高圧洗浄機がラブな日々
筆者は高圧洗浄機が大好き。自宅が山に囲まれ、メジロやシジュウカラが庭に遊びにくるせいでしょうか。自動車はもちろん、中庭のタイル、家の外壁や塀など、週に1度は「バシャー!」と洗い流すと、心の汚れも、ストレスも取れる気がするから不思議です。
しかし、最近、そんな高圧洗浄機の調子が悪い。スイッチを入れてもモーターがなかなか動かず、水に圧力がかかりません。たまにこうした不具合がありましたが、いまでは頻発するように。ストレス解消のはずが、イライラの原因になってるんですよね。
筆者が愛用している「K5.900」(ケルヒャー)は、2014年頃に買った製品。数えれば、もう8年も使っています。「そろそろ買い替えかなあ……」と思ってネット検索してみたら「ヒェ~、5万円もする!」と驚きました。8年前の自分は、ハイスペック好きだったのだなあ……。
良い製品を長く使うルール
筆者がK5.900を選んだ理由は、水冷式モーターで作動音がすごく静かで、吐水圧力が12Mpaと高出力なこと。筆者の住む田舎の汚れはガンコなのです。さらに、「ドイツの会社だから質実剛健」、なんとなくそんなイメージもあったからです。
最近では、いろんな製品の価格が下がり、「故障したら買い替え」という時代なのかもしれません。しかし、筆者の子供の頃は「モノを大切に。壊れたら修理」が当たり前でした。今で言う、“SDGs”な時代かも。というわけで、自分で修理してみることにしました。
DIY修理のスタートは、情報収集から
まずは「部品が流通しているのか」をチェックすることからDIY修理は始まります。日本のネットショップでもいくつかの部品は販売されていますが、とりあえず、海外のebayで確認してみたところ、たくさんありました。ただし、海外発送の部品の場合、200円の部品でも送料が3000~4000円かかるので、注意が必要です。
他のユーザーの修理動画を見てみると、故障は内部スイッチの接点の炭化が原因が多いようです。炭化は、スイッチ内部の金属端子が接触するときの火花が原因。炭化が起きると通電箇所が偏り、さらに症状が進むという難点があります。
筆者のように「だんだん、スイッチが入らなくなってきた」場合は、そんな疑いが濃厚かもしれません。とりあえず、分解して部品の様子を見ることにします。
DIY修理では、おなじみのT型トルクス
工業製品では、ユーザーに開けてほしくない箇所に普通のドライバーで開けられないトルクスネジが使われています。ケルヒャーのK5.900も、トルクスネジ12本で「シロウトは開けんなよ!」とばかり、しっかりと留められています。
ちなみに、2009年以降のiPhoneやiPadのネジは、トルクスの5角形ではなく、ペンタローブ。詳しくは「意外と知られていないネジとドライバーのスペック」でも解説していますので、ご興味のある方は、どうぞ。
余談ですが、こうした大型の電気製品を修理するときは、ヨガマットやストレッチ用のマットを敷くと、床や製品に傷がついたり、電源コードを傷めたりしません。もちろん、分解中に多少の水漏れがあっても大丈夫。あとは、マグネットトレイがあると、ビスがなくならず、便利です。
やっぱり質実剛健だった
内部を見て、まず驚いたのは、とても良く設計されていること。写真をご覧いただくとおわかりでしょうが、8年間、屋外で保管した家電内部とは思えない状態です。
ホットボンドや接着剤で固めたような場所はひとつもありません。以前、ポルシェに乗っていた時も、エンジンを見て同じ印象を持ちましたが、やっぱりドイツ人の気質なのでしょうか(ただし、K5.900の製造は中国)。
写真の中央が水冷モーターと水圧を高めるコンプレッサー、中央上に大きなコンデンサー、右上の白いケースに内部スイッチが入っているだけのシンプルで合理的な配置です。
内部スイッチの4極の端子をテスターで測ってみると予想通りの接触不良でした。さらにスイッチを分解して、内部の金属を磨いて、炭化部分を落として修理は終了です。動作確認をしてみると、買った時のように快調に動きました。
おそらく、次に調子が悪くなったときは、スイッチ自体やコンデンサーを交換する必要があるかもしれません。
DIY修理が得意でない方は、メーカーや販売店へ
筆者は、工業高校と電気系大学で学んだ知識があるので、家電修理のポイントを理解しているつもりでいます。説明書にも記載されているように、電化製品を自分で修理する場合には、ケガや事故、火災などのリスクがあることを忘れないでくださいね。
ケルヒャージャパンでは、保証期間が終わっても1万2000円(モーター以外の部品交換込み)と往復送料3000円で修理を受け付けているそう。なので、筆者のようなモノ好きでヒマ人でなければ、そんなサービスがお勧めです。
筆者が想像したとおり「ドイツのメーカーの製品は質実剛健」。そんなふうに今回のコラムを読んでいただければ幸いです。
その夜、仕事先で「マジシャンって、料理もしなさそうなキレイな指先ですよね」と褒められ、「さっきまで、高圧洗浄機の分解修理をしてました」と答えられず、苦笑いしたのは、ここだけの秘密ですが……(笑)。
前田知洋(まえだ ともひろ)
東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。
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