HDリマスター化した「シルバー事件」と「シルバー事件25区」を収録

須田剛一氏のすべてが詰まったADV「シルバー2425」に秘められた、狂気的な凄み

2021年03月13日 16時30分更新

文● 市川 編集● ASCII

グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏が手がけた名作アドベンチャー「シルバー事件」と、その続編「シルバー事件25区」を収録した「シルバー2425」

 1999年、須田剛一氏率いるグラスホッパー・マニファクチュアのデビュー作「シルバー事件」が世に放たれた(オリジナルであるPlayStation版の発売元はアスキー)。複数の「ウィンドウ(画面)」が交錯する独自のゲームシステムをはじめ、須田剛一氏のエッセンスが詰まった世界観、印象深いキャラクターなど、従来のアドベンチャーゲームとは異なる魅力が詰まっている。

 その後、2005年には、本作の続編である「シルバー事件25区」が携帯電話アプリとしてリリース。これら2作品は、須田剛一氏を語るうえで欠かせないタイトルとして高い評価を受けている。

 須田剛一氏が生み出した2つの事件はその後HDリマスター化され、現在はPC、PlayStation 4、Nintendo Switchでプレイできるようになった。さらに、リマスター化したシルバー事件とシルバー事件25区をセットにした「シルバー2425」もリリースされている。

 発売から数十年経ってもいまだ色褪せることなく、むしろ銀(シルバー)の輝きを放ち続けるシルバー事件2部作。今回、2月18日に発売されたNintendo Switch版のシルバー2425を試遊できたので、本記事では2つの事件の魅力を語っていきたい。

私の人生に影響を与えた「シルバー事件」

 実をいうと、私はPlayStation版のシルバー事件をプレイした経験がある。デビューは大学生の頃だったが、シルバー事件が提示する強烈なパワーに圧倒され、すぐさま須田剛一氏の虜となった。エンタメと芸術を両立させたシルバー事件は、私の人生やゲームライフに多大な影響を与えたといっても過言ではない。そういうわけで、まずは思い出深いシルバー事件から解説しよう。

シルバー事件は、私の人生に影響を与えたタイトルの1つ

 シルバー事件の舞台は、架空の社会主義国家「カントウ」が統制する特別自治区「24区」。そこで猟奇的な殺人事件が次々と発生し、24署凶悪犯罪課の刑事一行は事件の究明へと乗り出す。だが、事件を追っていくうちに、20年前に起きた伝説の殺人事件「シルバー事件」の犯人「ウエハラカムイ」にたどり着く……。

24署凶悪犯罪課の刑事たちを軸としたメインシナリオ「Transmitter」

伝説の殺人犯「ウエハラカムイ」を巡るストーリーが展開。はたしてウエハラカムイとは何者なのか

元特殊部隊隊員の主人公は、とある事情で24署凶悪犯罪課に配属することに。誤解しないでほしいが、「デカチン」とは主人公のあだ名である

 メインシナリオ「Transmitter」は、ウエハラカムイという伝説の全貌と、ウエハラカムイに接触した人々の末路、そして24区を裏で操る組織の陰謀などを描いている。プレイヤーはとある事情で24署凶悪犯罪課に配属された主人公(通称「デカチン」)に扮し、さまざまな事件を目撃、調査することに。はたしてウエハラカムイとは何者なのか。シルバー事件とはいったい何なのか。それらの答えを究明することがプレイヤーに課せられた目的だ。

 ちなみに、アドベンチャーゲームにありがちな、誤った選択をしたらゲームオーバーといったことは一切ない。むしろゲームオーバーはなく、テキストを読むだけでクリアできるので安心してほしい。

「Placebo」は、フリージャーナリスト・モリシマトキオの視点で描くサブシナリオ。メインシナリオで起きた事件の裏側を描くとともに、ウエハラカムイに迫るといった内容だ。24署凶悪犯罪課のメンバーがカメオ出演することも

Placebo限定のキャラクターも登場

メインメニューで、メインシナリオとサブシナリオのエピソードを選べる

 本作にはTransmitterに加え、「Placebo」というサブシナリオも存在する。こちらはフリージャーナリスト・モリシマトキオが主役で、メインシナリオで起きた事件の裏側を見せながら、中心人物のウエハラカムイに迫っていくというものだ。Transmitterの各エピソードで語られなかった部分を補完するほか、新たな側面を提示する役割を持っている。本作をプレイする場合、メインシナリオとサブシナリオを交互に読むといったプレイスタイルが望ましいだろう。

人間の闇を具現化したようなシリアスなストーリーが終始描かれる

独特のユーモアが混じるセリフに、クスリと笑ってしまうこともあった

 本作の作風は、1999年に放送されていたミステリードラマ「ケイゾク」などを彷彿とさせる。人間の闇を具現化したシリアスと、その状況と真逆なユーモアが入り混じるストーリーだが、話が進むにつれて須田剛一氏のセンスが浸透していき、やがて想像を絶する結末へと誘っていく。従来の刑事モノの概念を破壊するクライマックスは、何度プレイしても鳥肌が立ってしまう。あの圧倒的な余韻をぜひ味わってほしいものだ。

 はっきりいって本作の物語は要約しにくく、恥ずかしながらクリア済みの私ですらいまだによくわかっていない。だが、それでいいのだと納得できてしまうところがシルバー事件、ならびに須田剛一氏の醍醐味といえる。よくわからないけどなぜか面白いし、忘れた頃に再びプレイしたくなるのが不思議でならない。

四角い枠内で展開される映像技法「フィルム・ウィンドウ」

本作は「フィルム・ウィンドウ」と呼ばれる独自の映像技法を採用。舞台やキャラクターの顔、場面などの情報を映したウィンドウが複数表示される

 本作の特徴は、なんといっても「フィルム・ウィンドウ」という独自の映像技法だ。これは舞台やキャラクターなどの情報を映したウィンドウを複数表示するもので、紙芝居のようなテキストアドベンチャーとは異なる印象を与える。抽象的ながらも躍動感のあるビジュアルは病みつきになるし、1999年の作品といえど、未来を先取りしたような最先端なデザインがとにかくカッコいいのだ。

主人公の視点でエリアを探索するパート。「移動」「話しかける」「調べる」の3つのコマンドを使ってストーリーを読み進めていく

暗号解読のミニゲームも用意。虫眼鏡のマークを押すと自動で解答してくれる(オリジナル版は、なんと説明書に答えが記されていた)

 本作で描かれる物語は紛れもないフィクションだが、随所に盛り込まれている情報の数々には、1999年当時を想起させる生々しさが秘められていた。3Dグラフィックや実写映像、アニメが流れることもあるが、リマスター化してもオリジナル版の面影は残ったままだった。過去と現代を融合したようなイメージといえば伝わるだろうか。シルバー2425は、新規ユーザーと古参ユーザー両方を満足させるリマスターの成功例であると感じた。

 思えば、シルバー事件が発売された当時の私はピッカピカの小学生。もし小学生の頃にシルバー事件に出会っていたら、私はどんな人間になっていたのだろう……。

この記事をシェアしよう

ASCII.jpの最新情報を購読しよう

この連載の記事