このページの本文へ

マイクロソフトとの提携発表、ソリューションへのAI技術組み込み方針、リスキリングへの対応など

生成AIは人材管理業務をどう変えるか? 「SAP SuccessFactors」幹部に聞く

2023年08月16日 08時00分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp 写真● 曽根田元

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 今年(2023年)5月に米国で開催された「SAP Sapphire 2023」において、SAPは「SAP Business AI」ビジョンを発表し、各種SAPソリューションに生成AI(ジェネレーティブAI)を中心としたAI技術を組み込んでいく方針を明らかにした。そのうちのひとつとして、人事/人材管理SaaS「SAP SuccessFactors」では、生成AI活用に関するマイクロソフトとの新たな協業も発表している。

 発表文の中でSAPは、SuccessFactorsで生成AIを活用することで「人材の需給ギャップ解消を支援」していくと述べている。具体的にどのような機能を提供し、どのような目的を達成しようとしているのか。

 今回は、SAPのアジア太平洋、日本(APJ)地域でSuccessFactorsを担当するSVPのアンジェラ・コラントゥオノ氏、SuccessFactorsでデータ&アナリティクス プロダクト管理担当VPのステイシー・チャップマン氏に、生成AI機能の追加で実現されるもの、さらに日本市場における最新のビジネス戦略などを聞いた。

SAP APJ SVP & Head of SAP SuccessFactorsのアンジェラ・コラントゥオノ(Angela Colantuono)氏(左)、SAP VP Data and Analytics Product Management for SuccessFactorsのステイシー・チャップマン(Stacy Chapman)氏(右)。東京・大手町のSAP Japan本社にて

社員のスキルから興味までを統合し、AIが企業側ニーズとマッチングする

 5月に発表されたマイクロソフトとの協業では、SuccessFactorsと「Microsoft 365 Copilot」や「Copilot in Viva Learning」、さらに「Azure OpenAI Service」との統合による大規模言語モデル(LLM)へのアクセスを通じて、企業の採用活動や社員の学習活動を効率化することが狙いだと発表している(提供開始は2023年中の予定)。

 たとえば採用活動を支援する「SuccessFactors Recruiting」では、採用担当者に対して生成AIが、企業が応募者に求めるスキルや属性を記すジョブディスクリプション(職務記述書)の作成を支援する。ほかにも、面接官には候補者の履歴書や職務経歴に基づいた質問内容も提供する機能も予定しているという。学習管理では、SuccessFactorsのデータや学習コースに基づいて、個々の社員のキャリアや目的に応じてパーソナライズされた学習推奨事項を提案するとしている。

生成AIによるジョブディスクリプションの作成支援機能。採用担当者の簡単なメモ(左)に沿って、文章を自動生成する(右)。内容に偏りがある場合も自動的にチェックし、指摘するという(画像はSAPブログより

 チャップマン氏は、技術的観点から見て「大きく2つのレベルでAI活用を実現しようとしている」と説明した。

 1つめはユーザーインターフェース周りの改善、「“人間味のある”対話の実現」だ。Microsoft 365やViva LearningのCopilotに対して、自然言語での問い合わせ(クエリ)や応答、さらに文章の自動生成などが可能になる。

チャップマン氏

 もう1つが、SuccessFactorsが新たに搭載する「タレント・インテリジェンス・ハブ(Talent Intelligence Hub)」が保持する社員のデータを、AIが詳細に分析して学習支援や社内でのジョブマッチングに役立てるというものだ。

 タレント・インテリジェンス・ハブは、社員のスキル(スキルオントロジー)、コンピテンシー、能力、興味や意志、ワークスタイル、学習嗜好、また企業側が求めるスキルといった幅広い情報を統合/整理するデータハブである。社員個々人が自分のスキルを包括的にチェックできるだけでなく、企業側のニーズも含めてAIが分析を行い、社員に新たなスキル学習や新たな役割へのチャレンジを促す(レコメンデーションする)ことに役立てる。

 「AIによる詳細な分析によって、多くの社員は今まで自分でも気づかなかった成長機会や可能性を発見することができる。さらに、AIは『企業側がどんなスキルを必要としているのか』と『社員が何を志し、希望しているのか』という双方のニーズを推し量り、バランス良くマッチングさせることも可能だ。こうしたことは、人間の採用担当者だけではなかなか難しかったと言えるだろう」(チャップマン氏)

