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山本HR部長が語るリモートワークだけじゃない働き方の取り組みとその先

苦節20年のNTT Comのワークスタイル変革、コロナ禍で実った背景

2021年06月29日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2021年6月25日、NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は同社のワークスタイル変革について解説する記者説明会を開催した。登壇したHR部長の山本恭子氏は、コロナ禍で従業員満足度を向上した同社のワークスタイル変革を振り返りつつ、データドリブン経営や選択できる働き方の重要性をアピールした。

NTTコミュニケーションズ HR部長 山本恭子氏

1万3000人強の従業員満足度調査から見えたポジティブな変化

 今回登壇したHR部長の山本恭子氏は1992年に日本電信電話に入社し、2000年からNTTコミュニケーションズに所属。営業や支店長勤務などを間に挟みながらも、20年近くに渡って同社の人事関連をリードしてきた。

 まず山本氏は、今のワークスタイルの変革でなにを目指すのかを説明した。

 経営や企業という観点では、ワークスタイル変革の先には「データドリブン経営」があるという。コロナ禍で普及したリモートワークにおいては、オープンなチャットや仕事の進捗・課題の見える化、資料の共同編集などの「見える化・見せる化」によりメンバー同士の信頼性が補われ、紙プロセスの電子化や標準化も進んだ。この結果、データで現状を把握し、分析結果に基づいた経営判断を行なえるデータドリブン経営へ近づいたという。

データドリブン経営への道

 また、社員にとっては「働き方をデザインできる世界」が見えてくる。現在は個人の価値観もさまざまで、仕事も多様化している。ライフステージやキャリアプラン、価値観、得意分野など「多様な個人」、個人ワーク、想像、共創、協働・協力など「多様な仕事」の組み合わせで、今後はどこでどう働きたいかをデザインできるようになるという。

 では、コロナ禍のNTT Comの従業員にはなにが起こったのか? 同社で実施した従業員満足度調査では、すべての項目で過去最高の結果となった。過去5年と比較し、「社員が生産性高く働けるか(生産性)」「社員がキャリア形成可能か(キャリア)」「社員が連帯感を持ち働いているか(連帯感)」「社員が誇りを持って働いているか(誇り)」「社員が公平に扱われているか(公正)」「社員が会社から尊重されているか(尊敬)」、「社員が会社を信用しているか(信用)」の満足度が大きく上昇。特に上がったのは女性の満足度で、ポジティブ回答は初めて男性と同じに。また、20代での上昇も顕著で、年代別の差も縮小。「非常にびっくりな結果」と山本氏は驚く。

過去5年のES調査の結果で最高に

ポジティブな変化はリモートワークだけが理由じゃない

 コロナ禍にもかかわらず、なぜポジティブな変化が起きたのか?を考えると、当然「リモートワークの増加」に行き着く。コロナウイルスの発生以降、段階的にリモートワークを実施してきた同社だが、一回目の緊急事態宣言以降は約1万8000人のグループ従業員のうち、8割がリモートワークを実施しており、現在も継続中。Teamsを使ったオンライン会議の数は昨年末の10倍となる約20万回/月に増えたという。

 勤務時間を調べると、始業時刻が早まったため、勤務時間は平均15分増えたものの、平均1時間(片道)の通勤時間がなくなったため、トータルでは自由に使える時間が増加している。また、分断勤務の活用も約8倍に増加し、学校行事や家事・育児なども柔軟に参加できるようになった結果、短時間勤務からフルタイムに戻す社員も増えた。そして、ストレスチェックの結果を見ると、仕事の負担は増加傾向にあるものの、同僚や上司の支援が改善しており、トータルでの個人・職場でのいきいき度は向上傾向にあるという。

通勤時間が減ったことで、結果的に自分の時間も増える

 このように調査の結果を細かく見ると、ポジティブな変化が起こったのは、単にリモートワークだけではないことが明らかになってきた。複合的な要因が働き方の改善に結びつき、結果的に従業員の満足度を押し上げているわけだ。

 では、NTT Comはなにをやったのか? 山本氏は、「NTT Comのリモートワークには苦節20年の歴史がある」と振り返る。

20年のリモートワークの歴史

 同社で初めてリモートワークが実施されたのは2002年で、「eワーク」という名前で社員20名程度でトライアルを開始したのが最初。「当時、eワークを進めていたのはIBMくらいで、NTTグループ内でもNTT Comはどうした?という空気感が漂っていた(笑)」(山本氏)という。

