RISC-V財団からRISC-Vインターナショナルへ
スタッフの増強より大きな動きは、RISC-V財団からRISC-Vインターナショナルへの鞍替えである。2019年に入ってから、RISC-Vコミュニティ内で「RISC-V財団は今のままで存続が可能か?」という議論がかなり活発になってきた。きっかけは言うまでもなく、連載747回で説明した米国によるHuawei(中国)への締め付けである。最終的に撤回されたとはいえ、一時はArmのコアをHuaweiが利用することを禁止する騒ぎになった。
これを対岸の火事として見るのは正しくなく、いつ矛先が自分たちに向けられても不思議ではない、という認識を財団のメンバーは持つに至った結果である。なにせ時期が悪かった、というのはトランプ政権の時代なので、どんな難癖がつけられるかわかったものではない。
実はこれ、2019年のRISC-V Days Tokyoの折に直接Redmond氏に尋ねたことがあるのだが、「そもそもRISC-Vの命令セットはRISC-V財団に寄与されており、しかもRISC-V財団は非営利組織で、かつRISC-Vの命令セットを無償で公開している。そのため、仮に輸出制限がかかったとしても我々には影響ない」というのがその時の返事であった。
ただこれは建前であって、例えば「米国の非営利組織が、他国が不当な利益を得る手助けをしているのはまかりならん」など文句を付けられたあげく(これは後で実際にそうなった)、財団の活動が制限されたりするような事態に陥らない、という保証はどこにもない。
さらに言えば、他の国に拠点を置けば安心か? といえばそうとも限らない。今は安全でも、政権が交代したら言ってることがひっくり返った、なんてことは歴史を振り返ると枚挙にいとまがない。
ではどうするか? について財団の中でずいぶん議論したところ「相対的に一番妥当な選択」として、拠点をスイスに移動することを決定した。RISC-V財団の歴史ページに、"Future Transition"という項目がある。ここではRISC-V財団が今後目指す方向性をまとめたもので、まずメンバーシップのグレードと金額を変更するとともに、プログラミング環境に投資することを前提に、具体的に財団が用意するプログラミング環境向けの取り組みをまとめている。
さらに取締役会の構成を変更し、新たに技術常任委員会を設けてここが仕様の取りまとめなどを行なう方向性を示している。そして3つ目が"Switzerland incorporation alleviates geo-political uncertainty and reduces the likelihood of competing RISC‑V standards"(スイスに移転することにより、地政学的な不確実性とRISC-Vスタンダードへの介入の可能性を減じる)という項目が追加されている。
この話が最初に出たのは2018年12月に開催されたRISC-Vサミットの折だそうで、中立国に拠点を移さないといけないほどに命令セットが危機的なものになりつつあることを、すでに参加者は感じ取っていたのだろう。
こうしたこともあり、2020年3月末にRISC-V財団はRISC-Vインターナショナルに鞍替えする。もちろんこれそのものは法人格の変更だけの話であって、これでなにか変わったわけではないが、前述のように法人格の変更に合わせてもろもろの仕組みを大幅に変更した。
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