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「他社より賢いAI」の背景を説明、クラウド事業が好調な日本市場への投資倍増計画も

SAP新発表、生成AIアシスタント「Joule」の強みは? CEOクライン氏が語る

2023年10月03日 15時20分更新

文● 大塚昭彦/TECH.ASCII.jp

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 SAPが2023年9月26日、自然言語を用いた新しい生成AIコパイロット(AIアシスタント)の「Joule(ジュール)」を発表した。今年5月の「SAP Sapphire 2023」で発表した「SAP Business AI」ポートフォリオを構成するサービスの1つとなり、今後はSAPの幅広いクラウドアプリケーションに組み込まれ、自然言語によるユーザーの問い合わせに応じて、SAPやサードパーティのデータソースに基づく分析やレポーティング、レコメンデーションを行うことになるという。

SAPが発表したAIコパイロット「Joule」の利用イメージ(Joule紹介ビデオより)

 10月2日には、SAP CEO兼エグゼクティブ・ボード・メンバーのクリスチャン・クライン氏が、Jouleに関するメディア向けの説明を行った。クライン氏はJouleの強みとして、SAPユーザー企業のビジネスデータを大量に学習した独自の基盤モデルとLLM(大規模言語モデル)を組み合わせていることを紹介した。

SAP CEO兼エグゼクティブ・ボード・メンバーのクリスチャン・クライン(Christian Klein)氏。SAPジャパン本社にて

「他社のAIコパイロットよりも賢い」顧客データを学習した独自モデル

 Jouleは、ビジネス/B2B領域におけるインサイト獲得やアクション実行の支援を目的としたAIコパイロット。発表によると、「SAP Business Technology Platform(SAP BTP)」だけでなく、人事から財務、サプライチェーン、調達、カスタマーエクスペリエンスといった幅広いクラウドアプリケーションに組み込まれて提供される。

 発表の中では、Jouleの利用例として2つのユースケースが紹介されている。たとえば、あるメーカーが販売実績データをよりよく理解したいときに、Jouleは業績不振の地域を特定したり、サプライチェーンシステムやサードパーティのデータセットに接続してサプライチェーンの問題を明らかにしたりすることで、潜在的な修正策を提示する。また人事部の業務においては、偏りのないジョブディスクリプション(職務記述書)や適切な面接質問を生成することを支援する。

 Jouleは生成AI技術を用いており、ユーザーが平易な言葉(自然言語)で質問を投げかけると、質問の意図を理解したうえで、レポーティングや分析、アクションのレコメンドといった回答を行う。参照するデータソースとして、SAPだけでなくサードパーティのクラウドソリューションも追加できるとしている。

 クライン氏は「Jouleがほかの(他社の)AIコパイロットよりも“賢い”理由」として、SAP Business AIのアーキテクチャに組み込まれた、SAP独自の基盤モデル(Foundation Model)存在を強調した。AIパートナー(Aleph Alpha、Anthropic、Cohereなど)の技術を用いた自然言語処理のための汎用LLM(大規模言語モデル)だけでなく、SAPが独自開発する「ビジネスプロセスに特化した基盤モデル」を組み合わせることで、“ビジネスを真に理解するコパイロット”を実現しているという。

 「顧客企業から収集する数十億のデータポイントに基づいて(学習させたSAP独自の基盤モデルによって)、取引のシミュレーション、企業間のベンチマーク比較、アクションのレコメンドといったものを実行できる。SAPのシステムには高品質なビジネスデータが大量に記録されており、(そこから学習した)SAP Business AIは“顧客のビジネスとの関連性が非常に深いAI”になるものと考えている」(クライン氏)

 さらに、SAPは世界に40万社の顧客企業があり、財務、サプライチェーン、人事といった基幹業務をSAPソリューションで処理しているため、「40万社のインサイトを使って、AIモデルをよりよくトレーニングできる」と強調した。

 なお、当然のことながらデータセキュリティ/プライバシーについても対策をとっており、データを収集するのは許諾を受けた顧客企業(SAPユーザー企業)からのみ。また収集時にはデータの匿名化を行うこと、さらにそのデータは各国内(日本ならば日本国内)にとどまるかたちであることなどを説明した。

SAP Business AIのアーキテクチャ(SAP Sapphireでの発表ビデオより)。自然言語によるユーザーの問い合わせや指示を汎用LLMが“翻訳”し、独自基盤モデルと顧客固有のビジネスデータに基づいた専門性の高い結果を生成する、というイメージだ

 SAPではJouleを同社クラウドソリューションへ順次展開していく予定。まず今年11月には「SAP SuccessFactors」と「SAP Start」で、「S/4HANA Cloud, public edition」で2024年の初旬から利用可能になるとしている。

日本市場でのクラウド事業は世界を上回るペースで成長、投資倍増も

 クライン氏は日本市場におけるビジネス拡大への期待と、大幅な投資増計画についても触れた。

 SAPにおけるクラウドへの転身戦略は順調に進んでおり、クラウド事業のグローバルでの収益は過去2年間で2倍以上に成長している。そして日本市場は、このグローバル平均を上回るスピードでクラウド事業を成長させているという。

 「ここで重要なのが『RISE with SAP』だ。お客様のクラウド移行をお手伝いするだけでなく、ビジネスモデルの変革を共に実現することを目標としている。たとえば自動車メーカーが電気自動車製造への転換と同時にモビリティサービスを展開したり、銀行がデジタルバンクに変革したり、といったことの実現を支援する」(クライン氏)

 クライン氏は、好調な日本市場のクラウドビジネスをさらに加速させる目的で、日本市場に対する投資を2倍に拡大していく計画を明らかにした。特に開発部門を強化し、イノベーションを加速させていくという。

 日本市場に関してはもうひとつ、顧客企業のサステナビリティに対する取り組みの支援も強化していきたいと話した。「S/4HANA Cloud」が備える「Green Ledger(グリーン元帳)」機能を活用することで、顧客企業単体(スコープ2)だけでなくサプライチェーン全体(スコープ3)の炭素排出量を計算、把握、可視化もできるとした。

 なおオンプレミス導入からのクラウド移行の促進については、SAP Business AIやGreen Ledgerといった最新技術/機能が、クラウド環境を前提としたもの(企業クラウド間のデータ連携を前提としたもの)であることを説明。「クラウドへの迅速な移行によって、日本が国全体でさらにアジャイルになり、競争力を確保することが非常に重要だ」と述べた。

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