見た目はカワイイけど走りは獰猛
それでは公道へ。まずはノーマルモードを試してみることにしましょう。スポーツカーっぽい低い音が車内に轟きます。「おぉ! やる気ですね!」と唯さんはニコニコ。ですが走り始めてスグに「このクルマ、思ったより進んでくれないように感じるのは気のせいですか?」と意外な反応。「あとハンドルが結構軽いんですね」と、手強いクルマと覚悟していた分、ちょっと拍子抜けしている様子。「坂道発進時に補助機能が働く時があったり、なかったりで。坂の角度によるんですかね? それと発進時に少しエンジンの回転数が上がっているようで、それが発進のしやすさにつながっているようです」と、色々と困惑されているようです。
「クラッチペダルのフィーリングはやや重たいのに、アクセルペダルのそれは軽いというか……。シフトフィールはスコッと柔らかく入る感じ。ストロークは比較的長めですね」と、テキパキと感想を述べていきます。「視界は悪くはなさそうです。むしろ思っていたより広いかも」とのこと。ちなみに座高のある人が座ると、思ったよりシートが下がらずに前が見づらいということになりそう。身長185センチの不肖はローポジションシートレールが欲しくなりました。後席の件もしかりですが、イタリアの男性って小柄な方が多いんですかね?
「アバルトというので、ガチガチの硬い乗り心地を覚悟していたんですよ。実際はしなやかで驚きました」と唯さん。これには筆者も同意見で、以前FIAT 500 TwinAirを試乗したことがあるのですが、それよりも柔らかいように感じた次第です。「普段の街乗りでも全然平気。排気音はスポーティーだし音も普通のクルマに比べれば大きいですが、それほど耳に付くような音じゃないです」と唯さん。
ただ、「サイドブレーキの近くにシートの座面高さ調整のレバーがあって、間違えてひいちゃいそうになりました」というわけで、独特のクセはありそう。
街をそこそこ走ったところで、そのままSPORTモードに変更。ブーストメーターにSPORTと表示されます。押した途端「コレですよね! やっぱり!」と陽気な笑顔に。「ハンドルが重たくなったようです。アクセルレスポンスも俊敏になりましたね。基本的にこれで走れ、ということですね」と唯さんは小気味よくシフトを操作しながら街を駆け抜けます。「このクルマ、オモシロ! いいじゃないですか!」と完全にハマったようです。「小さいから街乗りにピッタリ。それでいて楽しい。これはイイですね」と賛辞の嵐です。
そのまま高速へ合流。「ホイールベースが短いし、背も高いからどうなんだろうと思ったのですが、意外と安定しているというか、むしろこっちがメインという感じですね。トンネルの中でエンジンを回すと、ホントにいい音がします。乗り心地が一層よくなる印象ですから、遠出のクルマとしても楽しそう」。唯さんはルンルン気分で首都高を走ります。
ルンルン気分で首都高C2の中を走っていたところ、スマホナビが途中で道をロスト。走り慣れない道ということもあり、唯さんは迷子になってしまいます。「スマホナビって、こういうことが起きるんですね。山とかで電波の届かないところとか困りますね」と困惑する唯さん。これはGPSの電波が届かない時に起きる現象で、一般的なカーナビは速度検知や本体内のジャイロなどで電波がロストした状態でも補正をしてくれるのですが、スマホにそのような機能はありません。板橋JCTが見えた時には「このまま大宮方面に向かって、高島平で降りてレインボーモータースクール和光に行きます?」と呑気なことを。いやいやいやいや、そこまで時間は……ということで、東池袋で降りました。
「楽しかったからOKということで!」と、道を間違えても唯さんはポジティブ。そういう気持ちになれるのは、このクルマが楽しいヤツだから。普通のクルマだったら、きっと車内は険悪な空気が流れていたかも!? そういったラテンのノリにさせてくれるのも、イタリア車の魅力なのでしょう。「人生、時には寄り道が必要なんですよ」。
「このクルマのファンになる気持ち、凄くわかります」と唯さん。「見た目も個性的でかわいいですし、日本の道にピッタリだし何より走っていて楽しい。1~2人でのドライブやお買い物にピッタリですね。320万円という値段はちょっと高いかなと思いましたけれど、唯一無二の魅力に溢れていますから納得できますし」とのこと。「でも、カーボンニュートラルやら電動化とかで、こういうクルマが減ってくると思うと悲しくなりますね。可能な限りいつまでも作り続けてほしいですし、持っている方は大切に乗り続けてほしいですね」。こうして気づけば唯さんはサソリの毒にあてられてしまったようで、「もっと乗っていたい」と笑顔でした。
320万円あれば、国産Bセグメント・コンパクトの上位グレードが購入できます。運転支援もついてくるし、後席も広く荷物だって載せられます。燃費だってイイです。何よりレギュラーガソリン対応。アバルトはハイオクですから、お財布に優しくありません。ついでに言えば、アクセルを踏むだけで一気に加速をするのに対し、こちらはギアとクラッチを操作しなければなりません。ですが国産Bセグメントのクルマにはない魅力がたっぷり詰まっていますし、何より乗り手をハッピーな気持ちにさせるのがアバルトです。高機能になればなるほど、クルマは人から離れてしまっているのかも? 唯さんの笑顔を見ながら、そんなことを考えてしまいました。
A PIT オートバックス東雲の担当者によると、アバルト 500をベースにカスタマイズされる方は多いのだとか。これだけ楽しいクルマなのですから、より一層自分好みの1台、自分だけの1台にしたくなるのも納得です。ということで、唯さんには今度、A PIT オートバックス東雲が仕上げたデモカーに試乗してもらいたいと思います。どんなクルマに仕上げられているのでしょう? 唯さんは今から楽しみで仕方なさそうです。

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