チャンピオンドライバー・国本雄資に写真の撮り方を教えたことと教えられたこと

文●折原弘之 編集●ASCII

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一流ドライバーがカメラでほかのドライバーを追う

 9月9~11日にかけて富士スピードウェイで開催されたFIA世界耐久選手権(WEC)で、国内トップドライバーのひとり、国本雄資(くにもと ゆうじ)選手と一緒に撮影する機会があった。国本選手はSUPER GTのGT500クラスやスーパーフォミュラといったトップカテゴリーに参戦するドライバーだが、写真好きでも有名なのだ。以前もツインリンクもてぎで一緒にスーパー耐久を撮影したことがある。スーパー耐久を撮影した時は本人も、「あの時は、流し撮りがしたかったんです。考えてることはそれだけで、あまり周囲の状況が見れてなかった感じです」と言うほど撮影慣れはしていなかったようだが、今回はカメラマンとしても成長しているようだったので、国本選手のカメラマンっぷりをレポートしたい。

撮影だけでなく、後処理も自分でするようになったとのことだ

 そもそもなぜ写真好きになったのか、キッカケを聞いてみると「写真を撮るのは元々好きだったんです。最初はコンデジで撮っていたんですけど、旅行でカナダのイエローナイフ(オーロラツアーで有名な場所)に行くことになったんで、一眼レフを買ってオーロラを撮ろうと思ったんです」とのこと。初めて買った一眼レフは、キヤノンの「EOS 6D Mark II」。レンズは15-35mmの広角ズーム。それに三脚を持ってオーロラを撮ったのが、一眼レフデビューだったそうだ。

ルマン24時間耐久に出場経験を持つ国本選手。プジョードライバーのジェームスが「インスタに使うから写真ちょうだい」と笑いながら話しかけてきた

 そこから写真にハマっていったようだが、写真の魅力について聞いてみると「写真って、綺麗な瞬間を止めて後で見返せるじゃないですか。そんなふうに時を止められるのって、写真だけなんです。そこが写真を撮る最大に魅力ですね」と。確かに動画では表現できない魅力が写真にはあるし、何度も見返すのは動画ではなく写真ならではの魅力でもあると思う。

写真好きだけあって、その腕前もなかなかなものだ

撮られる側だからこそわかることがある

 僕と国本選手の接点は、やはりレースでありサーキットだ。そんな関係だったから、写真の撮り方を教えるのもレースで、となるのは自然の流れだった。もう5年近く前の話なのだが、「土曜日に僕のレースが終わるので、日曜日にレースの写真が撮りたいです」と言われたことがあった。僕はそのレースでたまたまキヤノン写真スクールの講師をやっていたこともあり、生徒の1人としてレース写真の撮り方を教えることになった。「あの時は初めてのサーキット撮影だったので、いっぱいいっぱいになってましたね。ただ、すごく楽しかったのは覚えています」。

 確かにフレームに収まったマシンは、小さくもっと引き付けて撮るようにアドバイスしたことを覚えている。それでも流石はドライバーと思わせたのは、動体視力の良さだ。当時でも雑誌に使えそうな写真は、結構あったと記憶している。

左向きの写真が国本選手の作品、右向きの作品が筆者が撮影したもの。シャッタースピードの使い方の違いがわかる

 今回のWECでは流し撮りがしたかったようで、「流し撮りは、どのくらいのシャッタースピードで切ってるんですか」と言うのが最初の質問だった。この話については、プロとアマチュアの間には大きな考え方の違いがある。そこで僕が国本選手に伝えたのは、「プロは被写体が止まるシャッタースピードを選びアマはバックをどれだけ流せるかで選ぶ」と言うこと。なぜそうなるかと言えば、アマは最悪1枚も作品画が残らなくてもイイのに対しプロは必ず作品を残してクライアントに納品しなければならない、と言う点が最も大きい。だからプロはどうしても遅いシャッターを切りにくい。これは良い悪いの話ではないから、遅いシャッタースピードを否定はしない。ただ、アドバイスとしては「被写体が止まるギリギリのスピードで始めて、徐々にスピードを落としていく方が作品も残る」と言うことだ。

