アスキーの盛田 諒ですこんにちは。画像生成AI「Midjourney」月額30ドルのプランに加入して日々イラストを呼び出しています。「プロンプト」と呼ばれる呪文で画像を召喚する気分はさながら召喚士。おいでください闇の王。
さて前回のAI絵日記では、「Midjourneyのすごいところと心配なところ」ということで版権面の懸念を伝えました。魔王を召喚する呪文を唱えたなら召喚士に責任があるのではないかということです。いまは責任の範囲があいまいですが、そのうち何をしてはいけないのかが明確になってくるのかなと感じています。
今回Midjourneyを使いながら浮かんできたのは「AIが仕事を奪うのではないか」「AIがフェイク情報を増やすのではないか」という2つの心配です。ただ、色々考えると案外普通の技術として社会に吸収されるのではと考えています。
AIは仕事を奪う?
AIが人間の仕事を奪うというのは『雇用の未来』(フレイ&オズボーン、2013年)などで指摘されてきたことです。DTPの普及によって写植がなくなったようにAIによって失われる職種が出てくるのではないかというわけですが、画像生成AIはプロとして活動しているイラストレーターの仕事を奪うのでしょうか。
Midjourneyを使って最初に思ったのは、「雑誌の表紙を飾るイラストをAIにまかせるのは厳しいけど、挿絵に使う装飾的なカットならAIでいいんじゃないか」。
実際「子どものYouTube利用率」といった記事のイメージにこうしたカットが使われていても違和感はないと思います。Midjourneyはこのくらいのイラストを数十秒で描いてくれるし、画像と文章から画像を生成するStable Diffusionのimg2imgを使えば、ラフにあわせたイラストを描いてもらうこともできます。
装飾という意味では、キャラクターの画像も簡単に作れます。
いわゆる二次元系のかわいいイラストもかなりの精度で上げてくれるので、何度も「ひょえー」と驚かされることになりました。
これまでカットイラストのような小さな仕事は新人作家さんにお願いすることが多く、デザイン事務所の若手デザイナーさんがちょっとした装飾カットを作ってくれていたこともありました。そう考えると、AIは新人さんが経験を積むためにやってきたような仕事を奪うことになるのではないかと心配になりました。ただでさえ後継不足がさけばれる職人の世界がAIに滅ぼされてしまうんじゃないかと。
ただ、メディアで使うという前提で色々出力してみると、生成されたイラストをそのまま商業イラストとして使うにはいくつか不足があり、まだ「仕事を奪う」とまでは言えないのではないかと感じました。
まずは精度。AIに生成できる画像はまだ“それっぽい絵”程度。人間で言えば手や足などのパーツが不自然で、手直しが必要なものがほとんどです。手直しをするとき、どこをどう修正するかの判断にはまだ専門的な知識が必要です。
次が指示出し。AIで目当ての画像を生成するには、呪文やラフなどの形で指示を出す必要があります。しかし、画像を正確にイメージして言語化/映像化するのはなかなか難しく、ここもやはり専門的な知識が必要になってきます。
最後が発想力。AIはまだ文脈やTPOをわきまえて、必要な要素をしっかり伝える画像を発想することができません。色彩や構図などの法則はわかるかもしれませんが、画面全体を通じてニュアンスや物語を考えることはまだできません。
そう考えると、結局のところ「案出し」「指示出し」「手直し」という3つの工程で専門的な知識が必要になることは変わらなさそうです。画像生成AIを使って商業イラストを作ろうとするなら、やはり専業のイラストレーターさんやデザイナーさんにAIを使ってもらったほうがいいということになりそうだと感じました。
ただ、そのときAIを使うイラストレーターさんと、AIを使わないイラストレーターさんの差がつきそうだという予感はあります。
イラストを発注されたとき、自分の作風を再現できるAIを使えばこれまでとは比較にならないほどにすばやく正確なラフを出せます。ラフをもとに発注元と打ち合わせをして、リテイクが手直し程度でよければ、本当にすばやく納品ができます。納品に速度と分量が求められるゲーム業界などでは重宝されそうです。
写真のレタッチなどもそうですが、画像編集ソフトには今ではAIと呼ばれなくなったAI機能が色々搭載されています。今は衝撃的に受け止められている画像生成AIも、作曲ソフトにおける自動演奏機能(アルペジエーター)のように、ごく普通の機能として受け入れられるのではないかと感じるようになりました。
イラストをAIに全振りして制作費を丸ごと削ろうと考える人もいると思いますが、その場合はもともとイラストに対価を払える設計にしておらず、現在もフリー素材を使ったりしているのではないかなと思います。
そう考えていくと、「AIが人間の仕事を奪う」というより「AIを使う人の仕事が増える」ということになりそうだというのが私の見立てです。現在さかんにデジタル化、DXと言われているように、AI化が進むことで、人間の生産性はAI使用時を基準に考えられるようになるのではないかと思いました。人間の欲望(需要)はどこまで増えるんだという話でもあるのですが。
AIはフェイクを増やす?
