このページの本文へ

まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第72回

〈後編〉アニメの門DUO 石田美紀氏×まつもとあつし対談

声優はキャラと本人、両方への想いを引き受ける菩薩である!?

2021年08月22日 18時00分更新

文● まつもとあつし 編集●ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

アニメ雑誌で声優が菩薩になった!?

まつもと 次のテーマは「ファンと声優の共犯関係!?」です。なかなか刺激的なタイトルですが(笑) 石田さんにとって情熱があるパートかなと。

石田 そうですね。1978年に「アニメージュ」が創刊されますが、この頃に『宇宙戦艦ヤマト』のブームがありました。

 このヤマトブームは、子どもだけではなく、思春期以降の人たちが一生懸命アニメを観て支えるポテンシャルがあることを世に知らしめたムーブメントでした。そうした世代をターゲットにアニメ雑誌がたくさん創刊されたのですが、「アニメージュ」もその1つです。

 「アニメージュ」には創刊号から声優さんの記事がありまして、誰かと言うと神谷明さん。キャラクターではなくご本人をフィーチャーした記事が掲載されていました。

 また当時のアニメ雑誌は「読者が参加する」媒体でもありました。今のネットを全部兼ねている存在だと思ってください。全国のアニメファンが書店でアニメ雑誌を買って、それを読んで声優さんの情報を仕入れて……という活動をしていたわけです。

 投票形式の「アニメグランプリ」が実施されて、初めて女性部門の声優1位に輝いたのが、少年役が得意だった小原乃梨子さん。役と本人が全然違う最たる例だと思うのですが、ファンたちはそんなことはものともしていないんです。小原さんの顔がバーンと掲載されていますから。

 もちろん、のび太や『未来少年コナン』のコナンといった、彼女が演じたキャラクター自体にも人気があるんですけど、「小原さんは素敵な人」「本人そのものが好き」ということをみんなで認め合い、投票しているんですね。

まつもと これは現在のいわゆる「萌え」の文脈で語られる女性声優人気とは、また違っていますよね。

石田 ちょっと違うんですよ。「人格者としての小原さん」みたいな感じでしょうか(笑) お母さんとは違うんですけど、「お母さんみたい」っていうファンの声も掲載されてますね。

まつもと なるほど。

石田 面白いのは、キャラクターとは直接関係ない声優さんのパーソナリティーをみんなで作って認識していく、認め合っていく共同体として「アニメージュ」が存在していたことです。1994年に声優専門雑誌「ボイスアニメージュ」が創刊されましたが、声優さんのスター性が商業雑誌で認識され始めたのは、1970年代後半からのことなのです。

 そしてその後1990年代に入ってくると、女性声優さんたちにも先ほどまつもとさんが仰った「萌え」の文脈が入り込んできます。キャラクターも人気があるし、その声を演じている声優本人もスターになっていくので、声優さんに対しても「萌え」がぶつけられる。

 たとえば緒方恵美さんとファンの方との交流企画のページもありました。「緒方とデート」という企画で、緒方さんが女性ファンとデートするんですよ。

「アニメージュ」1980年2月号には声優に関する読者投票結果が掲載されている

まつもと 女性ファンですよね?

石田 彼女たちを緒方さんがもてなしてくれるんですよ。すごくないですか!?

まつもと さらに深い世界に行ってますよね。

石田 深いです。緒方さんはデビュー時は髪型がロングヘアーなんです。でも、この企画のときにはすでに、みなさんご存じの緒方さんの原型があって、髪も短くてボーイッシュな感じになっています。参加した女性ファンは可愛らしい格好で来る。で、お弁当とかを作って、一緒に食べたりするんです。

まつもと 完全にデートである、と。

石田 そうですね。とても興味深いのは、ファンのキャラクターに対する「萌え」と、声優に対する「萌え」とがないまぜになった感情を、声優さんが寛大に受け止めていることです。ファンの期待に応えられる姿は、私には観音菩薩のようにも思えます。

カテゴリートップへ

この連載の記事

アスキー・ビジネスセレクション

ASCII.jp ビジネスヘッドライン

ピックアップ