
マジックの道具ってどこで買うんですか?
「マジックの道具って、どこで買うんですか?」という質問を、たまにいただきます。もちろん、いろいろなマジシャンがいますが、筆者の場合、あまりマジック用の道具を買わないタイプです。
その理由は、既存のマジックの道具は、デザインや色が筆者の好みに合わないことが多いから。しかし、マジックにはタネが必要ですから、しかたなく一般的に売られる普通の製品をカスタマイズしたり、スクラッチ&ビルドで制作したりすることがほとんどです。

海外のマジックショップで購入した「ボールが消えるマジック」。マジックの道具は独特のあやしいデザインが多い
帯電防止シューズが欲しい、でも好みに合わない
このところ、「静電気のパチパチ」が筆者にとっては悩みのタネ。春先で空気が乾燥していることもあってか、エレベーターのボタンでパチリ、人に触れてもパチリと指先から火花を散らしています。指先が敏感なせいか、毎回、不快に感じています。
その原因は、自宅にカーペットが多くルームシューズを履いていることや、ホテルなどのカーペットを敷いている場所が仕事場であることが多いせいかもしれません。
ご存知かもしれませんが、あの静電気でパチリとするのは、体に溜まった静電気の逃げ場がないことが原因です。
同じように静電気に悩んでいる人も多いらしく、世間では「帯電防止シューズ」と呼ばれる静電気のパチパチを防止する靴が売られています。帯電防止シューズの原理は比較的シンプル。靴の底に電気を通すゴムなどを使い、足の裏から体に溜まった静電気を地面に逃がす……それが原理です。
ただし、インターネットで検索してみても、そのほとんどが、病院や工場などで働く人向け。筆者の好みに合ったデザインの帯電防止シューズが見つかりません。
というわけで、マジックの道具と同じように、お気に入りのサンダルを帯電防止シューズにカスタマイズしてみることにしました。
実験に使ったのはKEENのNEWPORT
今回、用意したのはKEENのサンダル「NEWPORT H2」(直販価格1万4300円)。KEENは2003年、アメリカのオレゴン州ポートランドで設立されたフットウェアブランド。創業モデルの「NEWPORT」は「サンダルはつま先を守ることができるのだろうか」という問いから生まれたという逸話があります。
筆者がNEWPORT H2を選んだのも、デザインや履き心地はもちろん、そのヘビーデューティさ。雨風にさらされながら、野外に放置して15年くらい履き続けています。
もちろん、自宅にある靴でもよかったのですが、前からずっと欲しかった全部が黒色のKEENのサンダルが2022年のモデルとして発売されたので、この記事のために購入しました(笑)。

今回の実験用に購入したKEENのNEWPORT H2、トリプルブラック
もうひとつ必要なのは、導電性のある「シールド布テープ」です。これはニッケルメッキされた布をテープにして接着剤をつけた物。本来はケーブル類から発生する電磁波を防ぐための製品です。アマゾンで621円で購入しました。

「シールド布テープ」幅13ミリ。協和ハーモネット
このテープでインナーソールと靴底を繋ぎ、足底から地面に静電気を流す……そんな計画です。はたしてうまくいくでしょうか。
とりあえず、インナーソールと靴底のかかと部分にテープを貼ってみました。

体重がかかる踵部分にシールド布テープを貼る
JIS規格T8103の「静電気帯電防止性能」
参考までに、電子部品の組み立てや可燃性ガス、粉塵を取り扱う現場で着用する、静電気帯電防止履には「JIS規格T8103」があります。その中でも「静電気帯電防止性能」は、1x105(100k)Ω以上、1x109(1G)Ω以下と定められています。下限があるのは、300Vまでの電源などに触れた時の感電防止です。
海外でも同様の規格があり、DoD(United States Department of Defense、アメリカ国防総省)もほぼ同様の規格を推奨しています。世界中でいろんな人がパチパチに悩んでいることがわかります。
筆者がカスタマイズした靴(サンダル)を簡易的に作った測定器で測定してみると……指先から靴底までの電気抵抗が600kΩほど。感電の危険があるので電気工事には向きませんが、静電気を逃すには十分な導電率です。

今回の記事用にアルミテープとテスターで作った簡易測定器

端子の片側を手で持つと、靴下を履いていても靴底(地面)と導通しているのがわかる

未加工だとテスターに0L(絶縁)が表示される。これだと体の静電気が逃げず、物や人に接触するとパチリと放電する
パチパチはほぼ消滅、問題は耐久性
1週間ほど履いて実感したのは、パチパチがほぼ解消されたこと。ただし、問題はテープの耐久性。地面に触れる部分はワンシーズンほどで擦り切れてしまうかもしれません。
筆者は車での移動が多いせいか、いまのところは大丈夫です。ただし、この導電布テープは接着剤部分にも導電性があるため、擦り切れたら短いテープを貼り足すことで対応しようと考えています。
あまり頻繁に擦り切れるようであれば、改良版として、さらに靴底に導電ゴムを貼ることも検討するつもりですが、いまのところは、テープだけでパチパチはほぼなくなりました。ただし、あまり厚手の靴下を履くと効果がありません。

テープが目立たないように黒いテープでカバー。この方法ならルームシューズや黒い革靴でも応用可能
さて、今回の企画はいかがでしたでしょうか。セルフのガソリンスタンドにある静電気除去シートも同じ原理で、体の静電気をアースすることで地面に逃がしています。
もし、静電気でお悩みの方は、数百円で試せるお手軽で効果的な方法かもしれません。ただし、コンセントなどに触れるときは感電のリスクも増しますので、着用中は十分にご注意ください。
前田知洋(まえだ ともひろ)

東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。
著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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