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50歳をすぎても悔しい気持ちを忘れない! スーパー耐久ジェントルマンドライバーの戦い

2022年07月18日 15時00分更新

文● 折原弘之 写真●折原弘之

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同一大会2連勝を狙ったTKRIチームの挑戦

チームTKRIの面々

 鈴鹿サーキットで初戦を迎えた「ENEOS スーパー耐久シリーズ2022 Powered by Hankook」は第2戦の富士24時間耐久レースを消化し、7月10日にスポーツランドSUGOで第3戦が開催された。今回はSUPER GTでグッドスマイル 初音ミク AMGをドライブする片岡龍也選手がプロデュースするチーム「TKRI(TK Racing Invitation)」に密着したレポートをお届けする。39号車 冨林選手のレポートは別記事にて。

 さて、昨シーズンはST-Zクラス(主にFIA GT4マシンで競われるクラス)でクラス優勝をはたしたTKRIは、最高峰であるST-Xクラス(主にFIA GT3マシンで競われるクラス)にステップアップし。同一大会2連勝に挑んだ。クラス変更とともにドライバーもジェントルマンのDAISUKE、プロドライバーの元嶋佑弥両選手に、今シーズンから同じくプロドライバーの中山友貴選手を新たに加えた新体制で臨んでいた。メンテナンスはこれまたSUPER GTでGOODSMILE RACINGを担当しているRSファインでエンジニアでもある河野高男氏が監督を務めている。

 開幕戦の鈴鹿では2位に入り、順調な滑り出しを見せたが、続く第2戦はパスしたため、この大会が事実上2戦目となった。

フリープラクティスから好調さを伺わせる仕上がりとなった

 レースウィークに入った金曜のフリープラクティスでは、SUPER GTでも同一車両を扱うRSファインが素晴らしい仕事をしてみせる。扱い慣れたMercedes-AMG GT3を見事にセットアップし、優勝を狙えるレベルに仕上げているようだった。フリープラクティスは暑いくらいの晴天に恵まれたが、予選が始まると空はグズつき、路面状況もタイヤチョイスが難しい微妙な状態となってしまう。

雨の中踏ん張りをみせ3番グリットを確定させたDAISUKE選手

 AドライバーとBドライバーのタイムの合算で競われる予選は、DAISUKE、元嶋両選手が担当した。ST-XクラスのAドライバーは、ジェントルマンドライバー(プロドライバー以外)と定めれれているため、プロドライバー2人で予選を走ることができない。そのためタイム差がさほどないプロドライバーより、ジェントルマンドライバーの走りで予選順位が大きく変わってくる。

 SUGOは昨年優勝しているゲンの良いサーキットで、DAISUKEが踏ん張り3番グリットを獲得した。この結果は翌日のレースに向けて、上々のポジションを確保したと言える。

決勝で快走を見せるTKRIチームに襲いかかる最後の試練

一夜明け晴天に恵まれたSUGOサーキット

スタートから激しいバトルとなったST-Xクラス

 一夜明けたSUGOサーキットは、晴天に恵まれドライコンディションでレースが行なわれた。予選を上位で終えたTKRIチームだったが、ST-Xクラスの予選は雨中で行なわれたため合計タイムが伸びない。結果ドライで予選を行なった、ST-Z、ST-Q.、ST-1クラスのタイムに及ばなかった。そのため実際にスタートするのは、13番グリットになってしまう。最も速いクラスのマシンが、グリット後列に並ぶ異例のスタートとなった。

 大きな混乱もなく3周もするとST-Xクラスの車両が上位を占めた。ここでスタートドライバーの元嶋選手が、スタートから快走を決めトップに立ち、レースをリードし始める。しかも、2位争いが激化していることも手伝って、元嶋選手は順調にリードを広げ始める。

