「B+PLUS」とデータ連携、コロナ後の新しいビジネス出張スタイル「ニューノーマルトラベル構想」も発表
コンカーがJTB子会社との提携強化で国内出張への対応を拡大
2023年02月16日 07時00分更新
経費精算クラウドのコンカー(SAP Concur)が2023年2月13日、「ニューノーマルトラベル構想」を発表した。コロナ禍でいったんほぼゼロとなったビジネス出張が回復しつつあるが、オンライン会議の浸透などの要因で、ポストコロナ(コロナ以後)時代は出張のあり方が変わる。それを見据えた提言だ。
また、これまで一部しかカバーできていなかった国内出張についても、JTBビジネストラベルソリューションズ(JTB-CWT)との提携により対応を強化。JTB-CWTのビジネス出張手配ポータルとのデータ連携で業務効率化を図るほか、経費の不正請求など「不正が多い」分野にメスを入れる。
海外出張:最盛期の3割程度まで回復も、「ニューノーマル」に生まれ変わる
コンカーが出張管理サービス「Concur Travel」を日本市場に投入したのは2017年のことだった。その後トランザクションは増加したものの、新型コロナのパンデミックによって企業が出張を制限/禁止したため、2019年第4四半期からはConcur Travelのトランザクションも激減した。
出張の回復傾向が見え始めたのは2022年に入ってからだ。各国のロックダウン解除、日本の“水際対策”緩和などもあり、「2022年第4四半期には最盛期の30%まで戻った」とコンカー代表取締役社長の三村真宗氏は説明する。
ただし、このまま元どおりに回復するわけではなさそうだ。コロナ禍の3年間で出張を取り巻く大きく状況は変わった。三村氏は「オンライン会議の浸透」、ロシアのウクライナ侵攻に代表される「情勢不安」、移動に伴う温室効果ガス排出などを問題視する「ESG経営意識の高まり」の3点を挙げ、これらをふまえた新たな出張のかたちを「ニューノーマルトラベル構想」とする。
従来の出張が“ニューノーマルトラベル”に変わっても、これまで出張管理のテーマであった「業務効率化」「ガバナンス」「コスト最適化」といった事柄は引き続き重要だ。ただしコロナ禍を経た変化を背景に、新たなテーマとして「テレワーク促進」「社員の安全管理」「環境配慮」も加わる。
コンカーが2022年12月に実施した、海外出張の多い日本企業に勤務する正社員への意識調査でも、出張に対する意識は大きく変化したことがうかがえる。
同調査では、「出張はできるだけオンライン会議に置き換えるべき」と回答した人が「社内対応」の場合で83%、「社外対応」「イベント」の場合でもそれぞれ75%に上った。「およそ8割の人が、対面の出張ではなく『オンライン会議で済ませれば十分』という意識を持っている」(三村氏)。
また「海外出張時のリスクの高まりを感じるか」という質問に対しては、全回答者の80%(管理職の85%、出張者の74%)が「感じている」という。
タクシーより電車、飛行機より新幹線を選ぶなど、環境負荷を抑えた移動手段を利用する出張時の「環境配慮」についても、管理職の72%、出張者の44%が「そう思う」と回答している。
ちなみに同調査では、従来の出張管理におけるテーマ(業務効率化、ガバナンス、コスト最適化)についても聞いている。「出張における意図的な不正が発生したことがある」は51%、「出張にはコスト削減余地がある」は75%、「出張の手配や生産は面倒である」は管理職76%、出張者63%と、それぞれに問題を感じている回答者は多かった。
新しいテーマ「テレワーク促進」「社員の安全管理」「環境配慮」にも対応
こうした“ニューノーマルな”出張管理の実現を、コンカーはどう支えるのか。
従来からテーマとされてきた業務効率化、ガバナンス、コスト最適化については、Concur Travelのオンライン出張予約機能、「Concur Request」の出張申請機能、出張者向けスマートフォンアプリ「TripIt」の各種出張中支援機能、リスクマネジメントパートナーとの旅程連携機能、「Concur Expense」の出張経費申請機能、ダッシュボードの分析機能などにより実現する。これらがすべてデータ連携しているのもポイントで、自動入力により出張者(申請者)の作業の手間が大幅に削減される。
一方、新しい出張管理のテーマであるテレワーク促進、社員の安全管理、環境配慮を支えるさまざまな機能も備えていることが紹介された。
まず、テレワーク促進は「Web会議を使ってくださいというだけではなかなか広まらない」(丸山氏)。そこで社内で明確なルールや方針を作り、それを徹底する仕掛けをコンカーにも組み込むアプローチを推奨する。実際に効果があったかどうかもコンカーの出張データなどから分析が可能だ。
