ロボティクスとAIで水上モビリティの自律化を目指すエイトノット
堺市発のイノベーションを創出するスタートアップ起業家連続インタビュー第1回
社会インパクトのある事業創出から、次世代への支援に繋がっていく
―――さらにその先となるとどのようなビジョンをお持ちでしょうか。
木村:まず2030年までには大阪瀬戸内海エリアで実際に無人航行の水上タクシーを事業として走らせたいと思っています。大阪瀬戸内海エリア全域に何千台の水上タクシーをというのは難しいと思いますが、どこかのエリアで、スマホでタクシーを呼ぶような感覚で船を呼んで桟橋から乗って好きなところに行けるという環境が実現できれば、一気に水上モビリティが新しい世の中を作っていくインフラとして活用できるような将来像が描けると思っています。
ただ、水上モビリティ単体で事業として完結させるというのは難しいのではないかとも思っています。鉄道会社とかタクシー会社といった既存の輸送インフラなどといかに組み合わせていけるかが重要になるでしょう。
―――御社のビジョンが達成されていく中で、マクロ視点で実際の人の生活が具体的にどのように変わっていくのか、ミクロ視点で御社が関わっている地域がどう変わっていくのか、お聞かせいただけますか。
木村:まずマクロの方でいうと、水上モビリティでの移動が当たり前の世の中になると、今日は天気がいいな、なかなか花見に行く時間もないから船に乗って花見をしながら通勤しようというような、人の気持ちや生活を豊かにする面があると思います。
あと、単純な水上移動のメリットとして、水が張っているところであれば直線的に移動できることがあります。例えば大阪エリアだとユニバーサル・スタジオ・ジャパンと天保山の海遊館のエリアに渡し船がありますが、これは電車や車で行くと2、30分かかってしまうところを船だと数分で行ける。そういったところが離島だけでなく都市部にもたくさん点在している。それが気軽に使えるようになると、人の回遊ルートも変わるし新しいビジネスもできる。
次にミクロの方では、今一番我々の技術を待ち望んでいるのは離島エリアに住んでいる方々だということは外せないと思っています。年々航路の再編や廃止があったりするので、今自分たちの住んでいる島でこれからも安心して暮らしていくのに一番必要なのは地域の足となる水上交通ですよね。でもそれも結構赤字のところが多い。
その理由は、人がたくさんいた時に使っていた航路をそのまま使っているので、お客さんが数名の時でも船員さんが3、4人乗った中型のフェリーを動かさなくてはいけないから。時代の変化にビジネスモデルがついていけていない。それを我々のソリューションで変えていきたい。小型かつ電動で必要な時だけ動かせて、船員の確保にも心配がいらない。これから必要とされる技術だということは肌で感じています。
―――エイトノットも創業期にはあれもなかったこれもなかったということがあったと思いますが、起業からここまできて、後からくる若い起業家に向けて、逆にこういうことならできるよ、伝えていけるよといったことはありませんか。
木村:今は広島商船高専の学生さんにお世話になっていますが、その中にも起業志望の方がいます。メンタリングというほど大げさなものではありませんが、そういった方に私が知る限りの情報や知見やコネクションなどを提供していっています。
我々もこうすれば絶対に成功しますといったようなやり方を持っているわけではなく、今もジャングルの中をかき分けて進んでいるような状況ですが、新しく入ってくる方々に対してジャングルの木を切り倒す作業を少しでも減らせるようなサポートは積極的にやりたいと思っています。例えば授業も何度か持たせてもらいましたし、その中でビジネスコンテスト的なこともやりましたし、起業志望の学生さんと直接話をさせてもらったりしています。そういったことは今後も喜んでやっていきたいと思っています。
エイトノットの自律航行実験船をチェック!
インタビュー終了後に、自律航行の実証実験に用いている船を見せてもらった。船の前後にLiDARスキャナーを1台ずつ載せており、これらと前方確認用のカメラ、およびGPSで船の挙動や周囲の状況を把握。船の舵に伝えて正しい航路を維持していく。
木村:海って広いから車(の自動運転)より楽でしょと言われることが多いですが、この2つを比べる時点でおかしいと考えています。風、波、潮の流れなどの外乱の影響もあるし、そもそも構造上、まっすぐ走らない。車はちゃんと止まることができるが、船は止まることができない。車は道路に白線が引いてあって、進むべき道が示されている。信号や標識もある。船にはそんなものはない。だから制御の仕方が全く変わってきます。
―――実験船の乗員数は10名。オンデマンドで利用する水上タクシーとしては余剰スペースが出てくることもあるかと思うが、もう少し小さくはしないのでしょうか。
木村:やはりこのくらいのサイズの船の方が安定しますね。去年は物流を対象にもう少し小さな船で実証実験を行いましたが、少し波の影響などを受けやすかったところがありました。人を乗せると求められる安全性のレベルがすごく上がる。そういった点で現実的な事業モデルとしては物流の方が早いかもしれないですね。ただ、我々のビジョンとしては人を乗せる水上モビリティを実現したいと考えています。
2025年の大阪・関西万博を大きな飛躍への手がかりにしようと開発を進めるエイトノット。鉄道会社がそうであったように、新しいモビリティは新しい社会構造を生み出す。地域の繋がりが事業成長の礎となっていることを実感する同社は、離島が数多く存在する瀬戸内海の生活圏を点から面へと拡大することを目指して事業を加速している。
(提供:NAKAMOZUイノベーションコア創出コンソーシアム、堺市)