米ハリウッドで5月に脚本家組合(WGA)がストライキに入り、それに共同する形で、俳優組合(SAG-AFTRA)が7月に入ってストライキを始めました。
両団体が共同でストライキをするのは43年ぶりということで大きな焦点になっています。大きな焦点はNeflixのような配信型に映像業界のビジネスモデルが移行しているにもかかわらず、契約自体が変わっていないため、配信を通じての支払い金額が小さすぎるので、収入が劇的に減ってしまっているというところです。そのため、労働組合側は契約条件の変更を求めています。
そんななか、両組合ともに交渉条件のひとつに「AI」を争点として挙げていました。
NHKなどを含む報道ではそれを「生成AI」として報じましたが、実際に内容を見てみると、これまでもあったAIと、いわゆる「生成AI」がまぜこぜになっているように感じられました。起きている状況を正確に理解するためには、映像技術に影響を与える「AI」技術と、AIの一分野である「生成AI」とは明確に分けて考える必要があると思います。アメリカでも報道初期はまぜこぜに報じられている様子もありましたが、現在ではAIに統一されているように見えます。
焦点は「配信ビジネス」、AIも一部に
まず脚本家組合が公開しているストライキの進捗状況を見てみました。企業側から片っ端からリジェクト(提案拒否)を食らいまくっているのがわかりますが、そのなかにAIと書いてあるのは1項目のみ。大半が配信ビジネスについての支払い条件の変更を求めているものでした。
AIについては、「対象プロジェクトにおける人工知能の使用を規制する:AIは文学作品(脚本)を書いたり書き換えたりすることはできず、原作として使用することもできない」といったことを求めています。しかし、映画会社側は「我々(組合)の提案を却下。これに対し、(企業側からは)技術の進歩について話し合う年1回のミーティングの提案があった」としており、現状は答える様子がないというものでした。
訴えとしては、とにかく収入が低いということが主眼です。それまでの映像ビジネスは、DVDやブルーレイなどパッケージになるたび、製造本数などに応じて印税という形で支払いがありました。
一方、配信の場合、何回再生されたかや、どういう計算式で印税を払っているかといったことが明確になっていないそうなんです。しかも過去の契約なので配信の条件は非常に安く設定されている。Netflixに脚本を提供すると、収入はむしろ減ってしまうんだということですね。
脚本家組合が、AIを交渉点の一つとして上げてきたのは、急激に注目を集めることになったChatGPTといった生成AIの登場が大きいのは間違いないでしょう。7月13日の24日の米Fortune誌によると5月の決裂前の交渉のなかで「脚本家組合はAIの使用を認める」としていたと報じられています。
「(脚本家たちは)AIソフトウェアの助けを借りてストーリーを形成することを、潜在的には望んでいる。しかし、名声と賃金に不可欠なクレジットタイトルに影響を与えることは望んでいない」
つまり、AI技術を使った創造行為は避けられないと考えているが、AIが原作者になったりすることで、収入に直結するクレジットタイトルをAIに奪われるということを避けたいということのようです。
ただ、5月に会社側は、AIについてのスタンスとして「AI素材が著作権で保護されないことを考えると複雑なクレジットタイトルの決定方法を変えることなく、クリエイティブなプロセスの一環としてこの技術を使用できるようにしたい」としており、一定の歩み寄りの余地があることを示しています。
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