ネットには、真偽不明の情報が大量に拡散している。
松野博一官房長官は2023年1月25日の記者会見で、政府に外国からの偽情報に対応する専門の組織を設立する方針を明らかにした。
外国からの偽情報について情報を集約・分析し、対外発信の強化、政府外の機関との連携強化などに取り組むという。
日本を取り巻く状況を考えると、ロシアがウクライナに侵攻してからまもなく1年になる。さらには、米国と中国の緊張が高まり、中国による台湾侵攻も現実的な懸念が高まっている。
こうした中で、日本としても「情報戦」への備えが必要だというのが政府側の認識だろう。
それでは、日々インターネットを使って情報を得ている個人としては、どんな対策が必要なのだろうか。
アメリカ大使館、中国の偽情報を公式メディアで非難
米政府が、中国による偽情報の発信についてどう考えているのかがよく分かる記事がある。
出所は、日本にある米国大使館が公開している「アメリカン・ビュー」というウェブメディアだ。
このウェブメディアには2022年6月27日、「ウクライナに関するロシアの偽情報に同調する中国」という記事が公開されている。
この記事は2022年3月末、ロシア軍が撤退した後、ウクライナの首都キーウ郊外の街ブチャで数百体の遺体が発見された出来事を取り上げている。
記事は、中国の国営放送が、「遺体はロシアを非難しようとする陰謀の一部で米国が並べたもの」との主張をツイッターに投稿したと指摘する。
そのうえで、「中国政府は国民にツイッターへのアクセスを禁止する一方で、政府役人はツイッターを使い、偽情報を海外で拡散しています」と非難した。
中国が、台湾での「情報戦」を強化しているとの報道も多数出ている。
ウォール・ストリート・ジャーナルは2022年8月26日の記事の中で、「外国勢力による偽情報工作で、台湾は9年連続で世界最大の標的になったと指摘されている。台湾の当局者や専門家は、攻撃の大半は中国によるものだと話している」と報じている。
新組織の背景に「国家安全保障戦略」
日本政府は2022年12月16日に決定した「国家安全保障戦略」で、日本を取り巻く情報戦を巡る現状について、次のような認識を記している。
「領域をめぐるグレーゾーン事態、民間の重要インフラ等への国境を越えたサイバー攻撃、偽情報の拡散等を通じた情報戦等が恒常的に生起し、有事と平時の境目はますます曖昧になってきている」
1月25日に松野官房長官が発言した新組織の設立は、この「国家安全保障戦略」に基づく施策のひとつだ。
判断が難しいのは、いずれも国家が関わった情報発信であることだ。
米国は公式ウェブメディアで中国の情報発信を「偽情報」と断じている。
日本政府も、高官が明言した記録は見つからないものの、米国とほぼ同じ認識だろう。
一方、中国政府に米国大使館の記事を見せてコメントを求めたら「米国が偽情報を流している」と反論するだろう。
「偽情報」に弱い社会
「情報戦」とは直結しないが、あらためて、日本で「偽情報」が拡散した事例を調べてみると、危機にさらされたとき、日本社会は「偽情報」にとても弱いことがわかる。
2011年3月、東日本大震災の直後、被災地で外国人による犯罪が横行しているという噂が広がった。
事故が起きた福島第一原発周辺の地域では、住民が避難し、無人になった町に外国人の窃盗グループがやってきて、転売できるものを盗んでいるといった噂だ。
仙台市では5割を超える人たちがこの噂を耳にし、8割を超える人たちが信じたという調査結果もある。
新型コロナウイルスが広がった2020年2月には、「中国で生産されているトイレットペーパーが不足する」との噂が広がり、スーパーやコンビニからトイレットペーパーの在庫がなくなった。
地震や原発事故、感染症の拡大で社会に不安が広がっているときは、こうした真偽不明の情報が一気に拡散する。
中国と台湾の緊張が高まっている現在も、震災やパンデミックと同様に、不安を誘う情報が広がりやすい状況にあるのかもしれない。
その情報の出所はどこか
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