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AI利用のプロコードツール、ベクトルエンジン対応、AIアプリ向けの技術基盤を2024年Q1に向け順次展開

SAP環境での生成AIアプリケーション開発の入り口に ― SAPジャパン、開発者向け新機能

2023年11月29日 10時00分更新

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp

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 SAPジャパンは、2023年11月28日、生成AIを活用したアプリケーション開発を支援する新機能の詳細と国内展開について説明した。

 新機能は、生成AIを活用したプロ開発者向けの生産性向上ツール「SAP Build Code」、SAP HANA Cloudの「ベクトルエンジン」対応、AIアプリケーション開発のための技術基盤である「AI Foundation」の3つで、11月初旬にインド・バンガロールで開催された「SAP TechEd 2023」で発表された機能だ。

 SAPが推進する「SAP Business AI」のアプローチにおいて、生成AIアシスタントである「Joule」や各SAP製品の組み込みAI機能、パートナーのAIエコシステムに加えて、新たに開発者向けの技術基盤であるAI Foundationが加わる形となる。SAPジャパンのビジネステクノロジープラットフォーム事業部 事業部長である岩渕聖氏は、「AIを提供するのではなく、AIを活用したアプリケーションを発展させるべくAI Foundationをリリースする」と強調する。

SAP Business AI ソリューションのアプローチ

SAPジャパン ビジネステクノロジープラットフォーム事業部 事業部長 岩渕聖氏

 デジタルアシスタントであるJouleが、SAPソリューション全体にわたり“横軸”で生成AIによるUXを展開し、SAPの各アプリケーションに組み込まれたAI機能が、“縦軸”でビジネスプロセスに生成AIを取り入れる。そして“ベース”としてAI Foundationが生成AIを活用したビジネスアプリケーションの開発を支援することで、SAP Business AIの戦略を推し進めるという。

 「この戦略を実現していく上で、SAP Build Code、HANA Cloudのベクトルエンジン、AI Foundationが大きな軸になる」とSAPジャパン カスタマーアドバイザリ統括本部 BTPアプリ開発・インテグレーション 部長 本名進氏は説明する。

SAPジャパン カスタマーアドバイザリ統括本部 BTPアプリ開発・インテグレーション 部長 本名進氏

生成AIでプロ開発者の生産性を向上させるSAP Build Code

 昨年発表された「SAP Business Technology Platform(BTP)」のローコード・ノーコードの開発ツールである「SAP Build」を進化させたのがSAP Build Codeだ。SAP Buildが市民開発者向けなのに対し、SAP Build Codeはプロフェッショナルな開発者を対象とする。

SAP BTPのアプリケーション開発環境、SAP Build Codeによりプロコードまでをカバー

 SAP Build Codeの特徴は、デジタルアシスタントJouleのAIコード生成により開発が高速化される点、SAP BTPを基盤とするためテンプレートやコネクターなどSAPソリューションを開発するための多様な機能が利用できる点、SAPの開発ツール間でのフュージョン開発が強化される点だという。

 SAP BTP上でのアプリケーション開発を支援するフレームワーク「Cloud Application Programming Model(CAP)」をベースにJouleがコード生成するため、データモデルからAPI、さらにはUIまで自動生成できる。さらにSAP Build Codeでは、ランタイムや認証、ロギングなど開発に必要なサービスがワンパッケージで用意される。

SAP Build Codeで実現する開発環境

ハルシネーションを問題を軽減するHANA Cloudのベクトルエンジン対応

 続いての新機能は、SAP BTPのデータベース管理基盤であるSAP HANA Cloudのベクトルエンジン対応だ。

 生成AIの根幹は“類似性検索”であり、ベクトルエンジンでは、テキストや音声、画像といった非構造データを、類似性を判断できるようベクトル化(数値化)して保存できる。

類似性検索に必要なベクトルエンジン対応

 ベクトルエンジンにより、HANA Cloudに保存されている自社の独自のデータを生成AIで活用するRAG(検索拡張生成)が構築でき、汎用的な大規模言語モデル(LLM)の抱えるハルシネーションの問題を補うという。

 例えばHANA Cloudにチャットアプリが搭載されている場合、ユーザーが質問を投げると、まずHANA Cloudのベクトル化された自社データに対して問い合わせが走る、問い合わせ内容にもっとも近いデータがLLMに渡され、その情報をもとにLLMが回答を返すといった流れをとる。

ベクトルエンジンによるRAGの構築

AIアプリケーション構築のワンストップショップであるAI Foundation

 最後に紹介されたのが、ここまでの新機能を支える基盤となるAI Foundationだ。AI CoreやAI Launchpadといった既存の機械学習向け機能に、新たに生成AI向け機能を追加した「Generative AI Hub」を備える。Generative AI hubやAIサービス、AIランタイム、ライフサイクル管理といった、SAP BTP上でAIを活用したアプリケーションを構築するために必要な機能を統合した技術基盤となる。

 「AI Foundationは、HANA Cloudのベクトルエンジンにもアクセスでき、SAPの世界で生成AI、AIのアプリケーションを開発する入口になっている。汎用的なLLMだけではなく、SAP独自やユーザー自身で開発したAIモデルを活用するためのAI基盤」と本名氏。

SAP BTP上でのAIアプリケーション構築を支えるAI Foundation

 また、これらのサービスを実際に活用するために、アーキテクト向け、開発者向け、管理者向けといった各ロールごとの包括的なガイダンスである「SAP BTPガイダンスフレームワーク」も展開される。

SAP社内で組織を超えたAIのイニシアチブ化を推進

 今回発表された、SAP Build Code、HANA Cloudのベクトルエンジン対応、AI Foundation(Generative AI Hub)は、2024年のQ1にまでに順次一般提供される。

Techedで発表された各機能の提供予定

 SAPジャパンは、これらの開発者向けプラットフォームを、既存のパートナーを軸として国内市場に訴求していく。SAP BTPやHANA Cloudを活用するユーザーに向けて、具体的なユースケースを提示していくとともに、「社内にAIの担当部署を置くのではなく、組織を超えてAIをイニシアチブ化していきたい」と岩渕氏は抱負を述べた。

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