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経営戦略として重視すべき人材の多様性と各社の取り組み、「国際女性ビジネス会議」でディスカッション

「ダイバーシティと経営」Slackジャパン、資生堂、大和証券トップが語る

2020年09月29日 07時00分更新

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 「ダイバーシティ」、すなわち多様な人材の活躍が現在の企業にとって大切であることはあらためて強調するまでもない。2020年9月27日に開催された「第25回 国際女性ビジネス会議」において、「ダイバーシティ経営戦略」をテーマに資生堂、大和証券グループのトップと対談したSlack Technologies 日本法人を統括する佐々木聖治氏は、「我々のコミュニケーションサービスを通じて、ダイバーシティやLGBTの取り組みを進めることができる」と語った。

Slack Japan カントリー・マネージャーの佐々木聖治氏

 国際女性ビジネス会議は、ダイバーシティコンサルティングのイー・ウーマンが主催する年次イベント。今年はオンラインでの開催となり、宇宙飛行士の野口聡一氏、ジャーナリストの池上彰氏、アーティストのスプツニ子!氏、内閣府男女共同参画局の林伴子氏など錚々たる顔ぶれが次々に登場して、幅広い切り口からダイバーシティの重要性について語った。

ダイバーシティが「重要な経営戦略」である理由

 ダイバーシティ経営戦略のセッションには、Slack佐々木氏に加えて、資生堂代表取締役社長兼CEOの魚谷雅彦氏、大和証券グループ本社代表取締役社長CEOの中田誠司氏がパネリストとして登壇。モデレーターはキャスターの小谷真生子氏が務めた。

(左から)資生堂代表取締役社長兼CEOの魚谷雅彦氏、大和証券グループ本社代表取締役社長CEOの中田誠司氏、Slack Japan佐々木氏

 佐々木氏はまず、Slackという会社は「生い立ちもダイバーシティそのもの」だと紹介した。「共同創業者は、哲学を学んだカナダ人のスチュワート(CEOのスチュワート・バターフィールド氏)と、根っからのエンジニアであるカル(CTOのカル・ヘンダーソン氏)の2名。最初はゲームを開発していたが、その開発過程で生まれたコミュニケーションツールにフォーカスした」(佐々木氏)。

 Slackの日間アクティブユーザー(DAU)は右肩上がりで伸びており、2019年にはIPOも果たした。「そうした成長の背景にはダイバーシティがある」と佐々木氏は説明する。ハイテク企業をはじめ、多くの公開企業が「ダイバーシティレポート(ダイバーシティ報告書)」を公開するようになったが、佐々木氏は「Slackでは公開企業になる前から定期的に出している」と胸を張る。

Slackの日間アクティブユーザー数(DAU)推移。2019年9月に1200万人を突破している

 ちなみに、直近のダイバーシティレポート(2020年4月公開)によると、社員の女性比率は約45%、マネージャー層では約46%、リーダーシップ層では約30%となっている。技術職における女性比率は約33%だ。性別だけでなく、人種/民族比率についてもレポートしている。

Slackにおける女性比率。技術職でも3人に1人が女性だ(出典:Slackダイバーシティレポート「Diversity at Slack」、2020年4月)

 「2005年から女性活躍の推進に取り組んでいる」と語る大和証券の中田氏は、社員の年齢層を6段階に分け、各年齢層の男女人数を示した“人員ピラミッド”を見せた。「35歳以下を見るときれいなピラミッドだが、35歳以上になると歪みがある。ここにいろいろな課題が潜んでいる」(中田氏)。

大和証券の中田氏は、同社の年齢別男女構成ピラミッド(人員ピラミッド)について説明。一定の年齢層になると女性比率が大きく減る“歪み”を指摘した

 「1990年の育児休暇制度導入から本格的に(女性活躍推進を)スタートした」と語る資生堂の魚谷氏は、同社では取締役・監査役の46%が女性、またグローバルリーダーの38%が女性であると報告した。また、自身が入社する前に「株主から『(経営層が)おじさんばかり』という指摘を受けたと聞いている」とも明かす。女性も経営に関わっていることを示すために、事業内容説明の際に女性役員がプレゼンする機会を増やしているという。

