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まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第72回

〈後編〉アニメの門DUO 石田美紀氏×まつもとあつし対談

声優はキャラと本人、両方への想いを引き受ける菩薩である!?

2021年08月22日 18時00分更新

文● まつもとあつし 編集●ASCII

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引き続き石田美紀教授をお迎えして「アニメと声優」をテーマに語り合った

〈前編はこちら〉

声優と制作サイドの関係性が日本らしいアニメを生む

まつもと ここで一度整理したいと思います。

 2つのギャップがあって、1つは女性が少年を演じる、つまり女性から男性へという「ジェンダーの跳躍」がありますよね。もう1つが、成人している人が子どもを演じるという「年齢の跳躍」です。女性が少年を演じるっていうのは、この2つの「跳躍」を一度に実行していると思うのです。

石田 そうですね。「自分の肉体を乗り越えている」という感じがしますよね。私はそこに「自由」を感じるんです。

まつもと 非常に興味深いですね。要請があってそうせざるを得なかった状況があったことは前回伺いました。しかしそれがどういう意味を持つのでしょうか。

石田 声の演技の質です。

まつもと ご著書にありましたが、新潟大学には「アニメアーカイブ」として、台本やセル、コンテなどが保管されていると聞きました。

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石田 はい。私たちは「アニメ中間素材」と呼んでいて、制作の過程で生まれるさまざまなものを管理しています。それらを分析していくと、アフレコ台本と脚本の違い、完成版の違いなどがわかります。

 アフレコ台本の「読点」とか「三点リーダ」って、声優さんが守らなければいけない部分なんです。絵と同期するための大事な合図だったり、作画を担当する人たちから声優さんへの「こういうふうに演じてほしい」というメッセージだったりするんですね。

 たとえば大学の中間素材に『母をたずねて三千里』に関連する資料があります。この作品も主人公・マルコを演じているのは女性声優さんです。アフレコ台本からどうやって絵に合わせているのかを、中間素材に見られる差異から分析しています。

新潟大学「アニメ・アーカイブ研究センター」

まつもと 日本のアニメは、いわゆる「リミテッドアニメーション」で3コマ打ちベースじゃないですか。もちろんいろいろ論争はありますが、ディズニーとは異なるアプローチで制作されているところもそれらに関連しているのでは。

石田 最近は声優さんのスターとしての華やかさが注目されがちですが、本来は作画と声が合わないとダメですよね。声優さんと制作サイドがお互いに持ちつ持たれつの関係を築いていって、日本の「アニメらしい表現」が出来上がっていることも重要だと思っています。

まつもと 「リミテッド」という、ある種の制約がある日本アニメですが、それは制約だけではなくて豊かな表現にもつながっています。声優とクリエイター、絵の描き手がなんとかその「制約」を克服しようという、共同作業でもあるわけなんですよね。

石田 そうですね。今回の著書でも引用したのですが、虫プロにいらっしゃった山本暎一さんが書かれた本で「口パク」について触れられている箇所がありまして、そこでは「口パクだからいくらでも長台詞を言わせられる」と書いてあったんです。

 面白いですよね。手塚が観ていたディズニーの劇場版では滔々と喋っているシーンってそうそうないですよね。動きと一緒に「あっ」とか「はっ」とか演じています。長台詞を使えば、深い世界観みたいなことも説明できるし、キャラクターがすごく複雑な内面を持っていることも表現できる。

まつもと それを脚本家やディレクターが望めば、声優さんが応えてくれるという……。

石田 安心感・信頼感がそこにはありますよね。

まつもと そして三点リーダのようなある種の「プロトコル」がある。プロトコルが共有されているから、安心感や信頼感を高めていくことができる、ということですよね。それが日本のアニメの、かなり大事な部分を担っていると。

石田 そう思います。そういったアニメの「文化」があるなかで、子どもに要求できること、できないことがハッキリ出てくると思うので、そこがアニメにおける表現の裏も表も決める大きな要因になると思います。

まつもと 「音響監督さんと声優さんとの関係は?」というコメントをいただきました。これは注目されていたりします?

石田 絵との同期の話はこの本で書いているのですが、音響監督さんについてはあまり触れていないんですよね。音響監督さんって、アフレコの現場の責任者ということが多いので、資料としてアーカイブ素材の中に残りにくいんです。

 ただ、非公式に伺った話ではありますが、音響監督さんが現場で「良い」と言えばその演技はOKであって、音響監督さんが監督さん演出さんを代弁する形で制作が進んでいくことはあるそうです。

まつもと わかりました。大学の研究ともなれば、そこにキチンとしたエビデンスがないと論じられないところがありますからね。

石田 それは今後の課題ですね。アーカイブ素材を保管するなかで、音源はどこにいってしまったんだろう? ということもありますし。

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