プジョー(写真左)が国本選手撮影、トヨタが筆者が撮影したもの。バランスの取り方や、被写体の引きつけ方をアドバイスした

プジョー(写真左)はアドバイス後に国本選手が撮影したもの。S字のトヨタは筆者撮影。たとえ被写体まで遠くても作品として成立させる方法はあるのだ

 シャッタースピード以外には、アングルについてのアドバイスをした。撮影中にモニターで画像を確認したときに、やはり引き付けが足りず無駄なスペースが目立った。国本選手は「あとでトリミングすれば良いですよね」と言っていたが、今回はプロと同じ条件で撮れているのだから「最初からトリミングを考えて撮らず、撮影したままの絵で完結しよう」とアドバイスした。観客席から撮影する場合はトリミングもやむなしだが、写真の良し悪しを決める要素としてバランスの良さと言うのは大きなファクターだ。できる限りトリミングは考えず、撮影時にひとつの絵として完成形に近づける努力はしていきたい。

トヨタ(写真左)が今まで撮っていた縁石を使ったインリフト。プジョーが国本選手にアドバイスしてもらった後に撮ったインリフト

教えることで教えられることがある

 国本選手に教えられることもあった。僕がスープラコーナーで「インリフトしてくるポイントはどこなんだろう」と聞いてみると「ここは“コの字”コーナーですから、コーナーとコーナーの間が一番Gがかかります。ですから2個のコーナーの中間。2個目のコーナーに入る、切り始めが1番のポイントですね」とアドバイスをしてくれた。僕はドライバーが2個目の縁石に引っ掛けて、インリフトしているところをとっていたが「そこもインリフトと言えなくはないですが、本当のインリフトはそこではないですね」とのこと。

 本当に良いドライビングを撮ろうとするなら結果だけだはなく、もっと深いところを撮るべきだと考えさせられた。流し撮りに関してもコンサバに撮るのではなく、なるべく遅いシャッタースピードを選んでチャレンジするべきなのだ。国本選手と話して、改めて原点に返って撮影するべきだと考えさせられた。

現在の国本選手の機材は、ミラーレスのキヤノン「EOS R6 Mark II」と交換レンズが数本だ

 今回の経験を通して国本選手は「今回は流し撮りとかにも挑戦したんですが、全滅に近い感じでした。アングルについては、教えてもらった通りバックの処理とかも考えて撮りました。バックを考えながら、マシンをカッコ良く撮るのは難しかったです。ただ、自分は撮っていただく立場でもあるので、レースの写真はお手本がたくさんあるんです。環境的にレースの写真は身近ですから、これからも撮っていきたいです。もちろんレース以外でも、いろいろなところにカメラを持って出かけていきたいですね」とかなり写真愛が深そうだ。

 これからはレースだけではなく、国本選手の作る作品も楽しみにしたい。

■筆者紹介───折原弘之

 1963年1月1日生まれ。埼玉県出身。東京写真学校入学後、オートバイ雑誌「プレイライダー」にアルバイトとして勤務。全日本モトクロス、ロードレースを中心に活動。1983年に「グランプリイラストレイテッド」誌にスタッフフォトグラファーとして参加。同誌の創設者である坪内氏に師事。89年に独立。フリーランスとして、MotoGP、F1GPを撮影。2012年より日本でレース撮影を開始する。

■写真集
3444 片山右京写真集
快速のクロニクル
7人のF1フォトグラファー

■写真展
The Eddge (F1、MotoGP写真展)Canonサロン
Winter Heat (W杯スキー写真展)エスパスタグホイヤー
Emotions(F1写真展)Canonサロン

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