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「月収5万円」から1500人の組織へ アイレットの成長を見届けた先に進む道

AWS黎明期を駆け抜けた後藤和貴の卒業――東京リージョン開設前夜からAI時代へつなぐ、エンジニアの心得

2026年03月17日 11時00分更新

文● 大谷イビサ 写真●曽根田元

提供: アイレット

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 日本のクラウドに夜明けを告げるAWS東京リージョン開設から15年が経った。そんな黎明期からクラウドに突き進み、当初20人だったアイレットを1500人規模に成長させた立役者である後藤和貴さん。2026年3月でアイレットを卒業する後藤さんとコミュニティでつながった仲間たちに、東京リージョン立ち上げ前後のマインドセット、熱狂、コミュニティを振り返ってもらった。

インフラをカジュアルに扱える AWSのインパクト

 「とにかくどこにでもいる人」というのが、アイレット後藤さんに対する印象だ。仕事柄さまざまなイベントに取材に出かけるが、後藤さんに会う確率は高い。初期のJAWS-UGで「AWS Samurai」の称号を2度も受賞したコミュニティガイではあるが、私の知る後藤さんは、コミュニティイベントや畑違いと思われるようなSaaSやビジネスイベントを物静かに楽しむタイプに見えた。つねにアンテナを張り巡らせ、次のビジネスや組織作りに活かそうとしているハンターのような存在。それが後藤さんだ。

 そんな後藤さんは1990年代後半に、新卒第4期でデータベース最大手のオラクルに入社。ソフトウェアエンジニアとして研鑽を積んだが、テクノロジーを身近な人のために使いたいという想いで、システム開発できるチームを構築すべく日本のデザイン会社に転職した経歴を持つ。

アイレット 執行役員  後藤 和貴さん

 2000年当時は、企業のWebサイト構築やECの立ち上げが相次いだ時期だった。後藤さんは転職先のデザイン会社で組織開発、プロジェクトマネージャー、営業などの役職をほぼ網羅する形でビジネスの拡大に寄与。最終的には執行役員に登り詰め、9年間に会社を20名から300名の規模に成長させた。

 会社の成長を見届けた後藤さんは、「100%技術で価値提供することにチャレンジしたい」という想いでデザイン会社を退職。2年間くらいフリーランスを経験したが、このときにその後の後藤さんの人生を左右する2つの出会いがあった。のちにジョインするアイレットの齋藤将平さん(現アイレット 代表取締役会長)とフットサルでつながり、当時エンジニア界隈で話題になっていたクラウドと出会ったのだ。

 後藤さんは、「当時はプロジェクトごとに混成チームをまとめて、お客さまにシステムを納品する仕事をしていたのですが、なにか武器がないと、これから食いっぱぐれてしまうと思っていました。そんなときに、たまたま見つけたのがクラウドだったんです」と振り返る。海外のイベントで見つけたのは、まだまだ出たてのAWS。そして北米で始まっていた周辺ソリューション、たとえばRightScaleのようなサービスだった。

 後藤さんにとって、AWSのインパクトはデザイナーやプログラマーの会社でもインフラを扱えることにあった。「デザインの案件を受注すると、サーバーも見てくれというオーダーが来ます。当時はレンタルサーバーでは足りない要件もあったので、お客さまから指定されたデータセンターやサーバーを使うことになるのですが、そうなると金額の桁がどんどん大きくなる。逆に言うと、自社でインフラ部門を持っていないと、大きいビジネスになりづらい。だから、デザイン会社でもインフラを扱えるAWSのようなサービスの存在は大きかったんです」と後藤さんは語る。

 システム開発会社であるアイレットも、インフラの管理に悩みを抱えていたという。「アイレットも当初は創業の地である木造家屋にラックを置いていたらしいですが、『さすがに』ということで、データセンターでサーバーを運用していました(笑)。でも、夜中に電話でソフトウェアエンジニアが呼び出され、極寒のデータセンターで作業するのは辛い。だから、AWSのインパクトは大きかった。『黒い画面で難しそうだけど、これならできそう』ということで、AWSの利用が始まりました」と後藤さんは振り返る。専門のインフラエンジニアでなくても、インフラをカジュアルに扱える。これが後藤さんの見たクラウドの未来だった。

これって誰が使う? 月の売上5万円だったcloudpack立ち上げ当初

 後藤さんやアイレットは、すぐにAWSのメリットを実感することになる。「障害発生時にサーバーを再立ち上げするのもAWSなら楽勝だし、データセンターに行かなくて済む。海外のサーバーも遠隔から管理できる」と後藤さんはメリットを語る。一方で、一般企業にこの価値が伝わらなかったのも事実。実際、他社はデータセンター前提の提案だったので、立ち入り検査ができない後藤さんのAWS提案はコンペから落ち続けたという。

 当時は日本でも国産クラウドサービスが立ち上がり始めた頃だが、ユーザー企業はクラウドの「ク」の字もわからない状態だった。ただ、後藤さんは幸運なことに実システムでクラウドを利用する機会を得る。以前働いていたデザイン会社がパナソニックの海外向けSNSのシステム構築案件を受注したのだ。「現地になるべく近いところでサイトをホストしたいという要件だったので、AWSを提案してみたら、採用されたのでシンプルなSNSサイトを構築しました。ロードバランサーを入れて、EC2の冗長化くらいはしていたと思います」(後藤さん)という。

 この案件をきっかけに後藤さんはアイレットに参加した。「アイレットはすごく開発能力が高かった。AWSにしたことで可用性もコストパフォーマンスも出せたし、なによりお客さまが喜んでくれた。これは行けるのではないかと思い、齋藤将平や鈴木宏康さん(現アイレット 執行役員常務)とともに、2010年からAWSをサービスとして立ち上げることにした」ということで、2010年4月に生まれたのが「AWS+」だ。

 一販売代理店に過ぎなかったアイレットが「AWS+」というサービス名を付けることは、今でこそはばかられるかもしれない。しかし、サービス開始当時のAWSはアジアにシンガポールリージョンしかなく、日本法人も立ち上がったばかりだった。課金体系も「ドルベース・従量課金」という課金体系。AWS+では「円払い・固定料金」という料金プランでサービスを提供し、クラウドの構築と運用を手がける「cloudpack」というサービスブランドも立ち上げた。

 ただ、当初は厳しかったという。「拡張可能なホスティングサービスという見せ方にしたんですが、そんなに売れなかったですよ(笑)。アイレット自身が持っていたホスティング環境をAWSにリプレースするとか、ピーク性のアクセスに対応するくらいしか案件がなくて。月1件くらいの受注で、開始当初は月間売上5万円という時代でした」と振り返る。

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