世界初の“超軽量・透明”な断熱材、事業化でカーボンニュートラル社会への貢献を目指す
三洋化成工業 事業企画部 大高剛史氏・森宏一氏・福本浩志氏×ティエムファクトリ CEO 山地正洋氏・CFO 倉田真弥氏
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この記事は、民間事業者の「オープンイノベーション」の取り組みを推進する、オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)との連動企画です。
地球温暖化防止対策は喫緊の社会課題となっており、世界的に温室効果ガス(CO2)の排出量削減が強く求められている。このような背景から、省エネルギー対策の一環として冷暖房効率の向上や熱の有効利用につながる断熱材の重要性がここに来て再認識されている。
そうしたなか、素材系ベンチャーであるティエムファクトリと京都大学が開発したのが、高い断熱性能を持ちながら、超軽量で高透明度といった特長を有する断熱材「SUFA(スーファ:Super Functional Air)」だ。大手素材メーカーの三洋化成工業は、この世界初の特長を備えた断熱材であるSUFAの普及が温室効果ガス削減に貢献するとの認識から、2020年5月にティエムファクトリへ出資を行っている。密接なコラボレーションを展開する両社の担当者に話を聞いた。(以下、文中敬称略)
ベンチャーの新技術と大手の事業化ノウハウとの相互補完型実施内容の要約 | 世界初の超軽量透明断熱材「SUFA(スーファ:Super Functional Air)」の事業化(三洋化成工業、ティエムファクトリ) |
関わり方や提供物 | 企出資、研究協力、量産化ノウハウ、大手素材メーカーとしての事業化への知見や顧客とのネットワーク提供(三洋化成工業) SUFAの技術・研究者を中心とした密接なコラボレーション(ティエムファクトリ) |
求める成果・ゴール | 熱マネジメントやカーボンニュートラルへ貢献する形での事業化(三洋化成工業) 製品化・量産化に向けた技術改善(ティエムファクトリ) |
将来 | カーボンニュートラルな持続可能な社会への貢献(三洋化成工業、ティエムファクトリ) |
大手素材メーカーと素材系ベンチャーとの出会い
──三洋化成工業がスタートアップのティエムファクトリと協業したのはどのような理由からなのでしょうか。
大高 もともと当社は自前主義が強く、研究人員が社員全体の3割を占めるなど、自力で新商品を生み出すことに注力してきた歴史があります。しかし2000年ぐらいから、エレクトロニクスやライフサイエンスといった分野でも事業を展開するようになると、すべて自前で完結するのは難しいと感じ始めました。
さらに3年ほど前からは、自前だけではない、顧客への価値提供が重要であるという意識への変化があって、そのための方法論として協業についても本格的に視野に入れるようになったのです。この2年の間には、シリコンバレーやベンチャーキャピタルとのコワークを含めて4社との協業を行っており、そのうち1社がティエムファクトリさんになります。
弊社では多数の製品を扱っていますが、これらはすべてお客様の声に応えた結果です。最適な素材、ソリューションをきめ細かく対応するなど、顧客向けにカスタマイズしている結果がビジネスの伸長につながっています。顧客のニーズに応えることをモットーにしているため、ベンチャーとの連携もそのような観点があります。
──ティエムファクトリが開発したSUFAとはどのような素材なのか紹介してください。
山地 ティエムファクトリは、世界初の超軽量透明断熱材であるSUFAの事業化を進めている素材系ベンチャーです。SUFAは当社が京都大学と共同で開発した高い透明度を有した板状のエアロゲルです。
これまで板状のエアロゲルの作製には、超臨界乾燥装置と呼ばれる高価な装置が必要であったため、現実的な価格での販売が困難でした。SUFAは当社独自の処方により、高透明度で大判のエアロゲルを、特殊装置を使用せず作製することに成功したことで、量産化を見据え価格を抑えることが可能になりました。
高い透明性に加え、もう1つのSUFAの特長として、モノリスタイプで0.012~0.014W/m・K 程度という非常に高い断熱性が挙げられます。断熱材としての性能は世界最高レベルであり、加えて透明で軽量なことから、これまで断熱が困難だった窓や透明部の断熱も可能になります。住宅や自動車、保冷物流などの業界で搭載されれば、熱マネジメントが効率化されて、地球環境への負荷低減に大きく貢献できると期待しています。
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