業務を変えるkintoneユーザー事例 第116回
コロナ禍で売上がゼロになったバス会社で生まれた社員と組織の変化
みんなを巻き込んだ問題解決でkintone導入を成功させた愛媛バス
2021年08月31日 11時00分更新
2021年6月16日、愛媛県松山市のWstudioREDにて「kintone hive matsuyama」が開催された。kintone hive(キントーンハイブ)は、kintoneを業務で活用しているユーザーがノウハウや経験を共有するイベントだ。全国6ヵ所で開催され、その優勝者がサイボウズの総合イベント「Cybozu Days」で開催される「kintone AWARD」に出場できる。
3番手は愛媛バスの森川由貴氏。「キントーンで未来を創る キントーンが奇跡を運ぶ」というテーマで、kintone導入の際に立ちはだかる壁とそれを超えたストーリーを紹介してくれた。
アナログだった業務 毎日大なり、小なり問題が
愛媛バスはバスツアーや貸し切りバス事業を手がけるバス会社で、昭和63年に小型バス3台で創業した。現在は創業34年目で社員数は27名、車両数は22台となる。
森川氏は2014年に入社した。当時の社内はアナログでトップダウンで部署間の連携も取れていなかったという。受注管理もノートで管理していたのだが、表示されたノートの文字は崩れすぎていて何も読み取れないほど。完全に属人化していたのだ。
「一番困ったのが、お客さまから『今日営業と約束しているんだけど、いつになったら来るんだ』という電話を受けた時です。営業マンに確認すると、忘れているのです。スケジュールの管理がきちんとできておらず、当たり前ですが、クレームの嵐です。毎日、大なり小なり、何か起きていました」(森川氏)
2015年、森川氏は、何とかしようとお金に関する教育や期限を守る教育、日報の導入などを行なおうとしたが、社内のすごい抵抗にあってしまった。
銀行から紹介されたkintone 導入に立ちはだかるいくつもの壁
そんな中、2017年に銀行のセミナーに参加し、サイボウズに出会った。kintonのすごさを知り、2018年には森川氏はkintoneの導入を決意する。
「私は機械やITが大の苦手です。3人の子育中ですが、保護者LINEができなかったほどです。しかし、自分でkintone導入を決めたので、ガラケーからスマホに機種変更しました。初めてアプリをインストールしたのがkintoneです」(森川氏)
サイボウズの導入相談カフェに行ったりしながら、既存の業務をアプリで作りあげた。そして、いざ導入という段階で1つ目の壁が立ちはだかった。業務をそのまま載せようとしたので、従業員にとってみればkintoneの作業がプラスアルファとして発生する。そのため、業務が増える、とやらされ感が増大してしまったのだ。
そんな時、サイボウズのコンサルティングパートナーから、kintoneの導入は業務改善と同時に行なうべきと教えられた。そこで、森川氏は社長と共に手書きの資料を見ながら、既存の業務を洗い出した。その上で、新しい業務の流れを作り、kintoneアプリの構成図も作成した。社員のやらされ感は軽減でき、導入スケジュールまで作って完璧かと思いきや2つ目の壁が立ちはだかった。
社員は変わる必要性を感じておらず、kintoneを使う必要性も感じていなかったのだ。「変化のない会社に発展はありません。何でわからないの!と私は熱くなってました」と森川氏。その姿を見たコンサルティングパートナーは「みんなを巻き込んだらいいんじゃない?」とアドバイスをしてくれたそう。
「その言葉を聞いて、肩の力がすごく抜けたのを覚えています。みんなを信じようと思いました。私の考えは白紙に戻して、みんなと一緒に問題解決会議を開きました」(森川氏)
問題解決会議では、人を責めるのではなく、いいことも課題も見える化した。課題を50文字にまとめて、分類していったのだ。スケジュール管理や情報共有ができておらず、業務効率が悪いために顧客に迷惑をかけている状態が浮かび上がった。ひどい状態ではあるが、議論が深まると自分ごとになったという。
「彼らは、よく状況がわかってるな、と思いました。そこで、ありたい姿の目標を決めました。『打てば響く仕事をし、相手を想う情報共有。仲間意識を高め、頼んでよかったと思って頂く仕事が我々一同の笑顔』です。クレームを減らすために情報共有をすると考えていたのですが、みんなは相手を想うために情報共有したかったのです。私は浅はかでした」(森川氏)
さらなる問題解決のために、社としてプロジェクト化した。そしてプロジェクトメンバーが行き着いたのは、問題が起きているのは「組織風土とルールとツールがないから」だと気がついた。そこで、kintoneを活用し、使いたくなるツールを作り、わかりやすいルールで運用することで、会社の文化を醸成することになった。
