2024年3月12日、LINE WORKSは事業戦略説明会を開催。LINE WORKSの今後の方向性はもちろん、2024年1月の社名変更やそれに伴うリブランディング、LINE AIの事業統合による製品戦略などを披露。また、信頼されるブランドを目指し、セキュリティやデータプライバシーの取り組みに関しても説明された。
ノンデスクユーザーのモバイルツール 導入は46万社を突破
LINEとつながるビジネスチャット「LINE WORKS」。LINEの使い方を踏襲した「法人向けグループウェア」を謳っており、1つのアプリにトーク、掲示板、カレンダー、タスク、アンケート、アドレス帳などさまざまな機能を統合。ノンデスクワーカーを前提にしたモバイルでの使い勝手に強みを持つ。事業戦略説明会に登壇したLINE WORKS 代表取締役社長 兼 マーケティング本部長の増田隆一氏は、「他社と比べられるが、われわれはUI/UXの会社だと思っている。PCを使わないノンデスクユーザーが、モバイルで使えるよう最適化している」とアピールする。
LINE WORKSの最新の導入社数は46万社、利用ユーザーは500万人を超えた。導入社数の拡大を受け、社内のみならず、社外のLINE WORKSユーザーとつながるB2Bの外部連携が増え、およそ130万人がLINE WORKS同士でつながっているという。また、顧客のLINEとつながるB2Cの連携も拡大しており、全LINEユーザーのおよそ1/3にあたる約2700万人がLINE WORKSとつながっている。さらに連携ソリューションも増え、現在は安否確認、営業・顧客支援、来客受付、出退勤管理、Web電話帳、AIチャットなど170ものサービスとの連携が可能になっている。
現在LINE WORKSは30人まで使えるフリープラン、ユーザー数無制限、1TBのストレージ容量を利用できる月額450円のスタンダードプラン、100TBのストレージ、メールとDriveまで利用できる月額800円のアドバンストプランが提供されている。「マクドナルドのビッグマック単品の価格でスタンダードプラン、セットの価格でアドバンストプランが利用できる」と増田氏はアピールする。
LINE WORKSの組織についても説明された。まず運営会社であるワークスモバイルジャパンは、2024年1月にLINE WORKSへと社名変更。これは親会社である韓国のワークスモバイルがNAVERグループのB2B事業を担うNAVER Cloudに統合されたのを受けたものだという。現在、LINE WORKSの資本構成はNAVER Cloudが78%、LINEヤフーが22%という割合になっている。
また、昨年はLINEのAI事業であるLINE CLOVAが吸収分割で事業統合。LINE WORKS単品を提供する企業から、OCRやチャットボット、画像認識などのAI製品を含む複数プロダクトを展開する企業となっている。
複数プロダクトを前提とした基盤構築とAIの組み込み
社名変更や組織・サービスの変更を経て、LINE WORKSでは昨年から今年にかけていくつかの取り組みを進めている。この1つがリブランディングだ。
社名がLINE WORKSになったことで、同社は現在1つのブランドでコーポレートブランドとプロダクトブランドを使い分ける必要が出てきた。そのため、両者のメッセージはこれまで変わらないものの、プロダクトブランドに関しては、5月のバージョンアップを機に「Wアイコン」が新たに追加されることになる。
このWアイコンは、従来から提供してきたコミュニケーション&コラボレーションを意味する「CONNECT」の緑に加え、AI活用による生産性向上を意味する「BOOST」の紫、これらを安全に提供する「TRUST」の青という3つのパーツから成り立つ。ロゴの形状もCONNECTとBOOSTをTRUSTが支える形で「W」が構成されている。発表会では、この3つの構成要素に従って今後の事業戦略が明らかにされた。
まずCONNECTが提供するLINE WORKSに関しては、複数機能を統合した従来の単一アプリをコンポーネント化。マルチプロダクトを前提とした共通基盤と統合ログイン環境を整備しつつ、将来的にはビデオ会議やDriveなどを別アプリで提供していく予定。また、コンポーネント化によって技術革新が著しいAI領域を個別に進化させることが可能になるという。
BOOSTを実現するAIに関しては、昨年LINE WORKSの操作をサジェストしてくれる「AI秘書」を発表していたが、現在も開発は進んでいる。「どうすればお客さまの役に立つのか、正直見極められていない。この状態でいたずらにAIを実装するのはリスクがある」(増田氏)とのことで、間もなく発表されると言われているAIに関する政府方針にのっとった実装を進めるという。
具体的には複数のLLMを選択できるマルチLLMを前提に、AI秘書のような汎用AI機能、そして業務に特化したAIソリューションを開発していく。また、ノーコードでLLMアプリケーションをLINE WORKSに展開できるようにするCoWorks Projectも展開。さらに、5月のバージョンアップでは、ビジネスチャットでは解決できない現場の課題に対応すべく、トークと音声を同期させることでハンズフリー・アイズフリーのコミュニケーション手段を導入する予定。こうしたLINE WORKS自体の機能強化ともに、おもに定型業務の分野でパートナーとの協業も進め、「はたらくすべての人にとってのビジネス基盤」を目指すという。
昨年統合されたLINE AIのプロダクトについても説明された。LINE AIは画像・文字認識など世界最高水準の認識精度を実現している分野も多く、現在は音声ボット、OCR、画像認識の3つのプロダクトとして展開されている。自然な対話応答を実現するLINE WORKS AiCallは、ヤマト運輸の集荷受付に導入されており、月100万件の入電の約8割をAIが対応している。また、認識精度の高さを売りにするLINE WORKS OCRは、インボイス制度での業務負荷増加に対応する弥生のスマート証憑管理で採用されており、請求書や領収書、レシートなどにOCRを特化させることで高い効率を実現したという。
信頼を犠牲にしてまで、新しい技術を取り入れるのか?
そして、特に重視するのは安心・安全なサービスを提供するためのTRUSTの分野だ。法人ユーザーが利用するサービスには、やはり信頼性やセキュリティ、データプライバシーなどが重要になる。これらを対外的に明示するため、第三者機関による認証やセキュリティの取り組みを対外的にアピールしていくという。
LINE WORKSではすでにSOC2/3、ISO/IEC 27001、27017、27018、27701などの認証を取得しているが、2024年には越境プライバシールールであるAPEC CBPRの取得を予定する。また、4月にはセキュリティホワイトペーパーを発刊。100ページを超える同ホワイトペーパーでは、導入時にユーザーが確認したい要点を網羅し、理解と納得を醸成する。「SaaSは相手を信頼できないと使ってもらえない。だから、むしろこちらから歩み寄り、みなさんに理解してもらうつもり」と増田氏は語る。
前述したCONNECTとBOOSTを支えるこのTRUSTの分野は、AIの実装より優先度が高い取り組みになるという。「信頼を犠牲にしてまで、新しい技術を取り入れるべきなのか? 私はそうとは思っていない。『LINE WORKSなら信頼できそうだ』というブランドを醸成していきたい」と増田氏は想いを語る。