“プラットフォーム”をキーワードに変貌を遂げる老舗ネットワーク企業
インターネットブームを支えたシスコ、AI時代の新たな役割は? ― 幹部の言葉をひもとく
2024年11月22日 17時30分更新
シスコ(Cisco)は、2024年11月10日~14日、オーストラリアのメルボルンで「Cisco Live!」を開催した。ルーターとスイッチで1990年代後半のインターネットブームを支えた同社は、「AIでも同じ役割を果たす」と意気込む。イベントでの幹部の話から、シスコの最新戦略をまとめる。
「プラットフォーム」をキーワードに変革を進めるシスコ
通信機器で知られるシスコは、クラウドを経たAI時代の今、いったいどのような戦略をとっているのか。
戦略を読み解くキーワードは、シスコジャパンが7月の発表会で口にした「デジタル体験」だ(参考記事:シスコ“Catalyst+Meraki”事業統合へ、新戦略は「デジタル体験」)。シスコはネットワークエクスペリエンス事業部を新設して、オンプレミスの「Catalyst」とクラウド管理型の「Meraki」、この2つのネットワーク製品の統合計画を進めた。
そして、今回のCisco Live !で発表された「Wi-Fi 7アクセスポイント」は、クラウドとオンプレミス共通で、ひとつのライセンス、ひとつのプロダクトID、ひとつサポートモデルで設計されている。
このような“体験の重視”について、アジア太平洋・日本・中国担当最高執行責任者(COO)であるフェルナンド・ヒル・デ・ベルナベ(Fernando Gil De Bernabe)氏は、「顧客のニーズに応えるためだ」と説明する。
そして「例えばセキュリティ。3~5年前なら、企業は、カテゴリーごとに最高クラスの製品を選んでいた。そうやってバラバラな製品を購入したが、連動しないために脅威への対応が改善されない。プラットフォームごとの運用も必要になる。このような背景から、セキュリティを単一のソリューションとして導入したいという声が増えた」と補足した。これは、本格化しつつあるAIでも同じだという。
このような顧客側の変化に対し、シスコは「組み合わせることで強くなる(together stronger)」(デ・ベルナベ氏)という言葉を掲げ、ネットワークにセキュリティを組み合わせたプラットフォーム戦略を進めている。
2023年にシスコに戻ってきたという、同社のシニアバイスプレジデント セキュリティビジネスグループ担当ゼネラルマネージャであるトム・ギリス(Tom Gillis)氏は、同社の変化として「製品開発のアプローチ」を挙げる。「以前は、各ドメインで最高の製品を構築していた。だが現在は、プロダクト開発組織をひとつにし、統合を最優先にしている。各ドメインにまたがるプラットフォームのアプローチを進めている」と説明する。
その成果と言えるのが、セキュリティの「Cisco HyperShield」、AIインフラの「Nexus HyperFabric AI クラスタ」、「AI PODs」など、この1年で発表した製品だ。
HyperShieldは、コンテナ技術とAIを利用して、ソフトウェアベースでクラウドやオンプレミスの分散環境を保護する新しいコンセプトの製品。
Nexus HyperFabric AI クラスタは、NVIDIAとの提携により、NVIDIAのGPU、DPUベースのCiscoコンピューティング、「Cisco 6000」シリーズのスイッチ、VASTデータストレージ、NVIDIA AI Enterpriseなどを組み合わせたソリューションだ。AI向けのデータセンターインフラを迅速に導入でき、クラウドで管理できる。
AI PODsは10月末に開催したパートナー向けイベントで発表したばかりの新製品で、シスコサーバーやスイッチと検証済みの外部技術を組み合わせたAIインフラスタック。第一弾として推論ユースケースを発表している。
また、企業買収が多いことで知られるシスコだが、ギレス氏によると現在は「(どこを買収するかよりも)社内のオーガニックなイノベーションと製品開発にフォーカスしている」という。
この1年間で買収したのは10社程度。その中には、買収額が280億ドル(4兆円超)に及んだSplunkも含まれる。Splunkは買収が完了するや、シスコのアプリケーションパフォーマンス管理の「AppDynamics」をSplunkの「Observability Cloud」と統合したり、シスコのSecurity Suiteの脅威インテリジェンスにおいて、「Cisco Talos」とSplunkを統合している。こうした急ピッチの統合も「社内開発にフォーカスしているからこそ実現できる」とデ・ベルナベ氏。