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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第37回

ゲーム業界、生成AIで激変の兆し 圧倒的王者Steamに挑むEpic Games

2023年09月19日 07時00分更新

文● 新清士 編集●ASCII

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背景はゲームの覇権争い 圧倒的王者Steamに挑む

 なぜスウィーニー氏が声をかけたのかといえば、背景にあるのはPCゲーム市場における圧倒的なシェアの差があり、インディーズ開発者をEpic Games Storeに呼び込みたいという意図があるからでしょう。

まだまだ、Steamに比べるとタイトル数や機能面で劣るEpic Games Store

 世界的にはPCゲーム市場は成長が続いていると考えられていますがSteamのポジションは圧倒的に強いと言われます。

 Valveは上場しない方針なので、正確な売上などは明らかではありませんが、ある推計では2022年の売上が87億8000万ドル(約1兆2700億円)を超えているとされています。これは、PCゲーム市場の4分の1を握っている計算になります。ダウンロードゲーム市場においては7~8割を占めるという推計もあります。

 月間のアクティブユーザーも1億2000万に達している巨大プラットフォームであり、圧倒的な一強です。過去にはElectric Arts(EA)などが挑戦して負けてきた歴史がありますが、そこに「Fortnite」というヒット作を抱え、資金力のあるEpic Games Storeが挑戦しているという構図です。

 Epic Games Storeは、Fortniteのユーザーを多数抱えており、他のゲームも誘致してより強力なストアにしていきたいという思いがあります。それでも、一度慣れてしまったユーザーの習慣を変えさせることが難しく、多くのゲーム会社はSteamを優先しているという実情があります。だからこそ、新技術を積極的に扱うという姿勢をアピールすることで、インディーズゲームの開発者の評価を上げようというもくろみもあるのでしょう。

 また、Epic Gamesは、8月23日にゲーム開発者に対して「6ヵ月間の独占契約をしてくれたら、その期間のロイヤリティはゼロにします」という破格の条件も提示しています。Steamは一般的なプラットフォーム手数料の3割です。なんとしてでも自社ストアに有力なゲームを誘致しようと施策を仕掛けているところです。

Epic Games Storeは6ヵ月間のロイヤリティが無料となる「Epic First Runプログラム」をアナウンスしている

 とはいえ、Epic Game Storeにはソーシャル機能やフォーラム機能など、足りていない機能がたくさんあるんですよね。やはりSteamのほうがゲーム配信プラットフォームとしての完成度は高いので、なかなか開発者たちが動かない状況ではあります。そういう意味では、変化が起こせるかが今後の注目ですね。ただ、ユーザーからすると、ゲームの面白さが重要なのであって、生成AIが使われているかどうかは二の次というのが率直なところでしょうが。

Valveは「永久BAN」を引っ込めた

 ちなみにBANされた「Heard of the Story?」については、その後、9月7日にShasaurさんがRedditに後日談の報告を上げています。Valveから永久的なBANを引っ込め、ChatGPTの機能を削れば再登録を認めるという方針に変えたとの連絡を受けたということです。しかし、すでに機能を削ったものを登録済みだったため、さらに再提出が必要かどうかを迷っている間に、承認されたそうです。

 Shasaurさんは「肩の荷が下りたのは言うまでもない」とした上、「(Valveが私に)再提出を依頼したにもかかわらず、実際に(提出済みの)最新ビルドの再レビューを彼ら自身でしたという事実は、何か特別な介入があったのではないかと思わせます。何しろ、この話題は驚くほど大きく取り上げられたのだから」と書いています。表立った表明をしていないものの、Valveは今回のSNSでの騒ぎを重視し、通常の手続きと違う対応を内部的にしていたのだろうと推測されています。

生成AIはゲーム業界に確実に広まりつつある

 そんななか、生成AIは確実にゲーム業界に広まりつつあります。

 ゲーム向けの投資ファンドも立ち上げているベンチャーキャピタル大手のアンドリーセン・ホロウィッツは6月、すでに200以上の大小さまざまなゲーム会社で画像生成AIの導入が進んでいることを示すレポートを発表しています。

 ゲームエンジン会社Unityは、7月に生成AIマーケットプレイスというものを立ち上げ、Unityを積極的に生成AIに対応させる展開を進めています。実際にボイスアプリ(読み上げアプリ)、ゲーム内でキャラクターがしゃべるツールや、OpenAIのDALL・E2を使ったゲーム内の素材を作るためのテクスチャー・ジェネレーターといったものが販売されています。

Unity向けのアセットを販売できるUnity Asset Storeの生成AIツールに関するページ。26種類のツールが販売されている(9月17日現在)

 また、9月13日には、Adobeの画像生成サービス「Adobe Firefly」の商用サービス化も開始しました。特にPhotoshopを利用するユーザーが生成AIを普通にツールとして使うことが当たり前になってくると思われます。特にAdobe FireflyはValveの言う「適切な商用ライセンス」に当たる可能性が高いと考えられます(Fireflyについては「Photoshopの画像生成AIがすごい ついに商用利用もスタートへ」)。

Adobeのプレスリリースより

 今後、ゲームに生成AIを使うのが当たり前になっていくのは確実です。Steamはいつまで生成AIを使用しているかどうかで制限をするつもりなのでしょうか。現在はチェックソフトで機械的に判断していると考えられているのですが、同じような一律の対応を続けていくのでしょうか。それとも、いずれかのタイミングで、運用条件の見直しをするのでしょうか。現状でははっきりしません。

 一方で、Epic Games Store発で大ヒットした独占インディーゲームタイトルが出ることはあるのでしょうか。今後ヒットが出れば、状況が変わることはありうると思います。

 渦中のShasaurさんは、Redditの投稿の最後にこう述べています。

 「(Steamだけでなく)他のストアにもゲームを出すようにしてください。私が最近Epic Game Storeで経験したことは、とてもポジティブなものでした。1つ以上の場所で、販売することを確実にすることで、SteamのPC独占を崩し、1つの決定が私たち全員に不釣り合いな悪影響を及ぼすのを阻止することができます」

 生成AIへのスタンスの違いによって、2つのゲーミングプラットフォームが直接ぶつかり始めています。ゲーム開発者、そしてユーザーはどちらの市場を支持していくことになるのでしょうか。

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。株式会社AI Frog Interactive代表。デジタルハリウッド大学大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。現在は、新作のインディゲームの開発をしている。著書に『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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