ここで3つ目の壁が立ちはだかった。営業マンが自由に育ちすぎていたという。ルールを守るという当たり前のことができなかったのだ。しかし、年下から年上の営業マンに対する教育を行なうのはとても難しい。ルールを押し付けるだけでは険悪なムードになってしまう。
プロジェクト化したことで、チーム力が育ってきており、チーム全体で営業マンを教育することで壁を乗り越えたそう。みんなの笑顔のために相手を想って教育することで、いいサイクルが回り始めた。
「プロジェクトチームではない人も、チームで行動できるように変化していました。そこで、それまでは業務の一部をkintone化しようとしていましたが、愛媛バス全体の仕事をkintoneに載せることに決めました」(森川氏)
契約しているのはkintoneのライトコース。費用を安く抑えたいということと、森川氏がITが苦手ということからのチョイスだが、都合も良かったという。
「kintoneが何でもできたら、今の業務をそのまま載せてしまいがちです。不都合があるから、業務を少し変える必要があります。そうすると、人も変わっていき、本質的な業務改善が行われはじめました」(森川氏)
ライトコースの「安い」以外のメリットをはっきりと聞いたのは初めてなので新鮮だった。確かに、シンプルなkintoneアプリでデータを扱うために、業務をイチから見直すのはとてもよい機会かもしれない。
400フィールドもある案件アプリを使いこなすまで
そんなITが苦手な森川氏が作ったアプリを紹介してくれた。一番大事だという「案件」アプリはなんと約400フィールドもあるという。仕事の入り口から出口までを表現させたかったからだそうだ。そうすると、既存のシステムと機能的に被る部分が出てきた。当初は一部機能の置き換えが目的だったのだが、こうなったらとkintoneに置き換えたそう。これで、既存システムの更新費用500万円が浮くことになった。
しかし、400フィールドもあると上から下まで、マウスでスクロールすると10秒もかかり、入力が大変だ。タブ管理をするのが基本だが、ライトコースでは利用できない。そこで、グループ機能を使ってこんな短くたたみ、3秒でスクロールできるようにした。また、絶対に入力して欲しい項目は上に配置した。この並べ替えだけで、入力の手間を大きく省き、ミスも減らせたという。
「この長いアプリは最初から運用できたわけではありません。もちろん、変更しながら運用したのですが、コツはコメントでの補足です。今、アプリにないものはコメントで補足するというルールを作ったのです」(森川氏)
1日500件以上の変更履歴とコメントを分析したところ、アプリをどう変更すべきかがわかるようになったという。アプリを運用途中で変更すると、ぐちゃぐちゃになりやすいが、その点はフィールドの特性をしっかり把握し、アプリを変更してもアプリ間の連動がうまくいくようにしたという。
コロナ禍で売上がゼロになったバス会社で生まれた社員と組織の変化
森川氏が、kintoneアプリのブラッシュアップに集中している間に、社員の間ではすごい変化がおきていた。案件を獲得した報告にみんなが喜び合っているコメントが付いているのだ。コメントでコミュニケーションがどんどん生まれて、社員関係がよくなったそう。
コロナ禍でバス会社の売上はゼロになってしまった。そこで新たなプロジェクトを30以上立ち上げたという。社員はすでにkintone導入というプロジェクトに取り組んだ経験があるので、迷わずプロジェクトを進められたという。これは大きな企業文化の変化と言っていいだろう。
職人気質の乗務員からもプロジェクトが生まれていた。乗務日誌という紙媒体の写真を撮影し、kintoneに取り込むようにしたのだ。スマホでも見られるようになったので、これまで以上に一生懸命書くようになったという。
kintoneを使うことを目標にせず、なぜ使うのかと考え続けたから変化が起きたと森川氏は分析する。アナログ文化とデジタルをゆっくり融合させていくことが大事だという。
「ここからは、kintoneからデータを吐き出して、会計システムに入れたり、連携を効率的にやっていこうと思います。とても楽しみです」(森川氏)
アナログな会社でもkintoneを使えるということ、ライトコースだからこそ本質的な業務改善が行えたこと、そして気がついたら組織力がアップしていたということ。IT化に悩んでいる多くの中小企業に取って、参考になるし、何より元気づけられる事例だった。
「kintoneの導入効果は無限大です。ぜひ皆さんの会社でも奇跡がどんどん起きることを祈っています。最後に、旅行はいかがですか。団体旅行はぜひ愛媛バスにおまかせください」と森川氏は締めた。
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