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松村太郎の「"it"トレンド」 第305回

トランプ大統領が巨大ITに締め出された事態の重み

2021年01月15日 09時00分更新

文● 松村太郎 編集● ASCII

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●Tech企業も分断に加担した?

 もう1つ、Twitterに限らず、プラットホーム側には、投稿者の発言を編集・削除する権利が認められています。ときおりトランプ大統領も改正や廃止をほのめかしていた、米国通信品位法230条がこれに当たります。米国政府によってプラットホーム上の発言の編集や削除を指示できない代わりに、個人や民間企業の中の良心やガバナンス、これを利用する市民の声がその圧力、抑止力として作用します。この点もまた、問題を深めている要素でもあります。

 これまでTwitterは、トランプ大統領のアカウントの扱いについて、議論を重ねてきたはずです。リツイートの仕様を変えたり、大統領のツイートであっても内容に注意喚起を付記するなどの対策を取ってきましたが、それでは不十分とする声もあがっていました。

 特に本社があるサンフランシスコはカリフォルニア州、つまり民主党の支持基盤となっており、そもそも反トランプの土壌にあり、そのまま周囲の声を取り入れれば、もっと早い段階でのアカウント凍結をという声もあったのではないでしょうか。その一方、トランプ大統領のアカウントのフォロワー数、影響力の高さから、Twitterというサービス自体のユーザー数や広告売上に貢献したことも否定できないでしょう。

 そうしたせめぎ合いがある中、1月6日の議会乱入事件と、その後押しをしたという認定が「一線を越えた」として、Twitterによるトランプ大統領アカウントの永久凍結に至ったわけです。民間企業としてこれ以上放置できない、リスクを取れない。そんな決断だったと思います。

 時を同じくして、グーグルとアップルによるアプリストアからの「Parler」削除、FacebookやYouTubeなどのアカウント停止、Twitterによるトランプ支援者の更なるアカウント凍結、そしてアマゾンによるParlerへのクラウドサービス停止と、立て続けにトランプ大統領とその支持者をプラットホームから締め出す事態が起きました。

 理由はやはり「暴力の美化」やその扇動の状態を是正しなかった、と各社が判断したことでした。ここで重要なのは、これらの判断が各社個別に行なわれていながら、1月6日の事件がきっかけとなり、そうした締め出しが同時になされ、結果、「民主党支持サイドがトランプとその支援者の言論の自由を奪った」と見えてしまったことだと思いました。

 前述の通り、トランプ大統領は選挙で有権者の半数弱の票を獲得しています。1月6日の事件で、どれだけのトランプ支持者が離れたかは分かりませんが、必ずしも米国の国民の総意として、トランプが間違っていると考えているわけではない状況が続いているということです。そのためTech企業の行動は、必ずしもすべての米国人から讃えられているわけではなく、それでも行動した、という意味を帯びているのです。

 

※お詫びと訂正:掲載当初、記事内でトランプ大統領の選挙での獲得票数を「半数あまり」とした箇所がありましたが「半数弱」の誤りです。関係者、読者のみなさまにご迷惑をおかけしたことをお詫びするとともに訂正します。(15日10時12分)

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。またビジネス・ブレークスルー大学で教鞭を執る。モバイル・ソーシャルのテクノロジーとライフスタイルについて取材活動をする傍ら、キャスタリア株式会社で、「ソーシャルラーニング」のプラットフォーム開発を行なっている。

公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura

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