タレント・インテリジェンス・ハブの概要。社員個人の属性情報、スキル、興味や意志などを含めて統合するデータハブ

タレント・インテリジェンス・ハブの画面例。社員側でもスキルが実践できるプロジェクト、新たな役割への社内公募などのパーソナライズされた情報が見つかる

 もっとも、AIは与えられたデータによってのみ判断するため、自動収集されたデータから自動で判断する――といった仕組みでは誤った判断も行いかねない。タレント・インテリジェンス・ハブでは、幅広い情報を収集すると同時に、人間(社員自身や人事担当者)も介在する仕組みを備え、そうしたリスクを回避するとチャップマン氏は強調した。

 「タレント・インテリジェンス・ハブは、SuccessFactors以外のシステムからも情報を収集できる。たとえば『社員個人がこんな場面でスキルを発揮できた』といった情報は、実は人事システムには入っていないことも多い。さらに興味関心や志、希望といった情報も、AIとの自然言語による対話を通じて、個人の側から申告してもらう必要がある。これを実現するためには、社員のAIに対する信頼、AIとのエンゲージメントの醸成が欠かせないだろう」(チャップマン氏)

タレント・インテリジェンス・ハブは、従来から備えるジョブ・プロファイル・ビルダー(JPB)に加えて、社員個人の「属性ライブラリ」「成長ポートフォリオ」「スキルオントロジー」といった情報も統合して、より多面的に社員個人をとらえる(画面はSAPブログより

生産性と社員エンゲージメントの向上、リスキリングへの興味が強い日本市場

 このインタビュー直前には、東京で企業経営層や人事担当役員を対象としたカンファレンスイベント「HR Connect 2023」を開催し、500名以上の参加者が集まったという。また、インタビュー前日には国内顧客企業のアドバイザリーボードも開催しており、こうした場においても、生成AI機能の組み込みには強い関心が集まったという。

 「AI活用に対するお客様の関心は、まずはやはり『生産性を高める』ということがひとつ。それから『従業員のエンゲージメント、満足度を高める』ことにも注目が集まった。これらのバランスをどうやって取っていくのかが、人事担当役員の皆さんが気にされている部分だと感じた」(チャップマン氏)

 AI活用以外の部分でも、SuccessFactorsが提供する人事/人材管理のソリューションには日本の顧客から高い関心が寄せられたと、コラントゥオノ氏は説明した。

 「従業員のエンゲージメント向上に加えて、スキルの再習得、いわゆる『リスキリング』をどう進めるのかについても関心が高い」「市場の変化に対応したスキルを持つ人材が社内にいるのかどうか、それを知ることのできるソリューションにあらためて注目が集まっている」(コラントゥオノ氏)

コラントゥオノ氏

 日本市場におけるSuccessFactorsのビジネスは、過去4、5年にわたって高い成長が続いており、マーケットシェアも高いという。昨年(2022年)には日本にもデータセンターが設置されており、さらなる成長を期待しているとコラントゥオノ氏は述べた。

 「日本における成長戦略は、パブリックセクター(公共)、人事システムのオンプレミスからクラウドへの移行、そしてミッドマーケット顧客への浸透、という3本柱だと考えている」(コラントゥオノ氏)

 クラウド移行については、従業員に新しいエクスペリエンスを提供できる点、モバイルデバイスにも対応しやすい点、人事採用に関するベストプラクティスが盛り込まれている点、クラウドサービスという形態を通じて継続的にイノベーションの成果が享受できる点など、「総合的に考えてメリットが大きいと判断する顧客が増えている」という。

 短期間で成果を上げたいという“タイムトゥバリュー”意識が特に強いミッドマーケット顧客へのアプローチについては、HR領域のSuccessFactorsに加えて、ERP領域のパブリッククラウド版S/4HANA、経費/支出管理領域のSAP Concurなど、導入しやすい価格帯のクラウド製品ポートフォリオを展開しているといったSAPのメリットをアピールしていくと述べた。

■関連サイト

カテゴリートップへ

ピックアップ