業界人の《ことば》から 第531回
AIは自動運転ではなく、副操縦士として歩む
人類とAIの共生への一歩を進めたマイクロソフト、「Microsoft 365 Copilot」の価値
2023年03月27日 09時00分更新
Memexの実現と人類の責任
ナデラCEOは「私たちは数10年にわたり、人間とコンピュータの共生を目指す旅を続けてきた。その始まりは、ヴァネヴァー・ブッシュ氏が、1945年に発表したエッセイで示されたヴィジョンにある。ここでは、知識を収集し、その知識を、人間が簡単に、しかも高速で柔軟に取り出せるようにする『Memex』という未来的な装置が描かれている。そのヴィジョンに近づく瞬間がいくつかあった。
1968年のダグラス・エンゲルバート氏の母が、複数のウィンドウをマウスでポインティングしてクリックするワープロや、フルスクリーンのハイパーテキスト、ビデオ会議などのグラフィカルユーザーインターフェースの可能性を示し、その後、ゼロックス・パークのチームが、Altoにより、パーソナルコンピューティングを実現した。さらに、ウェブ、ブラウザ、そしてiPhoneの登場によって、人間とコンピューティングの共生は、一歩ずつ近づいてきた」とする。
こうした歴史を振り返りながら、ここにきて登場してきたジェネレーティブAIを、「コンピューティングの新時代の幕開け」と定義。「AIはオートパイロット(自動操縦)から、コパイロット(副操縦士)になり、この副操縦士の存在は、キーボードやマウス、マルチタッチな機能がないコンピューティングが考えられないのと同じものになる」と述べた。
これまでのAIは、検索からソーシャルメディアでの活用に至るまで、オンライン体験をパワーアップするものであり、アクセスすべきサイトや、お勧め商品の情報など、様々な推奨事項を次々と提供している。これは、人々のデジタルライフにおいて、ごく自然なものとなっており、オートパイロットで利用していることにさえ、気がついていない状況にあると、ナデラCEOは指摘する。
だが、次世代AIは、オートパイロットの状況から、コパイロット(副操縦士)に立場を変え、副操縦士とのマルチターンによる会話検索を通じて、新たな能力によって生成された情報をもとに、人間の主体性を重視した活用が行えるように設計したという。
「次世代AIは、私たちの思考、計画、行動を支援する方法を、根本的に変えることになり、生産性向上の新しい波を解き放つと信じている。強力な副操縦士が、私たちの日常業務や仕事から雑務を取り除き、創造の喜びを再発見できるように設計している」とする。
ジェネレーティブAIは、人の代わりに行う作業が増えるため、自動操縦の最たるものと感じるかもしれないが、マイクロソフトでは、あくまでも副操縦士として、人の仕事や生活をサポートする存在になることを強調していることが興味深い。
一方で、「このエンパワーメントには、より大きな人間の責任が伴う」とも指摘する。「個人がAIに助けられるように、AIもそれを使う人によって、ポジティブにも、ネガティブにも影響する可能性がある。新たなAIを構築し、展開し、使用する私たち全員が、責任を持って対応する集団的義務がある」と、ナデラCEOは語る。
民主主義社会における社会的、文化的、法的規範に沿った形で進化する必要性を指摘し、技術が進歩するのにあわせて、活発な議論と精査の両方が重要になることも示している。
米マイクロソフトのジャレッド・スパタロウコーポレートバイスプレジデントは、「Copilotは、セキュリティ、コンプライアンス、プライバシー、責任あるAIに対するマイクロソフトの包括的なアプローチに基づいて構築されており、エンタープライズ対応のテクノロジーである」とするが、現時点でのジェネレーティブAIには、回答の精度に課題があったり、偏った回答をしたりすることが問題視され、ビジネスへの本格活用に向けては意見がわかれているところだ。
OpenAIおよびマイクロソフトでは、少人数の顧客を対象にテストし、そこからフィードバックを得て、徐々に規模を拡大しながらモデルを改良してきた経緯がある。「間もなく、さらなる規模の拡大を行う予定だ」(マイクロソフトのスパタロウコーポレートバイスプレジデント)と明かす。このときにどんな影響が出るのかもしっかりと検証し、課題が発生したときには、迅速な対応を取らなくてはならないだろう。
日本マイクロソフトの津坂美樹社長も、「マイクロソフトが提供するAIは、発展途上のものである。学びながら、製品やサービスを作っていく段階にある。多くの人に使ってもらい、多くのフィードバックをもらいたい。それにより、あらゆる人々や組織がAIを取り入れ、ビジネスや生活に活用できることを支援する」と語る。
ちなみに、ChatGPTに、ジェネレーティブAIについて聞いてみると、回答の最後に次のような一文が付け加えられていた。
「ジェネレーティブAIには、データのバイアスや不正確さが反映される可能性があるため、注意が必要です。また、倫理的な問題もあり、人工知能による自動生成物の利用には、適切な規制やガイドラインが求められています」
自らの課題は認識しているようである。
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