 その後、育児・介護の事由に限定し、週1~2の在宅勤務が本格実施されたのはその5年後の2007年で、育児・介護の事由が取り払われ、全社員が対象となったのは2017年。山本氏は、「制限がなくなり、全社員対象になるまで10年かかった」と語る。そして2018年7月には自社開発のセキュアドPCが導入され、2020年2月からはリモートワークに全面移行。派遣社員も対象となり、回数制限も撤廃。2020年10月にはリモートワークがいよいよ制度化され、手当も創設されたという。

 コロナ以前、同社は「風土・意識」「制度・ルール」「環境・ツール」の三位一体でワークスタイル改革のベースを作ってきた。「風土・意識」を変えるべく、幹部は積極的に働き方改革の重要性を訴え、自ら活用した。また、「制度・ルール」の変革においては分担勤務やフレックス制度、リモートワークに向けた制度を拡充。さらに、前述したセキュアドPCやコミュニケーションツールの統合化(Microsoft Teams・Microsoft 365)など環境やツールも整備した。

 そして、Withコロナの現在においては、オープンなコミュニケーションとマネジメント、フレキシブルな制度・ルール、「Change」「Creation」「Collaboration」の3つを標榜したオフィス改革、そしてDX・データ活用を前提としたデジタル化の4つを軸にリモートワークネイティブな働き手として、ワークスタイル変革をさらに推進したという。

オフィスに関しても3つのCを軸に再定義

 このうちオフィスに関しては、リモートワークに慣れた従業員にあえて会社でやりたいことをヒアリングし、オフィスの役割を再定義した。具体的には、オンとオフを切り替える「Change」、新しい情報を取り入れ、発信していく「Creation」、協業してアイデアを練り上げていく「Collaboration」の3つの「C」をコンセプトとして定義。首都圏の3つのビルは2つに集約し、オンライン会議やワイガヤできるスペース、協業を前提としたオープンエリアを設置するほか、働く場所を自らで選べるようActivity Based Workingの考え方を基本に、フリーアドレスはもちろん、個人ロッカー、共有書庫、固定端末席などを組織ごとのベースフロアに割り当てる。

 また、NTTグループの局舎を活用したサテライトオフィスも首都圏エリアに整備し、2020年度は10拠点が設立された。たとえば、横浜においては、NTT Comの横浜西ビルを提供し、7階にサテライトオフィスを開設している。

NTTグループのアセットを活かしたサテライトオフィス化

 こうした一連のオフィス施策により、首都圏主要3ビルの電力消費量は16%減少。紙の使用量は57%も減り、年間1600万枚が削減されたという。山本氏は、「正直、ビルの電力は想像よりは減ってない。ただ、紙はオフィスに来ないだけで使わなくなる。リモートワークはエコであることは言えるのではないか」と指摘する。

オフィス回帰への揺り戻しは「ない」 むしろ先へ

 NTT Comも従業員はどのように働いているのか?という具体的な事例も披露された。たとえば、経営管理部の女性の場合、前述した分断勤務やフレックス制度の活用により、短時間勤務からフルタイムに戻れたという。子育て中だが、家事や育児も「ワンオペ」にならず、プライベートの時間も確保できるようになった。

短時間勤務からフルタイム勤務へ

 また、自宅で作業しにくい男性社員の場合は、いわゆる3rdスペースにあたるコワーキングスペースを有効活用。ここではワークスペースの予約・検索アプリ「Dropin」の活用や業務システムにセキュアにアクセスできるセキュアドPCやリモートアクセス技術が重要だったという。

 さらにリモートワーク格差もなくなっており、派遣社員も含め、全員がリモートワーク可能になっている。もともとOCNのテクニカルサポートは、在宅型コールセンターとして展開しており、在宅率100%を達成した一次受けに加え、二次受けの在宅率も大幅に引き上げた。

 こうしたリモートネイティブな働きに関しては、社会への還元も行なっており、円滑で効果的なリモートワークの実践に必要なノウハウをまとめた「リモートワークハンドブック」や新入社員向けの「オンボーディングハンドブック」も無償公開している。また、オンラインワークスペースとして相談や雑談を気軽にできるよう設計された「NeWork」も、すでに5万人が利用。Webブラウザから業務用の電話に発着信できる「COTOHA Call Center」ではオフィスと在宅勤務者が連携できるハイブリッド型の勤務を支えているという。

オンラインワークスペースとして提供される「NeWork」

 最後、質疑応答で「緊急事態宣言後にオフィス回帰への揺り戻しはありそうか」という質問に対して、山本氏は「ない」と断言。「むしろリモートワークの先に行きたい。勤務地を選ばないワークスタイルを実現したい」と抱負を語った。

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