Windows 10での進化点として話題になったTimeline
そのベースとなっていたProject ROME
2週間ほど前、Windows 11 Ver.23H2を使っていると、CrossDeviceService.exeのCPU占有率が常時20%ほどと高くなった。現在のOS ビルド、22631.3737(KB5039212)では収まっているようだが、20%となるとバカにできない負荷でファンの音で気がついた。単なるバグだと思われるが、バグが加わるということは、このプログラム、もしくは関連する部分に何らかの修正があったと推測できる。
Microsoftの「クロスデバイスエクスペリエンス」とは、かつてのProject ROMEのことである。Project ROMEとは、Microsoft Graphに「デバイス」と「アクティビティ」の情報を追加するもの。デバイス間でのアクティビティの継続(デバイスリレー)や通知、近距離通信、共有クリップボードなどを実装する基礎となった。
2017年にWindows 10 Ver.1709(Fall Creators Update)で、導入されたWindows Timeline(「Windows 10の次期アップデート、Fall Creators Updateでの重大な進化点とは?」)が、一番の成果だったが、3年ほどで終了してしまった。ただ、同じProject ROMEを使う共有クリップボードや近距離通信は残った。また、スマートフォン連携などでも使われている。
このCrossDeviceService.exeは、たとえば、スマホをWebカメラにする機能(「WindowsでAndroidスマホをWebカメラにする機能を試した」)などでも使われている。
設定の「Bluetoothとデバイス」→「モバイルデバイス」で、スマートフォンを登録するときなどにこのプログラムが起動する。Windows Timelineが終了して、Project ROMEも鳴りを潜めていた感じがあったが、内部的には利用されていたわけだ。
Project ROMEは、Windows Vistaの頃から、マイクロソフトが構想してきた、Windowsとそれ以外のデバイスの連携をするための構想の一部として登場した。Vistaの頃に計画された「.NET My Servies」(コードネームHailstorm)は断念されたが、その一部がMicrosoft Graphとして実装された。このあたりの経緯については、過去記事(「Fall Creators Updateに搭載される機能は十数年越しのマイクロソフトの構想」)も参照してほしい。
Windows Timelineは、Windowsマシンで実行した作業(アクティビティ)をクラウド側に記録し、別のマシンで作業を継続する(デバイス・リレー)ときの、ユーザーインターフェースでもあった。
サードパーティー製アプリがProject ROMEのAPIに対応せず
結果的にTimelineは3年で終了してしまった
このときの構想では、Timelineとは別に「通知」(Microsoft Graph通知)を使うことで、別のマシンに切り替えたユーザーに作業継続が可能であることを知らせることもできた。当時はCortanaが通知する予定だったが、Microsoft Graphの通知機能は廃止された(Azureの機能で同等のことができる)。こうしたデバイスをまたがったアクティビティの実行を、「Pick Up Where You left off(中断したところから開始)」と呼び、Fall Creators Updateの目玉の1つだった。
しかしそのためには、アプリケーションがProject ROMEのAPIを使う必要があった。Project ROMEでは、複数のデバイス間での文書ファイルなど、アクティビティで扱うファイルなどを共有できなければならない。ユーザーがデバイスを移動させたとき、必ずしも前のデバイスでアプリケーションを終了させて作業中のファイルを解放するとは限らない。むしろ、そのままの状態でデバイスを切り替えることも少なくない。
となると、対応するアプリケーションは、同一文書ファイルを複数箇所から同時編集できなければならない。Excelなどには、そうした機能が搭載されたが、通常のサードパーティ製アプリケーションに組み込むのはかなり荷が重い作業だ。そういうわけで、デバイスリレーによるアクティビティの機器間での継続は、Excelなど一部のMicrosoftのアプリケーションでは可能になったが、それ以上には広がることはなかった。
Windows Timelineが3年ほどで終了したのには、こうした背景がある。Project ROMEのAPIはWindowsに組み込まれたが、一部の機能だけがWindowsで使われているだけだ、そう思っていた。
しかし、ここにきて、ちょっと気になることがある。まず、スマートフォン連携にあるフォト機能に文字認識機能が入った。すでにSnipping Toolにも文字認識機能が入り、ペイントの背景分離機能などと同じく、AI応用技術をWindows標準搭載アプリに広げている動きの一環であるかのように見える。
Copilot+PCに搭載されるRecallなど、ユーザーがWindowsした作業をAIで分析して、検索可能にするという方向性を考えると、たとえば、スマートフォンで撮影した写真や過去に見たWebページ、SNSへの投稿やチャットの会話などもWindows側で自然言語による検索をするという可能性も考えられる。
Project ROMEで実装されたデバイス間の連携機能を活用
デバイスを跨いでAIによる処理を可能にする可能性
つまり、Project ROMEで実装されたデバイス間の連携機能を使い、ユーザーが連携させたデバイスすべてで、AIによる処理を可能にできる可能性がある。そもそも、Microsoft Graphとは、ユーザーのファイル(OneDrive)やOffice文書、メール(Outlook.com)などを一定の手順でアクセ可能にし、さらに企業内などの組織単位で共有を可能にしたものだ。AIの情報源としてはうってつけであり、当初から「Insight」などの表現で、AI的な処理がうたわれていた。
Project ROMEも、マイクロソフトのUWP(Universal Windows Platform)構想に引っ張られていた。Windows 10では、UWPでアプリケーションを開発することで、スマートフォンなど他のプラットフォームのアプリケーションが同時開発になるという構想があった。しかし、実際には、これはうまくいかず、結局Project ReunionのようにWin32アプリを含めて、Windows全体の戦略を考えざるを得なくなった。
Project Reunionは、Windows App SDKとして、すでに正式リリースされている。Project ROMEも仕切り直しの上、新たな道を歩むことにしたのではないか? UWPをベースにしたマルチプラットフォームアプリを作ってスマートフォンで動かすより、マイクロソフトの「Windowsにリンク」経由で、スマートフォン側の情報を入手(もちろんユーザーの許諾は必要だろうが)して、これをWindows側でAIに分析させるわけだ。
現在のスマートフォン連携では、Galaxyなどの特定機種のみ、スマートフォン画面をPCに表示して、ファイルやクリップボードの共有などができる(「Windows 11のスマートフォン連携は新機能が追加されるなど、いまだ進化している」)。だが、こうした機能は、Androidアプリケーションの表示は必須ではない。
現状、機種にかかわらずAndroidマシンの画像ファイルをWindows側に共有できるのだから、そのほかのファイルも共有できない理由はない。同様にAndroidでもEdge経由でWebアクセス関連の情報をWindows側と共有できる。
次のWindowsでは、スマートフォン連携を含め、デバイス間連携に大きな変更が入る可能性があるのではないか? なんかねぇ。Project ROMEの巻き返しって、「(ローマ)帝国の逆襲」的な感じがして、スターウォーズの帝国のマーチが聞こえてくるような気がする。さて、どうなりますか。
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