1枚のウェハーから取れるタイルの数は730個弱
ではMeteor Lake関連の話である。ここからは工場見学ツアーの後で、Pat Stover氏(Senior Director, Technology Development)とWilliam Grimm氏(VP, Director of Product Engineering for Logic Technology & Developmen)への質疑応答の機会があり、その中で判明したことが中心である。
そもそものきっかけは、“5 Nodes In 4 Years”というおなじみのプレゼンテーションについて、「その“Ramping”の厳密な定義はなんなんだ」とGrimm氏に食い下がったのがきっかけである。Grimm氏の返答をまとめたのが以下になる。
- 現在Intel 4の量産はオレゴンのD1でのみ行なわれている。これはD1C/D1D/D1Xのすべてを含んでおり、トータルで月に4万枚が製造されている。ただしこれはすべてのプロセスノードの合計であり、Intel 4だけで4万枚というわけではない。
- アイルランドのFab 34は最初のIntel 4の量産工場であるが、現在はテストチップを流している状態であり、まだ量産には至っていない。
- 今年はIntel 3の製造にも入ることが公言されているが、このIntel 4はIntel 3の改良版といった扱いになる。ただそれ以外に、例えばIntel 7+(Raptor Lakeで採用されたIntel 7のマイナーバージョンアップ版)にあたるようなもの(Intel 4+とでもいうべきか?)があるか? というと、そういう物は予定していない。
- Intel 4でペリクルを使っているかどうかは答えられない。
この最後の答えには少し補足が必要だろう。EUV(極端紫外線)プロセスの仕組みは連載781回で説明したが、光学系の保護(冷却)とゴミの排除のために水素ガスを使っている。ただマスクの保護にはもう1つ、ペリクル(保護膜)と呼ばれるものがある。要するにマスクにEUVを直接当てると、あっという間に劣化してしまう。
そこで簡単に劣化しないように、マスクの表面に保護膜を被せるというアイディアが生まれた。これがペリクルというもので、国内では三井化学がASMLからライセンスを受けてEUV用のペリクルを出荷している。問題はこのペリクルを使うと、どうしても出力が落ちることだ。
もともとEUVがなかなか普及しなかった理由の1つは、EUV生成の効率が悪い(1MW近い消費電力でありながら、EUV出力は200W+αである)ために露光に時間がかかり、スループット(単位時間あたりに処理できるウェハーの枚数)がArF+液浸に遠く及ばないのが挙げられるわけだが、ペリクルを使う場合には、わずかとはいえこれが入ることでEUVの出力が落ちる(ペリクルで反射されたり吸収される)ため、スループットを下げる要因となる。
またペリクルを使うことで余分なコスト増加につながる(もっともペリクルを使うことでマスクの寿命が延びれば、トータルとして低コストになる可能性はあるが)。そんなこともあって、使わずに済むなら使いたくないのがペリクルである。
現時点で言うと、TSMCはペリクルなしでのEUV露光を成功させており、一方Samsungはペリクルありである。インテルは初期にペリクルを使っていたことは周知の事実だが、Intel 4はどうか? というのは不明であり、今回もお答えをいただけなかった。
もっともペリクルなしは技術的難易度が高いので、これに成功していればアピールしてもおかしくなく、その意味では引き続きペリクルを使っている可能性は高そうだが。
ちなみに現時点ではそのIntel 4の歩留まりがどの程度なのかは不明である。D1でどれだけの量のIntel 4が量産できているのかがわからないが、そもそもD1はすべてプロセス開発用の工場で、これを使って無理やり量産している格好だし、そういう状況だから4nmの量産に割けるラインはせいぜい1つだろう。月産4000枚すら怪しく、およそ1000枚程度であろう。D1はIntel 3やIntel 20A/18Aの開発も担っているので、すべてのEUV露光機をIntel 4の量産にまわすわけにはいかないからだ。
ただ実はこれでもわりと十分である。Meteor Lakeが複数のタイルから構成されるという話は連載682回で説明したが、実際の製品もそんな感じになっている。
全体ではけっこう大きなMeteor Lakeだが、この中でIntel 4で製造するのは左上のCPUタイルのみである。では寸法はどの程度か? という話だが、インテルがマレーシアツアーに合わせて公開した写真から、長辺方向が300mmウェハーで13個分、短辺方向が26個分と判断できる。つまりMeteor Lakeのタイル全体(ベースタイル)の寸法は23.1×11.5mmと推定される。
下の画像は上の画像を拡大したものだが、CPUタイルの寸法は8.9×8.3mmほどで、73.9mm2程度と推定される。ここまで小さいと、1枚のウェハーから取れるタイルの数は理論的には730個弱まで増える。
こうなると、例えば歩留まりが50%だとしても365個のチップは生き残るし、それが月産1000枚だとしても36万5000個のCPUタイルを確保できる計算だ。GPUタイルはTSMC N5、IOタイルとSoCタイルはTSMC N6だし、いずれも寸法は小さいので月産36万個分の製造は容易だろう。
ベースタイルは265.6mm2とやや大きめだが、こちらは22FFLをベースにしたものなのでやはり歩留まりは高い(そもそもここはFoverosのインターコネクトと電力供給用のキャパシターだけなので、製造は全然難しくない)。
月産30万個強、というのはデスクトップ向けには厳しいだろうがモバイルの特定SKU向けには十分であり、なんならもう少し歩留まりや量産枚数が少なくて、月産10万個くらいであっても「量産した」という実績にすることはできるだろう。
とはいえ、これをもって「Intel 4が完璧」と言うにはやや厳しいものがある。まだ具体的な歩留まりや量産枚数が出てきていないし、なによりFab 34が稼働していないのはまだ不安材料である。
さて今回はこのあたりまで。Meteor Lakeの中身などは一切不明なままであり、こちらの詳細は次回のHot Chipsをお待ちいただきたい。
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