元嶋選手から中山選手にタスキが渡される

 スーパー耐久ではドライバーがランク分けされており、そのランクによって走行時間が定められている。元嶋選手はそのレギュレーションに乗っ取りピットインし、次走の中山選手にバトンタッチ。今シーズンからMercedes-AMG GT3のハンドルを握る中山選手だが、SUPER GTのドライバーらしく安定したドライビングでトップをキープ。元嶋選手の築いたタイムギャップを、さらに広げてDAISUKE選手にバトンを繋いだ。中山選手にも走行時間の規制がかかっているため、残り50分をDAISUKE選手にチェッカーまで任せることになる。

トップでコースの戻ったDAISUKE選手

 最終走者となったDAISUKE選手は、普段は建設会社を運営する社長。プロドライバーとは違い、日々通常業務に追われトレーニングに割く時間もままならないジェントルマンドライバーだ。対して、2位を走る888号車 Grid MotorsportはGTでも最多勝を誇る高木真一選手、31号車 aprは嵯峨宏紀選手とトップカテゴリーで百戦錬磨を誇るドライバーたちだ。スピードだけで言えば、太刀打ちできるわけがない。それでもDAISUKE選手は、必死の走りでトップを死守し続け残り時間との戦いとなった。

DAISUKE選手の直後に迫る高木選手

 残り15分を切った頃に高木選手の乗るMercedes-AMG GT3が、必死に逃げるDAISUKE選手に追いついてきた。同じマシンではあるがプロドライバーのスキルから逃れることは叶わず、2周に渡り抑えるも先行を許してしまう。ポジションを1つ落としまうが、間髪入れず3位と4位マシンが襲いかかる。3位の16号車 ポルシェセンター岡崎の永井選手と、aprの嵯峨選手は1分24秒台前半でラップしているのに対し、DAISUKE選手は1分25秒台だ。タイム差を考えると、残り時間を抑え切るのは難しいだろう。それでもDAISUKE選手は、最後の力を振り絞り数周にわたって2台を抑える。

必死にブロックし順位を確保しようとするDAISUKE選手

 残り時間が4分を切った頃、2~3位の選手に抜かれてしまい、TKRIは4位に陥落してしまう。表彰台に乗れる3位と、乗れない4位では1つ違いでも大きな隔たりがある。レース序盤にトップを快走していただけに、TKRIチームのメンバーの落胆は大きかっただろう。中でもDAISUKE選手の悔しさは、味わった者にしか分からないほどだったと思う。パルクフェルメにクルマを止め、降り立ったDAISUKE選手はピットに向かって手を振ったあとうつむき気味にピットへ戻ってきた。

レースを終え応援団に挨拶をするDAISUKE選手

ピットに戻る表情には笑顔はなかった

 いつもはニコやかなDAISUKE選手だが、さすがに平常心というわけにはいかないようで厳しい面持ちだった。トップでバトンを受けながら表彰台を逃した申し訳なさ、自分のドライビングテクニックの未熟さなど色々な気持ちが混ざり合っていたに違いない。かける言葉もないとはこの事だが、僕はいつも通り一言「お疲れさまでした」と声をかけた。すると「力及ばずでした」とだけ言い残してガレージに戻っていった。

 どんな言葉をかけても、今のDAISUKE選手の気持ちを楽にしてあげることはできないだろう。順位を争う以上、それは仕方のないことだ。ただ50歳を過ぎて、これほど悔しい思いをすることがあるだろうか。仕事に忙殺される毎日を送る中で、魂を揺さぶられるでき事など数えるほどしか起こらないかもしれない。もちろん優勝して仲間と喜びを分かち合える方が、好ましいし心も痛まない。ただ、あえて言わせてもらうなら、DAISUKE選手は普通では得難い経験をすることができたはずだ。レースに限った事ではないが、本気で挑んでいるからこそ本当の感動が得られる。不謹慎ながら、肩を落として引き上げるDASUKE選手の姿を、うらやましいと思ってしまう自分がいた。

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