もう1つの心配はフェイクです。フェイクは2010年代後半を代表する言葉でした。米大統領選がひとつの発端となり、ウェブメディアとソーシャルメディアでウソやでまかせを広げるフェイクニュースは社会問題になりました。同時期に影響力を増したのがディープフェイクと呼ばれる合成映像技術です。
2017年、ワシントン大学の学生たちはバラク・オバマ前大統領の音声をもとにあたかも本人が語っているかのような映像を制作して公開しました。2018年、カリフォルニア大学の学生は、ダンサーと一般人の映像を合成して、一般人が見事なダンスをしているかのように見える合成映像を公開して話題になりました。
こうして発達してきた合成技術を悪用して、著名人の合成映像が作られることも問題になりました。これまで合成写真や合成映像を作るには専門的な知識と高度な技術(あるいは設備)が必要でしたが、これから画像生成AIなどを使えばフェイク画像やディープフェイクを作るハードルがさらに下がることになりそうです。
そのときたとえば著名人や特定個人のポルノ画像や暴力画像などがねつ造されてしまう心配があることを前回指摘しましたが、同時に長期的な問題になっていきそうだと感じたのがいわゆる検索汚染です。
これから画像生成AIを使って人々が本物のようなフェイク画像を大量に作り出して公開していったとき、検索エンジンは関心度や引用数などをもとに画像を上位に表示することがあると思います。面白い画像ほど関心度が高まると考えれば、検索結果がフェイクだらけになってしまうことも考えられます。
そのとき必要性が増しそうなのはファクトチェックです。グーグルでは2020年から画像検索にもファクトチェック機能を設け、一部の画像について事実検証の結果を見られるようにしていますが、SNSなど情報の伝達速度が速い他のサービスでも同様の機能を導入することが考えられるのではないかと思います。
もし爆発的にフェイク画像が増えたとして、ファクトチェックに使われそうなのもやはりAIです。現在、ニュースや医療情報などに関してはファクトチェックをサポートするためのAIが使われているケースもあるそうです。ディープフェイクとファクトチェックはこれからコンピューターウイルスとセキュリティソフトのような関係になり、両者に共通するのがAIなのかもしれないと感じました。
こうしてファクトチェックの機会が増えていくことで、むしろフェイク情報と同じくらいの「正しい情報」が増えていくのかもしれないとも感じます。そうなると、ウソを見抜かなくてもいい時代になってくれるのかもしれません。
今後社会におけるAIファクトチェックの役割がさらに大きくなっていけば、規制を通じて官公庁が関わることも考えられるんじゃないかと、ジョージ・オーウェル「1984」に登場する「真理省」のようなことも想像してしまいました。その頃には現実世界から離れてメタバースで日常を送っているのかもしれませんが。
AI政治家が必要だ
異常に長くなってしまったAI絵日記、今回はMidjourneyを使いながら「AIが仕事を奪うのではないか」「AIがフェイク情報を増やすのではないか」ということについて考えてきました。「AIは仕事を増やす」「ファクトチェックを通じて正しい情報も増やす」というのが私個人の楽観的な見立てです。
仕事については、画像生成AIのみならず、ほかのAIやロボットについても似たようなことが起きていくのではないかと感じます。たとえばAIが事務職の仕事を奪うのではなく、一度にできる仕事の量を増やしたり、他の仕事を兼ねられるようにするのではないかということです。AIによって失われる職種がある一方、それ以上に増える仕事があるのではないでしょうか。
人間の欲望が尽きない限りテクノロジーは生産性を高めるために使われるはず。自動車工場がより大量の自動車を作るために生産ラインの自動化を進めてきたように、社会はAIへの投資によって1人あたりの生産性を高めることを目的とするはず。労働人口が減っていく中であっても、AIによって成長は維持されることになるというのが、AI時代の楽観的なシナリオなのではないかと思います。
といってもAIを管理する人、AIを使う人、AIを使わない人の社会的格差がさらに広がることは十分考えられるので、AI時代に対応した政策は必要になりそうです。
ともあれ何が出てくるかわからないこの混沌とした状況が楽しいですね。ドル円が非常に厳しいですが、おサイフの許す限り召喚を続けたいと思います。
書いた人──盛田 諒(Ryo Morita)
1983年生まれ。5歳児と1歳児の保護者です。Facebookでおたより募集中。
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