyes、Cisco Secure Access」なども統合した。6月のCisco Live!では、AI活用をさらに進める方針や、「Secure Networking」の統合、運用のシンプル化などの機能が発表された。
今後の開発指針としては、(1)AIネイティブのオペレーション、(2)デジタルエクスペリエンスのアシュアランス、(3)エンドツーエンドのセキュリティ、(4)AI対応インフラ、の4つに基づき開発を進めていくという。
日本市場でも、デジタルエクスペリエンスの最適化、Secure Networkingの2つに注力する。中でもSecure Networkingについては、「Cisco Secure Connect」をSASEエンジンとして組み込む。これにより、「Networking CloudとSecurity Cloudが連携し、統一したSASEファブリックを提供できる」と高橋氏は説明する。
またAIアシスタントも導入し、Secure Connect環境のレポーティングとトラブルシューティングをシンプルにするという。
このように、SASEを統一化し、「Catalyst SD-WAN」やSecure Accessの統合ソリューションにも加えていく。「(顧客は)単一ベンダーによる統一化されたSASEアーキテクチャを選択できる」(高橋氏)。
なお、Catalyst SD-WANとMerakiのSD-WANの相互接続も発表された。これにより「IT部門はロケーション固有のニーズに合うSD-WANを選択できる」(高橋氏)という。
これらに加えて、運用作業のワークフローを自動化する「Workflows」も発表された。無線アクセスネットワーク、SD-WAN、データセンターを含む、複数のシスコおよびサードパーティのドメインにまたがるプロセスを、これまでのように時間をかけて手動で行うのではなく、中央で自動化することで運用性を向上できるという。
クラウドインフラ、セキュリティでも新発表が次々に
このほか、クラウドインフラ&ソフトウェアでは、NVIDIAとの提携で実現したAI向けデータセンターインフラソリューションとなる「Cisco Nexus HyperFabric AI Cluster」などが紹介された。セキュリティでは、次世代のSSEと位置付ける「Cisco Secure Access」の進捗などが報告された。
今年3月に買収完了したSplunkについては、「さまざまなテレメトリをSplunkで一極に集めて分析するのではなく、シスコ側のリソースで分散的に分析を行っていく」とセキュリティについて説明した石原洋平氏(シスコシステムズ 執行役員 セキュリティ事業担当)は説明した。
CiscoのXDR、Catalyst Center、APM(アプリケーション性能管理)の「Cisco AppDynamics」、Thousandeyesなどで処理されたものとSplunkを連携させることで、「インフラとアナリティクスを有機的に結合して、顧客側で実装できるような支援をしていく戦略」とした。