お待たせしました。お待たせしすぎたかもしれません。今年で誕生20周年を迎えたHondaのBセグメント・ハッチバック「FIT」に、待望のコンプリートカー「Modulo X」が登場しました。実にナイスなデキ上がりの本作を早速レポートしたいと思います!
FIT Modulo Xができあがるまで
現行FITがお披露目されたのは、2019年開催の第46回東京モーターショーのこと。BASIC、HOME、NESS、CROSSTAR、LUXEと5つのバリエーションモデルが並ぶ様子は「貴方にフィットしないFITはない!」といわんばかりの意気込みを感じさせるに余りあるものでした。ですがスポーツグレード「RS」の姿はそこにはなく、ホットハッチ大好きの私としては「ボクにフィットするFITはないのか」と残念な気持ちを抱きました。きっとそう感じたのは私だけではないハズ。
ですが、数ヵ月後に行なわれた東京オートサロン2020の会場で、こっそりとFIT Modulo Xの コンセプトモデルが展示されていたではありませんか。Modulo Xとは、純正アクセサリーメーカーであるホンダアクセスのコンプリートカーブランド。過去「究極のS660」を標榜したS660 Modulo Xなどを輩出したのはご存知のとおりかと思います。ですので「RSはModulo Xという名に変えて究極のFITとしてデビューするのかな?」と妄想したのでし た。ですが、待てど暮らせどFIT Modulo Xの姿を見ることはなく。気づけば1年半が経過し、コロナ禍の騒ぎと相まって、私の頭の中からすっかり忘れてしまいました。
登場まで1年半という時間がかかったのは、ホンダアクセス側の開発がFIT完成後からスタートしたから。 S660の時もそうでしたが、「同じHondaグループなんだし、新車発売と同時期に大量にアクセサリーを出しているんだから、一緒にModulo Xもリリースすればいいのに」と思うのですが、きっと色々なオトナの事情があるのでしょう。というわけで、FITがデビューすること1年半、ようやく究極のFITが陽の目をみることとなりました。
実効空力に基づいたエアロ
モデルはハイブリッドのみ
FIT e:HEV Modulo Xは、ハイブリッドユニットe:HEVを搭載したFF仕様に、専用ダンパー と専用ホイール、そして専用エアロパーツ、専用インテリアなどを搭載したモデル。4WD仕様やエンジン仕様のモデルは用意されず、FFのe:HEVのみという点に潔さを感じます。
専用のエアロですが、過去のModulo Xと同様「実効空力」という考えに基づくもの。この 実効空力という考えを説明するのは、簡単なようで結構難しい話。単純に「ダウンフォース量を増やした」とかそういう話ではなく、走ったときの気持ちよさと日常の速度域でも効果が体感できることに主眼を置いているとのこと。開発は何度も実走テストをして、その効果を確認しトライ&エラーでエアロを作っていくのです。風洞実験によるCFD解析もやりますが、それはあくまでも実走テストで作り上げられたエアロの効果を確認するためのもの。つまり、実に実践的なアイテムに仕上げられているのです。
よく見ると、フロントバンパーのあちらこちらに整流効果のあるフィンが設けられおり、フロアー下はもちろんのこと、ボディー側面に流れる空気の流れもコントロールし、ステアリングを切った時のフィーリングを向上させる効果が得られるのだとか。
フロントマスクの意匠も変更されスタイリッシュに。グリルの助手席側にはModulo Xのエンブレムがさり気なく取り付けられています。遠くから見たら普通のFIT、でも知る人が見たらModulo X。違いがわかる人のクルマに仕上げられています。
ダンパーも専用部品に変えているほか、ホイールも専用品。しかもS660のオプション時で得られた知見のひとつ「しなるホイール」というから驚き。ホイールをサスペンションの一部と捉え、ホイールをバネのようにしなやかに減衰させるように使ってるのは、おそらくModulo Xだけでは? しかも、このホイールはオプション販売をしておらず、このModulo Xのために専用開発したというから驚きです。
心地よさと上質さを両立させたインテリア
インテリアはFITの美質である「心地良さ」に上質さを加えた空間といえるもの。インテリアカラーは2種類用意され、スポーツモデルを思わせるボルドーレッドを基調としたものに加え、ブラック基調を用意。今回はブラック基調のモデルをお借りしました。ラックススェードと本革を用いた専用コンビシートはスポーティーさを醸し出し、そこにさりげなく赤いModulo Xの刺繍。ステアリングやシフトノブにも赤いステッチが入るのですが、それが実にさりげなくてイイ感じです。
エンジンスタートボタンには、Modulo Xの文字がさり気なく入っており、所有感を満たしてくれます。 ただインテリアの面でひとつだけ注文を。これはFITそのものの問題なのですが、太陽光の加減によってはフロントガラスにダッシュボードが盛大に映り込み、真っ白で何も見えないとはいいませんが、かなり見づらくなることがありました。室内に手を加えるのでしたら、ダッシュボードの素材を変更するか、表面にアルカンターラ材を貼ってほしいと思いました。
試乗車にはディーラーオプションとして選択できる9インチの純正ナビが装着されていたのですが、スタートボタンを押すとModulo Xロゴが浮かび上がるオープニング画面が! これまた所有感を満たしてくれる演出で、実に心憎い感じ。ちなみにメーターパネルにModulo Xの文字を表示するなどといった過度な装飾がないのも、個人的には好印象。
後席もフロントシートと同様に、ラックススェードと本革を用いた専用コンビシートを採用。空間の統一感が図られております。FITの良さはこの後席シートの使い勝手で、カンタンに座面を上にあげて背の高い荷物が詰めるようになるところ。これは他社にはない機構で、このためだけにFITを選びたくなります。
ラゲッジの使い勝手がよいのもFITのよいところ。というのもほぼフルフラットになるのです。ライバルである日産「NOTE」の場合、ラゲッジボードと後席シートバックの間は10cm程度の段差が生じますし、トヨタ「ヤリス」も段差はないものの、リアシートの座面とシートバックが干渉するため、60度くらいまでしか倒れないのです。いずれにせよ、サーフボードなど長物を収納した際、真ん中が浮いてしまうのですが、FITはそのようなことがありません。こうした細かな部分の積み重ねがFITの使い勝手のよさ、心地よさにつながっていると思います。
FIT e:HEV Modulo Xのパワーユニットは、FIT e:HEVと同様。1.3リットルの自然吸気4気筒エンジンにモーターの組み合わせ。パワーアップや給排気チューンはされておりません。e:HEVユニットは、主にモーター駆動で走行し、高速走行時の一部と発電時にエンジンを使います。実は発電時のエンジン回転数は、アクセルの踏み方や速度に応じてシフトアップをしたかのように回転数が落ちるため、モーター駆動なのかエンジン駆動なのかはちょっとわからないかも。つまり今までのクルマと同じフィーリングなのです。これもまた心地よいところ。燃費はWLTCモードで27.4km/Lとのことですが、筆者はガンガンに踏みまくってしまい、18km/Lと環境に悪い走りをしてしまいました。
そんなFIT e:HEV Modulo Xのプライスですが286万6600円!(税込)FITの最上位グレードLUXEのFF仕様が242万6600円なので、Modulo Xはさらに約50万円アップ。BASIC仕様と比べると約100万円アップという値付けになっています。300万円近いプライスのBセグメントというと、スポーツモデルならトヨタ「GRヤリスRS」、プレミアムコンパクトならアウディ「A1」あたりがライバルになるのかも。さらに視野を広げると、現在人気のVEZELなど、コンパクトSUVも視野に入ってきます。300万円のFIT、その乗り味はいかに?
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