半導体を巡って、国内の動きが活発だ。
2023年11月10日、政府は、2023年度補正予算案に半導体支援に半導体の国内生産を支援するため約1兆9867億円を計上した。
経済産業省によれば、半導体関連の補正予算案には3つの柱が建てられている。
●ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業等:6461億円
●先端半導体の国内生産拠点の確保:7652億円
●経済環境変化に応じた重要物資サプライチェーン強靱化支援:5754億円
この数ヵ月の半導体関連の動きをあらためて復習すると、大規模な補正予算の多くは熊本、北海道、そして宮城の半導体生産拠点を想定したものと思われる。
政府は、この補正予算案を10日に閣議決定する方針だ。
宮城に台湾大手の新工場
3拠点の中で、宮城県に関連する動きが最も新しい。
台湾のPowerchip Semiconductor Manufacturing Corporation(PSMC)が10月31日、ネット証券を主力とするSBIホールディングスとともに、同県大衡村(おおひらむら)に半導体工場を設置すると発表した。
半導体工場の立地が決まったのは大衡村にある、「第二仙台北部中核工業団地」だ。
仙台市の中心部の北約25km地点にある工業団地には、トヨタ自動車東日本という企業が本社と工場を置いている。
この会社のウェブサイトによれば、トヨタグループ17社の1社で、トヨタ車の研究開発・生産などを担う企業だ。
一方で、PSMCは台湾の半導体受託製造(ファウンドリー)企業で売上3位の企業だ。宮城の工場は、初めての海外生産拠点になるという。
SBIホールディングスのプレスリリースによれば、PSMCは「車載向け半導体需要の90%以上を占めるとされている28nm以上の半導体を高品質で安価・大量に生産するビジネスモデルのノウハウを有して」いるという。
工場予定地にトヨタ自動車東日本が本社を構えていることを踏まえると、PSMCは当面、トヨタを中心とした自動車メーカー向けに半導体を供給すると考えられる。
「補助金受領」が大前提
SBIのプレスリリースを読むと、次の一文で目が止まる。
「政府から一定以上の補助金を受領することを前提とし、上記予定地における半導体工場の建設に向けた基本合意書を締結いたしました」
この一文は、PSMCが、日本政府から補助金を受け取れない場合、宮城県に半導体工場は建設しないと解釈できる。
政府側から、新工場建設に対する補助金について、内々で合意を得たため、10月31日の発表に至ったと受け止めていいだろう。
この発表の直前、西村康稔経済産業大臣が、明言はしないものの、「経済対策の補正予算においても、半導体のサプライチェーン強靱化に向けた必要な予算をしっかりと確保したい」と述べている。
その10日後、政府は総額2兆円の半導体関連の補正予算案を閣議決定した。
こうした流れから、補正予算案の一部は、宮城工場への補助金を想定したものだと考えられる。
自治体の誘致合戦
宮城県の村井嘉浩知事は11月6日の記者会見で、PSMCの宮城進出について「とんでもない経済効果だと思います」と述べている。
新工場は、日本政府からの補助金や、SBIがファンドなどを通じて調達する資金などを合わせて、総額約8000億円の投資額になるという。
新工場で働く社員は、約1500人と見込まれている。
さらに、関連する企業が周辺に立地した場合、宮城県にもたらす経済効果はさらにふくれ上がる。
実際、北海道を拠点とする国産半導体メーカーのラピダスと、熊本に新工場を建設している台湾のTSMCの動きを視野に、中小の製造業者の動きも活発化している。
中小の事業者が相次いで、半導体を製造する装置の部品をつくるために必要な機械を購入するなど、関連する設備投資に動いているようだ。
「とんでもない経済効果」が見込まれるだけに、PSMCの日本進出をめぐっても、日本中で31の自治体が手を挙げたとされる。
村井知事は、さまざまな人脈を駆使して、SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長にアポを取った。
宮城県は、SBIやPSMC側からの様々な資料要求に応じ、激しい誘致合戦を制したという。
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