このページの本文へ

SAPがクラウドベンダーに転身するために必要なこと、米国「SAP Sapphire 2023」レポート

「クリーンなコア」の重要性―SAP CEOが描く新しいSAP

2023年05月25日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

 SAPが米国オーランドで2023年5月16日と17日に開催した「SAP Sapphire 2023」。ジェネレーティブAI(生成AI)領域でMicrosoftと提携するなど目を引く発表があった一方で、基調講演では「クリーンなコア」という言葉が繰り返された。クラウドへの転身が軌道に乗っており、事例も多数紹介された。

 今年のイベントテーマは「Future Proof」。将来にわたって使い続けられるシステムを構築する、という意味だ。

 同社CEOのクリスチャン・クライン氏は、1万人の来場者に向けて「創業以来50年以上、SAPは顧客と共に成長してきた。世界をより良い場所に、人々の生活をより良いものにするためにポジティブな変化を加速する技術という点で、われわれは理解を共有している」と述べる。

SAP CEOのクリスチャン・クライン(Christian Klein)氏

 Future Proofなシステムを実現するためには、“クリーンなコア”が重要だという。「ビジネスモデルとビジネスプロセスの変革なしにはSAPの変革はありえない。複雑で、標準ではないビジネスプロセス、ヘビーにカスタマイズされたオンプレミスのERPを変革する(クリーンにする)必要がある。COOとしての経験から開発したのが『RISE with SAP』だ」(クライン氏)。

 クライン氏は、レガシーERPからクラウドへ数年がかりのマイグレーション計画を進めた顧客が、リフト&シフトの間に多くのカスタマイズを行なった結果、カスタマイズとマイグレーションにソフトウェアの30倍のコストを費やした例を紹介した。「これは誰も嬉しくない。プロセスを標準化していないので、生産性は改善しない」(クライン氏)。これでは新しいビジネスモデルを動かすことはできず、新しい機能も容易に導入できない――そうしたシナリオを回避できるのがRISE with SAPだという。

 クリーンなコアに向けたジャーニーを支援するのが、プロセスマイニングの「SAP Signavio」だ。3万の顧客のベストプラクティスとデータのベンチマーク、洞察が得られ、「ビジネスプロセスの標準化のために必要な分析を行い、業界向けに設計された新しいビジネスモデルを数時間で導入できる」(クライン氏)。

エンドトゥエンドのプロセスマイニング「SAP Signavio」

 またRISE with SAPでは、きちんと成果を得られているか、標準にフィットしているかを支援するテクニカルエキスパートもセットとなる。

 RISE with SAPは、拡張や統合などの土台となる「SAP Business Technology Platform」を含んでおり、これを利用してクリーンなコアを保ちながら、必要な機能を加えることができる。

 そうやってクリーンなコアを整えた後には、AI、サステナビリティなど最新のイノベーションをすぐに得られる。土台ではAWS、Microsoft Azure、Google Cloud、Alibabaなどのハイパースケーラーなど提携しており、規模の拡大に合わせてスケールアップできると説明する。

 RISE with SAPに加え、SAPでは4月にSMB向け「GROW with SAP」も発表した。これは業界向けに事前設定済みのモジュールを用意しており、「数週間でCloud ERPをライブに(本番稼働開始)できる」という。

「GROW with SAP」の導入事例

 今回のSapphireでは、Signavioの強化点としてビジネスプロセス変換に要する時間を大幅に短縮できるようになったこと、ローコードソリューション「SAP Build」にエンタープライズ自動化機能が加わったことなどが発表された。

 デモでは、発注の65%が完了していない問題をSignavioを使って検出し、「SAP S/4HANA」にネイティブ統合された「SAP Build Process Automation」が事前構築済みのオートメーションを推奨し、それを実装することで問題解決する様子を見せた。

 デモではまず、発注処理時間が目標に達していないこと、自動化の比率が低いことなどが検出され、個々のプロセスの問題をドリルダウンで分析した。分析の結果、顧客の購買要求に資材コードが不足していたために処理ができなかったことがわかる。以前ならば、マニュアルでS/4HANA Cloudに新しい購買発注を作成する必要があったが、これをSAP Build Process Automationで自動化できる。Signavioが問題をトリガーすると、組み込まれたAIが過去の購買発注を検索し、記述にマッチする資材コードを探して、その後更新するという流れだ。

 Signavioは2021年に買収により獲得した技術だが、クライン氏は「SAPが行ってきた買収の中で、Signavioは最も戦略的な買収の1つ」だと説明した。「SAP BTPにシームレスに統合し、Signavioをさらに活用できるようになった。ここから素晴らしい価値を引き出して顧客に価値をもたらすことができると期待している」(クライン氏)。

■関連サイト

カテゴリートップへ