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新清士の「メタバース・プレゼンス」 第10回

ザッカーバーグの焦りを感じる「アバター問題」ふたたび

2022年10月27日 16時00分更新

文● 新清士 編集● ASCII

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アバターに感じる、ザッカーバーグの焦り

 こうしてアバターを中心に基調講演を見直してみると、全体的にザッカーバーグ氏の焦りのようなものが感じられました。

 市場を見てみれば、焦る要因は十分にあるんですよね。去年9月の時点では400ドル近かったメタの株価は120ドル台と3分の1まで落ちてしまいました。広告の業績が悪化したことに加え、アメリカ経済の失速の影響もあり、GAFAの中でかなり大きなダウンになっているんです。SNSでの広告事業に大きく依存するメタにとっては、現在の市場状況は非常に苦しい状況です。メタにとってみれば、メタバースのプレゼンをしてからわずか1年で、市場の厳しい判断にさらされる格好になってしまいました。

 ウォール・ストリート・ジャーナルは今年10月18日、メタの内部情報をリークする形で、当初Horizon Worldsの月間アクティブユーザー(MAU)の目標を50万人に設定していたが、28万人に下方修正し、現在は20万人以下になったという記事を掲載しています

 このように「メタバースってやっぱりダメなんじゃないか」と厳しい目が向けられている中、「未来はこうなるから大丈夫なんだ」ということを見せなければならない。そのとき事実ベースで「もうここまで出来ているから大丈夫なんだ」というのではなく、ある程度インチキくさい部分を含めて将来のビジョンとして魅力を感じられるようにアピールしなければならないのか……というところに、むしろ不安をおぼえてしまったところもありました。

 基調講演の最後で、開発している完全リアルアバターのプレゼンをする形でザッカーバーグ氏自らオチを持ってきたところは、少しおかしくもありました。完全なものだと作れるんだぞという、一連のアバター騒ぎで最も説得力のあるアバターでした。強烈に出来がよく、本人の映像を見ているのと大きく変わらない印象さえありますが、おそらくこのクオリティはQuest 2ではリアルタイムでは出せないのではないかと思います。撮影もかなり精密にしているようですし。

フォトリアル調のアバターも披露した

細かいレベルまで3D処理されている

 ただ、スマホのカメラで2分程度撮影して、数時間の計算によってリアルアバターが作れるという後半のデモは迫力があり、現実に近い似姿のアバターの実戦投入まではもうそれほど時間がかからなそうだということは感じられました。

 結局ボトルネックになっているのは一体型のVRデバイスの計算能力なのでしょう。ゲーミングPCを使えばリアルアバターも十分に使えるのだろうと思います。10年も経ち半導体性能が上がってくれば普通に表示ができるようになり、今回のことも笑い話になってしまっているとは予想できます。

 しかし、メタは性能に限界のある中であっても、現在の市場にアピールするものを作り出さなければなりません。アバターも着実に技術発展していることははっきりしているのですが、それでも一般的な支持を受けられないでいる事実は、今後もメタの苦境が続くことを容易に予想させました。

 

筆者紹介:新清士(しんきよし)

1970年生まれ。「バーチャルマーケット(Vket)」で知られる株式会社HIKKY所属。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。

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