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チノパン(チノパンツ)なんてどこにでもあるが……
ASCII編集部に入ったとき、「自分で買ったものは、自分で記事にしていいよ」と言われました。記事にしてよいものはなんでしょう? その問いには、PC、カメラ、ゲーム……「電気が通っていればなんでもOK」と説明されたものです。
そんな中、筆者は、「カップ麺って記事にしていいんですか?」「エナジードリンク好きなんですけど」などと軽口を叩き、ASCII.jpはラーメンにもエナドリにも電気を流してるからイケるだろ(参考:「ラーメンやエナジードリンクでも自家発電できる?」)、とめちゃくちゃな理屈で記事を書き散らし、すっかり浮いた存在になり、もう数年になりました。
最近では、ニューバランスのスニーカーやらM-65フィールドジャケットやら、要するに「自分の買った服を記事にしているだけじゃないか?」と言われそうですが、買ったものは何でも使えの精神です。さすがにこれらは電気が通らないのですが、もう誰も気にしなくなりました。
今回は、チノパン(チノパンツ)です。いよいよネタ切れか……と思われそうですが、一味違います。なんと、「110%品質保証」とうたうチノパンです。インターネットのうさんくさい日本語の広告、あるいはSNSに蔓延するスパムアカウントみたいですが、そうではありません。
その名は「ビルズカーキ(Bills Khakis)」。
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こちらが「ビルズカーキ」のパンツです。裾上げをしてから、1回洗濯して、乾燥機にかけています(センタークリースを消したかった)
1984年、創業者のビル・トーマス氏が、通っていた大学近くで、第二次世界大戦時に生産されたパンツを購入します。市販されているものとは一味違う、生地の耐久性、独特の風格……。ビル氏はこのパンツに深く影響を受け、入手した現物から、自分の理想のパンツを作り上げんとします。
試行錯誤を経て、1990年にペンシルベニアにて創業。品質に絶対の自信を持っており、その証拠に「110% Guaranteed(110% 品質保証)」であることをタグに明記しています。ふざけているのではなく、本気なのです。
そもそもチノパンとは
我々がいう「チノパン(チノパンツ)」とは和製英語だそうで、英語圏では「チノーズ(chinoes)」と呼称されています。英語では、「ソックス(socks)」「ジーンズ(jeans)」など、脚に履くものは複数形にしますが、チノーズの“ズ”もそれにあたります。
では、チノ(・クロス)とは何か。綿のツイル生地で、元々は19世紀中頃に、イギリスやフランスの軍隊の制服に使われた生地なのですね。
チノは、主にカーキ色(淡い茶系色)が多いです。その起源はイギリス陸軍にあると言われています。ズボンの色はもともと白だったのですが、汚れやすく、それが目立つので、19世紀中頃、インドに駐屯していた士官が土色に染めさせた……という起源があるそうです。“カーキ”はヒンディー語で「埃の色」を意味するとか。
一方、“チノ”という名前になった由来は諸説あり、フィリピンに駐在していたアメリカ陸軍が軍服に使うため、イギリス軍で使われていたカーキ色の生地を「China(中国)」を経由して輸入したからとか、フィリピンで戦争後にチノをよく着ていたのは中国人農民 (Camisa de chino)であり、スペイン語で中国人という意味の「Chino」から来ているとか……(1986年まで、フィリピンでスペイン語は公用語の位置にありました)。
いずれにしても、第二次世界大戦後、米軍兵たちがチノパンを着用していたことや、軍の余剰品が市場に出回るようになったことなどで(ビルズカーキの創業者が出会った原型もこれかもしれません)、アメリカを中心に市民権を得るようになりました。
ちなみに「カーキ」という色には、「軍服の色」というイメージもあります。よって、森林地帯での戦闘を想定して採用されたくすんだ濃緑色(いわゆる「オリーブドラブ」)も、とくに日本では“カーキ”と呼ばれることがあります。しかし、元々の語源を考えても、茶系色のことを指す言葉といえます。
ビルズカーキの公式サイトには(Our Heritage - Bills Khakis)、カーキ色のパンツのことを「khakis」と称しており(実際、カーキ色の織物で作られた軍服を「khakis」と称すことがあります)、ビルズカーキとしては、「チノパン」「チノーズ」ではなく、「カーキ」なのでしょう。
デザインのベースはミリタリーです
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2プリーツ。ゆとりのあるクラシックな腰まわり
ここまでいろいろと書いてきましたが、このチノパン自体の話をすると、「ここがめちゃくちゃ変わっている!」というポイントは、実はそれほどありません。
それを言ってはおしまいという気もしますが、何しろ、創業者が「昔のパンツからヒントを得て、自分の理想を実現した」ものなので、独創的なシルエットだったり、機能的な素材を使っていたりするものではないのです。
筆者が購入したのは、「M1」というモデル。「RELAXED FIT」と銘打たれており、簡単に言えば「太い」チノパンです。価格は2万4200円。まあ、安いものではないですね。
陸軍の士官が穿いていた、オフィサーズチノがベースとなっているそうな。色は「ブリティッシュカーキ」というもので、要するに濃い目のカーキです。
ビルズカーキのその他のモデルには、太すぎず細すぎず(といっても日本人体型からするとやや太めですが)の「M2」、スリムフィットをうたう「M3」などがあります。
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ジップフライ。裏側の青いパイピングがシャレていますね
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両玉縁のポケットで、左ポケットだけボタンがあるのも軍のパンツにならっています。ベルトループの形も軍モノっぽい
股上が深くて、2プリーツで腰回りに余裕があり、ワタリも裾幅も広い。裾に向かってゆるくテーパード(次第に細くなる仕上げ)もかかっていますが、まあ、それでも太いですね。
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ポケットも普通といえば普通。ただ、けっこう深めです
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意外にも横は巻縫いではなく、スラックスっぽい脇割り
さすがに生地はこだわっておりまして、8.5オンスのオリジナルツイルです。短い繊維を取り除いて、繊維の平行度をよくした「コーマ糸」を用いた、なめらかな質感が特徴です。
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8.5オンスのやや厚手のツイル地。ごわごわしておらず、なめらかです
チノパンというと、中年男性が休日に履いているものというイメージがあるかもしれませんが、ビルズカーキのこれは、創業のストーリーをふまえてみても、どちらかというと「ミリタリーもの」の外見に近いパンツといえるでしょう。まあ、そもそも、チノパン自体の出自がミリタリーであるともいえるのですが……。
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