同じメニューNO.でも以前とは中身が違う
前回の記事(第249回「米軍レーションにはベジタリアンメニューもあります! メインは『エルボマカロニ』」)では、米軍の携行保存食MRE(MEAL, READY-EAT)のメニューNO.12を食べました。メインディッシュのエルボマカロニは、くるっと曲がってる細くて短いマカロニです。
記事の最後にちらっと書いたんですが、2016年(第24回「軍用無線機イベントで食べたレーションがメニュー豊富で美味」)に食べたのもメニューNO.12だったのに、その時のメインディッシュはペンネだったんですよね。
ショートパスタはショートパスタだけどマカロニとペンネでは全然違うし、サイドディッシュとして入っていたプレッツェルやチョコチップトースターペストリーなどは今回のNO.12には入っていなくて、代わりにミックスフルーツが入ったりしています。
メニューは毎年見直されます
なぜ同じNO.12なのに中身が違うのでしょう。
前々回の記事(第248回「米軍レーションは1250kcalの高カロリー! ディナーのような豪華さです」)で食べたNO.1は2016年の時もCHILI WITH BEANS(チリビーンズ)で、変わっていません。そのほかのメニューも、変更されたものもあれば同じものもあります。
アメリカのことだからメニューなんて適当なんじゃない? と思うかもしれませんが、軍のモノに関してはそんなことはありません。あらゆるものにきっちりとした規定が存在します。
もちろんMREも例外ではなく、ACR(Assembly Contract Requirements)という仕様書でメニューが決められ、中身の各パックの内容はPCR(Performance-based Contract Requirements)という仕様書で細かく指定されています。
また、素材となる魚や乳製品、野菜、スープ、油、調味料、果物、シリアル、お菓子、ジャム、コーヒー、ゼリー、スプーン、ペーパーなど民間の商用アイテムを流用するものに関してはCIDs(Commercial Item Descriptions)という文書で詳細が指定され、ヒーターなどごく一部のアイテムはMIL-DTLs(Military Details)、MIL-SPECs(Military Specification)、MIL-PRTs(Military Performance Specification)といった軍用仕様に則って定められています。
仕様がこんなにガッツリ決められているのに、なぜ中身が違うなどということが起こるかというと、話は単純でメニューの一部がリニューアルされたからです。
リニューアルといっても今回だけ特別ということではなく、そろそろ飽きたから変えようかとか、もう何年も同じメニューだから新しくしようとか、そういうのでもありません。
実は米軍は食事には結構気を使っていて、より美味しく、より食べやすく、より満足度が高くなるように、毎年メニューの見直しをしているのです。なんか意外ですよね。食べられればいいでしょ、みたいな感じなのに。
1981年から支給が始まったMRE
米軍のシステマチックな携行食料の始まりは第二次世界大戦のころ。当初は缶詰で支給されていましたが、1978年からパックタイプのMREのテスト生産が始まり、1981年に支給が開始されました。
この時のメニューはMRE1と呼ばれ、以降MRE2、MRE3と毎年更新されていき、最新のメニューは2019年8月19日に定められた2020年用のMRE40。更新のたびにメインディッシュが差し替えられたり、新しいサイドディッシュが追加されたりしています。
メインディッシュは差し替えられるだけでなく種類も増えていて、MRE1ではNO.1〜NO.12の12種類しかなかったメニューが、1996年のMRE16で16種類になり、翌1997年のMRE17で20種類、さらに翌年の1998年のMRE18からは現在と同じ24種類と、3年で2倍に増やされました。
これは1994年にスタートした、長期間MREのみで行動できるようにするための効果調査によるもの。メニューの単調さを改善するため、種類を12→18→24と段階的に増やすことが検討され、1996年から12→16→20→24と3段階で実施されました。
パッケージは2回変わっています
メニューが16種に増えた1996年のMRE16では、同時にパッケージも改良されています。
ナイフなどで切らないと開けられなかったのが手で簡単に開けられるようになり、色も濃い茶色からタン(Tan、淡い茶色)に変更。無地だった表面に「Meal」や「Ready-to Eat Individual」という文字、メニュー名、メーカー名などがタイポグラフィー的に入れられるようになり、市販品っぽいパッケージに変わりました。
色が変更されたのは、主な作戦地域が中央ヨーロッパから中東に移ったため。砂漠で目立たないようにという配慮からです。
パッケージは2008年のMRE28で現在のデザインになり、3パターンのグラフィックが導入され、MREの文字やメニュー名が大きく表記されるようになりました。
メニューは復活することも
メニューの見直しでは、別メニューに差し替えられるだけでなく、味が変更されたり復活したりすることもあります。たとえばMRE1から入っていた初期メンのミートボール。
MRE1では「メニューNO.10ミートボールとバーベキューソース」だったのが、1988年のMRE8で「メニューNO.9トマトソース入りミートボール ビーフ&ライス」へとソースが変わりました。
そして1993年のMRE13では選抜から外れてしまいましたが、2009年のMRE29で「メニューNO.8マリナーラソースのミートボール」として復活しています。理由はわかりませんが、ミートボールを外さないでくれ! という声が多かったのかもしれないですね。
MRE34と38では結構中身が違います
今回食べたMREの外箱に記された製造年月日表示は8025で、2018年の25日目にあたる1月25日の製造となっています。MREのバージョンは2017年8月22日施行のMRE38。
対する2016年の記事中で食べたMREは、製造年月日表示が4142だったので2014年5月22日製です。MRE34ですね。
MRE34とMRE38では、MENU AのメニューNO.1〜NO.12でエルボマカロニを含む3つのメインディッシュが変更され、MENU BのNO.13〜NO.24で4種類が差し替えられているので、合計7つのメニューが変わっています。サイドディッシュや飲み物なども差し替えられたりていて、だいたい1/3ぐらいは新しくなっている感じです。
ちなみにMRE38のメニューは以下のとおり。太字はMRE34から変更されたメニューです。
MENU1:CHILI WITH BEANS
MENU2:BEEF SHREDDED, IN BARBECUE SAUCE
MENU3:CHICKEN, EGG NOODLES AND VEGETABLES, IN SAUCE
MENU4:SPAGHETTI WITH BEEF AND SAUCE
MENU5:CHICKEN CHUNK WHITE, COOKED
MENU6:BEEF TACO
MENU7:BRISKET ENTREE (GRAVY WITH SEASONED BEEF BRISKET SLICES)
MENU8:MEATBALLS IN MARINARA SAUCE
MENU9:BEEF STEW
MENU10:CHILI AND MACARONI
MENU11:VEGETABLE CRUMBLES WITH PASTA IN TACO STYLE SAUCE
MENU12:ELBOW MACARONI TOMATO SAUCE
MRE34ではメニューNO.3と5、12はこのようになっていました。
MENU3:CHICKEN, NOODLES AND VEGETABLES, IN SAUCE
MENU5:CHICKEN WITH TOMATOES AND FETA CHEESE
MENU12:PENNE WITH VEGETABLE SAUSAGE CRUMBLES IN SPICY TOMATO SAUCE, WHOLE GRAIN PENNE:VEGETARIAN
このように、MREは同じメニューNO.でも年によって内容が異なるのが特徴です。これだけバラエティーに富んでいて毎年新メニューが登場するなら、確かに飽きないかもしれないですね。
ところで、最新のMRE40ではスパゲッティーにマカロニ、トルテリーニ、フェットチーネ、ラビオリと24種類中7品がパスタになっています。国民食であるスパゲッティー・ウィズ・ミートソースだけじゃなくて、パスタ大好きってアメリカ人が多いのかな。
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