2022年11月にオンラインで開催した「第9回 RPA研究会」にて、マルマンの野々垣周氏が登壇し、同社のRPA導入プロセスとその成果を紹介した。
ユーザックのイベントでRPAを知る
マルマンは、1920年に創業した画材などの製造販売、輸入販売を手がける老舗文具メーカーである。本社は東京都中野区に構える。黄色と深い緑がクロスした特徴ある表紙のスケッチブックは非常に有名だ。
野々垣氏は、電子部品メーカーの物流子会社で倉庫管理システムの開発(運用管理)に携わり、メカトロニクス企業を経て2006年にマルマンに入社。最初は工場で生産計画、資材・工程・物流の管理などを担当したのち、2020年に本社の営業企画部に異動し、受注システムの業務などを担当している。
最初に野々垣氏は、RPA導入の経緯を説明した。同社では2018年にユーザックシステムの「送り状名人」を導入し、送り状、荷札発行業務を効率化している。その関係で野々垣氏は、同年末に開催されたユーザックシステムのユーザーイベントに参加。そこで紹介されていたRPAの「Autoジョブ名人」に興味を持ったことがきっかけだった。
翌2019年4月に、Autoジョブ名人の評価版を社内に導入して評価を開始した。6ヵ月間にわたってテストを続けた後、2019年10月に工場部門に1ライセンスを導入。さらに、野々垣氏の異動に合わせる形で2020年12月には本社部門にも導入した。現在は、本社にもう1機追加し、計3ライセンスのRPAが稼働している。
工場の受注業務から自動化をスタート
工場では、商品の出荷に伴う「送り状」の情報共有のためにRPAを活用している。
送り状の情報は、関東と九州の2つの拠点(物流倉庫)からCSVファイルとして15分ごとにクラウドストレージにアップロードしている。そのデータを業務終了後にまとめてダウンロードし、本社のグループウェアにアップロードし直すという作業を行なっていた。
ただ、倉庫の出荷は時間が遅くなることがあり、ダウンロードとアップロードの作業も定時内に終わらせることが難しかった。また野々垣氏が出張などの際は、作業自体ができないなど、確実に運用することが困難だ。そこで、このダウンロードとアップロードの作業をAutoジョブ名人で自動化したのだ。
工場での取り組みはもうひとつある。「お名入れサービス」の自動化である。名入れとは、楽天市場やヤフーショッピングにある同社のECサイトで展開する、商品に購入者の名前を印字して販売するサービスのことだ。このサービスを、ECサイト限定の商品で無料にしたところ、注文が殺到。担当者は悲鳴を上げた。
名入れの作業の流れは次のようになる。
・注文のPDFファイルがメールで工場に届く
・注文内容にあわせ彫刻用データを作成し、名入れ作業
・完成後、商品(完成)のデータ入力
・製品の引き渡し伝票を作成し、処理が完了
従来は、このステップを手作業で行なっていたため、注文の急増で現場は大混乱を起こしていた。
野々垣氏は、ここにもRPAを活用した。まずPDFの注文書をその元データであるExcelデータのまま登録してもらうように変更を依頼。Autoジョブ名人を使って、Excelデータから彫刻用のデータや伝票など、各システムに必要な情報を順次抽出し、「名入れ作業」以外の、一連の処理を自動化した。
これらの自動化を皮切りに、2019年4月から2020年9月までの1年半の間に、327本のスクリプト、93件の自動化スケジュール登録、63件のファイル監視登録を実現。トータルで、RPAによる作業の削減は年換算で約1000時間に達した。
受注のデジタル化は30%から80%へ
続いて、野々垣氏は本社部門のRPAの取り組みを紹介した。RPAを導入する前の本社業務のデジタル化は進んでおらず、業界標準のEDI接続以外は基本的に手作業が中心だった。デジタルでの受注は全体の約30%にとどまり、70%の受注処理は手入力で行なっていた。
これに対して、会社が中期経営計画で掲げたのは、3年間で改善を行い、デジタル受注を80%にするという高い目標だった。この目標を達成するために、Autoジョブ名人を活用している。
まず、ECサイトやWeb-EDIでの受注情報の取り込み作業を自動化した。従来は、楽天、ヤフーショッピングなどの受注データは、各サイトの管理画面からPDFデータでダウンロードし、その内容を見て手入力でシステムに登録していた。ECサイトやWeb-EDIは受注データをcsv出力できる。野々垣氏は、そのデータを使ってRPAで自動処理が可能だと考えた。
Autoジョブ名人を使ったシステムでは、外部からcsvデータとして取り込んだ受注情報に送料などのデータを追加し、販売システムのOBIC7に登録を行う処理を自動化している。さらに、エントリーしたデータは送り状番号を付加してECモールに送り返している。「受注から発送のご案内まで、すべての処理をAutoジョブ名人で自動化している」(野々垣氏)。
次にターゲットとしたのは、FAXによる注文書の処理だ。これも紙の内容を手で入力していたが、FAXで送られてくる書面はAI-OCRで読み取れると考え、AI-OCRツールのDX-SuiteとRPAの組み合わせで自動化を実施。同時にFAX自体もインターネットFAXのサービスを採用し、ペーパーレス化を実現した。
インターネットFAXで受信したデータはメール連携してアウトルックで受信し、PDF化した書面を所定のフォルダに保存する。その後は、Autoジョブ名人のスクリプトがそのフォルダを監視しており、データが見つかるとAI-OCRを起動してデータ化を実施。同時にチャットで担当者に通知する。通知を受けた担当者はデータ化した内容を目視で確認する。あとはデータ処理のスクリプトを走らせ、販売システムに登録する。「タイミングごとに通知を出して、担当者が処理状況を確認できるようにした」と野々垣氏は語る。
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