業務を変えるkintoneユーザー事例 第104回
最初はうまくいかなかったkintone 伴走者を得て心が整う
「できなくてもいい」に救われた竹鶏ファームのkintone導入
2021年06月08日 10時00分更新
鶏に与える飼料に竹炭や竹粉を混ぜることで、くさみのないおいしいたまごが生まれる。それが、宮城県白石市にある竹鶏ファームが販売するブランドたまご「竹鶏たまご」だ。現社長の曾祖父の代から続く養鶏場に訪れた4つの変化について、志村 竜生氏がkintone hive sendai 2021で語ってくれた。
リブランディングで生まれた「竹鶏たまご」で成功、しかし社内は疲弊
竹鶏ファームに第1の変化が起きたのは、2010年頃のこと。志村 竜生氏が経営に参画し、リブランディングと販路拡大に力を入れた。コンセプト設計やパッケージングから見直したことで、BtoBの取引先は500件に増え、宮城県では独自のブランドポジションを確立した。2017年には「食材王国みやぎ」でブランド化部門大賞を、2018年には「全国優良経営体表彰/販売各新部門」で農林水産省経営局長賞を受賞している。
「取材なども多く、調子に乗っていました。しかし、表向きのきらびやかさとは裏腹に、会社は大変なことになっていました。離職者が続き、社員による横領も起きました。事故や、それに関する損害賠償もありました。兄とともに良い会社にしようといろいろやってみたけどうまくいかず、残った社員も疲弊していました」(志村氏)
ここで、竹鶏ファームに第2の変化が起きた。株式会社ヤマウチの専務取締役、山内 恭輔さんとの出会いだ。ヤマウチは水産加工品の通販でkintoneを使って成功していた。志村さんはヤマウチのような会社をつくりたい、山内さんのような経営者になりたいと思い、さっそくkintoneを契約して使い始めた。
「ところが全然定着しませんでした。理解不足に加えて、目の前の作業を優先し、kintone活用にコミットできなかったからです。上司がコミットしなければ、社員も行動しません」(志村氏)
先達との出会いで教えられた「できなくてもいい」という心構え
kintone導入も壁にぶつかり、「できない、いったん撤退しよう」と思ったと、志村氏は言う。しかし、そのタイミングで第3の変化が起きた。CYBOZU AWARD 2019でコンサルティング賞を受賞したスマイルアップ合資会社の熊谷 美威氏との出会いだ。志村氏が熊谷氏から学んだのは、「できなくてもいい」というマインドセットだった。
「完璧を求めると、始めるのが遅くなります。動き出さないので、習慣化もされず、自信も持てない。それはまさに、私たちが陥っていた負のスパイラルでした。熊谷さんと出会い、kintone導入は大きく変わりました。ポイントはスモールスタートと、『できなくてもいい』というマインドセットです」(志村氏)
志村氏たちは、完璧を求めなくてもいい(徹底してハードルを下げる)、できなくても自分やチームを責めない、できなくてもやり続ける、できているかどうかで判断しない(やり続けているかどうかを指標にする)の4つ「できなくていい」を定めた。そして、行動の先にあるゴールを日々の生産状況、出荷予測、売上を全員で共有、管理できるようにすることと定めた。ゴールに向けてスモールスタートで、完璧じゃなくてもいい、一歩ずつ進み続けること。これが竹鶏ファーム全体の雰囲気を変えていった。
「私の個人的なゴールとして、『kintone AWARDに出る!』という目標も立てました。今この場にいるのは、その成果です!」(志村氏)
kintone導入は、各部署の日報をアプリ化して現状を把握することから始まった。各部署のスペースは毎日見るものとして設計し、次第に増えるアプリの中から指標となる数値やグラフを表示するようにした。竹鶏ファームには先天性筋ジストロフィー症と闘う社員がいるが、kintoneなら自宅からオンラインで作業ができ、自分のペースで働ける。日報などのアプリを通して他の社員と同じように情報も共有できるようになった。こうしてkintoneが定着し、チームに一体感が生まれ、全体の見える化にも成功した。
未来に希望を持てるようになった、そんなときに、コロナ渦に突入した。せっかく新しい働き方が定着してきたというのに、売上は前年比で40%減少。鶏は生き物であり生産を止めるわけにはいかないし、雇用調整も休業もできない。売れ残ったたまごを廃棄することもあった。
「何より悲しかったのが、せっかく育てた『竹鶏たまご』というブランドを捨てて、二束三文でたまごを出荷せざるを得なかったことでした。ダメージは大きく、倒産という言葉も頭をよぎりました」(志村氏)
そんなとき、第4の変化が社内から起こった。
変化することが身についていたから生まれた新サービス「出前たまご」
竹鶏ファームに起こった第4の変化、それはコロナ渦を反映した新ビジネスの誕生だった。
「どうせ売れないなら、安くてもいいから必要な人に届けたいと父は言いました。ある社員は、ステイホームで出かけられないなら、こちらから届けたらどうでしょうかと案が出ました。他の社員も、竹鶏ファームらしいサービスだ、ぜひやろうという声が上がりました。そうして生まれたのが、『出前たまご』です」(志村氏)
注文を受けて、消費者のもとへ直接届ける出前たまご。必要なアプリを急ピッチで開発し、出前たまごのサービスは着想からわずか2週間後、2020年4月13日にスタートした。注文を受けたら出荷アプリに登録、出前マップで配達先を確認して届け、配達が完了したらスマートフォンから完了の操作を行なう。短期間でアプリ開発ができたのは、kintoneを活用する素地ができていたからに違いない。
「アナログな出前というサービスにITを組み合わせることで、20年ぶりのイノベーションを2週間で実現できました。サービスは好評を受け、1年間で1万2千件の出前先にたまごを届けることができました」(志村氏)
当初はうまくいかなかったkintone導入。しかし伴走者を得て心が整い、kintone活用によって思考が柔軟になった。志村氏は今の竹鶏ファームの様子を、「ぼくらは呼吸をするように変化する」と語る。強い者でも賢い者でもなく、変化できる者が生き残るというダーウィンの言葉を引き、最後は次のように締めくくった。
「変化を恐れず、仲間を信じて未来を切り拓いていきましょう。そうすればきっと明るい未来が待っています。私たちの発表から、変化する勇気を感じてもらえれば嬉しいです」(志村氏)
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