デモでは、社内会議はなるべくWeb会議でやるというルールを設け、Concur Requestでの出張申請時にも目的を入力する欄を設ける。社員が目的として「社内会議」を選択すると、ポップアップでルールを知らせる仕掛けを紹介した。
出張者の安全管理では、出張計画の段階でリスクを自動チェックして注意喚起する機能を紹介した。コンカーには世界各地の危険情報が取り込まれており、Concur Requestでリスクの高い地域への出張申請を入力すると「危険が予想される」というアラートが表示される。
環境配慮については、従業員が環境配慮を“自分ごと化”して行動変容につなげられる支援するのが「成功のカギ」(丸山氏)だという。コンカーでは従業員単位で、移動により生じるCO2排出量を可視化する機能を提供しており、経産省/環境庁「GHG排出量算定に関する基本ガイドライン」に沿った設定を組み込み、自動計算できる。さらにはそれをレポート化して企業全体や部門別などで表示したり、前年比で急増している場合はドリルダウンして原因を探るといったことが可能になる。
国内出張:最大の問題は「不正」、解決に向けてJTB-CWTと提携強化
コンカーではこれまで、国内出張の手配や予約確認はカバーしていなかった(「Concur Request」による出張申請は可能だった)。今回、JTBのビジネストラベル管理事業であるJTBビジネストラベルソリューションズ(JTB-CWT)との提携を強化し、「JTB-CWT Trip Link」ソリューションを提供する。
コンカーの丸山氏は、国内出張の最大の課題を「不正の問題」と述べる。たとえば新幹線切符の購入と払戻しを行って領収書だけを手に入れ、会社には「出張した」と虚偽の報告をして経費支払いを受ける「カラ出張」などがその代表例だ。
「国内出張は発生頻度が多いため、申請内容のチェックが難しいなど、ガバナンスがおそろかになりがち。切符などの現金化が容易であることが不正を誘発しており、払戻金が本人の懐に入らないキャッシュフローが大切。『会社払い精算』などのフローをとり、原因を根本から取り除くことが重要」(丸山氏)
今回発表したJTB-CWT Trip Linkは、JTB-CWTの国内出張手配ポータルサービスである「B+PLUS」とSAP Concurを連携するサービスだ。B+PLUS経由で国内出張の手配をすると、旅程情報がSAP Concurに連携され、TripIt、Concur ExpenseといったSAP Concurの機能を使えるようになる。これにより出張精算の効率化、管理者による旅程情報の確認や危機管理サポート、紙の予定表の削減や出発時刻の通知といった効率化が実現する。
JTB-CWT 取締役兼執行役員の伊藤貴幸氏は、「出張件数の割合では9:1で、圧倒的に国内出張が多い。にもかかわらず、6割の企業で国内出張管理が行われていない」と、国内出張に関する課題を指摘したうえで、「国内出張における管理のポテンシャルは非常に大きく、コンカーとの提携を通じて国内出張管理をさらに高度化していく意義は大きい」とコメントした。
コンカーの三村氏はトラベル事業の成長目標として、「Concur Travel/Expenseの契約数を現在の108社から今後3年間で200社まで拡大する」「JTB-CWT TripLinkの契約数を2026年までに84社にする」の2つを掲げた。
国内企業トラベルマネージャーのナレッジハブ目指す「BTM HUB Japan」
記者発表会では「BTM HUB Japan」についても紹介された。これは2021年にコンカーが発起人となって発足した任意団体で、日本企業における出張管理の高度化を目指す。
丸山氏は「欧米に比べて日本の出張管理の水準は低い可能性がある」と言われる要因の1つとして、「欧米では出張管理を専門とするトラベルマネージャー職があり、コミュニティやイベントも開催されている」と紹介する。日本にはそうした専門職種がないことから、コミュニティを作ることで出張管理の高度化を促進できるのでは、と立ち上げに至ったと説明する。
BTM HUB Japanには現在、13社24人が参加している。その1人である野村ホールディングス/コーポレート・デザイン・パートナーズの持留知佳氏は、「ビジネストラベルマネジメントとは、社内の出張規定が単に守られているかどうかを確認するだけではなく、出張前の計画から生産までの業務効率化、不正が起きていないかを監査するガバナンス、従業員の安全管理、そして旅費のコスト最適化を行うための調達交渉など、幅広い要素を含む」と説明する。
そしてビジネストラベルマネジメントを効率化し、効果を改善するためには「システムの活用が不可欠」(持留氏)であるため、人事部だけに出張管理を委ねるのではなく、IT、調達、リスクマネジメントといった多様な観点のアプローチが必要だと語った。「BTM HUB Japanではトラベルマネージャーのハブとして、必要なナレッジの共有を進め、日本の出張管理の高度化を進めていきたい」(持留氏)。