 近年では海外投資家を中心に、ダイバーシティやインクルージョンに取り組んでいる企業かどうかを投資対象の判断基準に加える動きもある。大和証券の中田氏、資生堂の魚谷氏とも、こうした動きには賛同するという。Slackの佐々木氏は、「人材採用、タレントの獲得という観点でも、ダイバーシティの部分を押さえないと企業の成長は望めない」と指摘する。

「絵文字の肌の色」から「新卒一括採用」まで

 女性の活躍に欠かせない(男性社員も含めた)育児休暇制度、さらに日々の家事分担といった「勤務環境」に話が及ぶと、大和証券の中田氏は、同社では「全員19時前退社」を掲げ、それを徹底していると紹介した。同社では「男性社員が『仕事で遅くなって家事ができない』という言い訳は通用しない」と中田氏は語る。さらに、育児休暇の取得率も100%に達したと報告した。

 その一方で、課題としては「育休期間の長さ」を挙げた。現在は7日間だが、「産後2週間が健康状態などで重要な時期だと学んだ。早急に2週間に持っていきたい」と語る。また、男性社員が育児を一緒に担うことが、積極的な家事分担にもつながるのではと期待しているという。

 資生堂の魚谷氏は、女性社員が育児休暇の取得後に業務復帰しやすくするために、出産後ある程度の時間的ゆとりが出来てきた段階で、会社の資料を使って自習をしてもらっていると、自社での取り組みを紹介した。

 アップルCEOのティム・クック氏がパレードに参加するなど、米国では意識の高まりも見られるLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)への取り組み。Slackの佐々木氏はこの話題に関連して、Slackサービスではユーザー自身が“どの人称代名詞(he/him、she/herなど)で呼ばれたいか”を記載でき、とくに英語圏ではその記載を推奨していると紹介した。

 佐々木氏は「自ら申告することで、許容ができる環境になる。それに対して偏見はないし、公平に他の人の状況を把握できる」と説明する。たしかに、自分の側からどう呼ばれたいのかを提示しておけば、相手がどう呼べばよいかわからずに尋ねるという気まずいシチュエーションもなくなる。

Slackではプロフィールに“自分が呼ばれたい代名詞”を記載することを推奨している

 佐々木氏はまた、Slackでおなじみのリアクション絵文字(リアク字)においても、同じ絵文字で多様な「肌の色」や「髪の毛の色」を用意していると紹介した。

Slackのリアクション絵文字(リアク字)では、肌の色や髪の色にバリエーションを用意している

 日本企業である資生堂、大和証券においては、LGBTへの取り組みはまだこれからのようだ。大和証券の中田氏は、LGBTについて話が及ぶと「痛いところを突かれた」と率直に述べたうえで、「企業だけでなく、日本社会全体でLGBT(を取り巻く課題)にどう向き合うかを真剣に考えなければならない」と提起した。同社にはカミングアウトをした社員がいるものの、本社も支店もトイレは男性用か女性用のみで「トイレひとつとっても課題だ」と実情を語る。

 資生堂の魚谷氏は、ダイバーシティ=多様性の発展を阻むのは「新卒一括採用」「年功序列」「終身雇用」という旧来の慣習だと指摘し、同社では今年1月から「ジョブ制」を導入したと紹介した。ジョブディスクリプションを明確にし、それに対して最も適正の高い人物を選ぶというもので、「男女、年齢、国籍は関係ない。本当にやれる人、責任が果たせる人を選ぶ。これが究極の適材適所ではないか」と述べる。

 また、資生堂だけでなく日本社会全体を変えるためにスタートした「30% Club Japan」についても紹介した。英国で始まった30% Clubは企業役員に占める女性比率を30%にすることを目標にしたキャンペーン/企業グループで、30% Club Japanはその日本版にあたる。魚谷氏は会長を務めており、グループ内では成功事例も失敗事例も共有して、さまざまな取り組みを通じて日本社会に貢献していきたいと語った。大和証券も参加しており、現在、参加企業における役員の女性比率は平均で21%に到達したという。

 大和証券の中田氏は、男女やLGBTだけでなく「年齢」という属性についても触れた。「目指すところは労働生産性を上げること。これから高齢化社会に入るに当たって、女性も男性も、老いも若きも、みんなが働ける社会にしていくべきだ」(中田氏)。

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