ショーケースやワークショップ、協業ソリューションなどを提供「Industry 4.Now HUB TOKYO」
SAP、“PoCから先に進まない”インダストリー4.0の支援組織を設立
2020年09月16日 07時00分更新
SAPジャパンは2020年9月15日、企業のインダストリー4.0化戦略を支援するグローバル組織「Industry 4.Now HUB TOKYO」の立ち上げを発表した。“インダストリー4.0”が流行語となって久しいが、なかなかPoC(実証実験)段階から先に進まない現状を打開するため、企業を後押しする狙い。
「Industry 4.Now(インダストリー・フォードットナウ)」は、SAPが今年6月に開催した年次イベント「SAPPHIRE NOW」で発表した構想だ。新型コロナを受けてサプライチェーンのデジタル化の重要性が再認識されたことを受け、「インダストリー4.0化をすぐに(Now)進めよう」という意味が込められている。
日本でも何年も前にインダストリー4.0が流行語となったが、その具現化は立ち遅れている。SAP Labs Japanでデジタルサプライチェーンのヘッドを務める鈴木章二氏によると、「インダストリー4.0を重要優先事項と考える企業は68%。しかし、41%が概念検証(PoC)にとどまっており、さらにそのPoCの中でも展開の見通しが立っている企業は29%にとどまる」と現状を指摘する。
「『機械が作り出す情報をどう活用するのか』へのシフトが早急に叫ばれている。インダストリー4.0がなかなか進まない状況を、どうやって変えるかにSAPは課題意識を持っている」(鈴木氏)
インダストリー4.0の具現化が進まない理由は何か。調査によると、取り組みが進まない理由について、71%が「戦略的なすべての目標を達成していない」、また38%が「予算超過」および「プロジェクトが遅延」という理由を挙げている。鈴木氏は、その背景として「製造現場で使われるシステムの世界」と「基幹システムの世界」という2層の間の「溝」があると分析する。
鈴木氏によると、この2つの世界をつなぐためのインテグレーション作業に、運用コスト全体のおよそ2割が費やされているという。「システム化された領域が増えると、インテグレーションを含む費用が膨れ上がるため、部門ごとに取り組みを行うようになる。そうした状況では、事業間を横串でつなぐことで得られる経営効果にはつながらない」(鈴木氏)。
SAPが担う領域は「基幹システムの世界」だが、顧客企業のインダストリー4.0化を後押しするためには「IT部門だけでなく、ビジネス部門のIT活用についても支援できる仕組みを作る必要がある」(鈴木氏)。それが、今回の「Industry 4.Now HUB」設立の狙いだと説明する。
具体的な支援施策としては、次の3つを提供する。
(1)ショーケースを含むワークショップを通じた企画化支援
(2)SAP Industry 4.0対応製品の学習機会の提供
(3)オープンなアライアンスパートナーによる包括的なソリューションの提供
(1)については、東京・大手町の共創イノベーション施設「SAP Experience Center Tokyo」内にショーケースを用意している。三菱電機と協力して産業用シーケンサやロボットを設置し、飲料メーカー向けに「ダブルシートバルブ」を製造販売するメーカーを想定して、ビジネス側のシステムが顧客からの注文を受け、現場の製造実行システム(MES)と連動して納期に合わせた製造を実行するデモを見せる。今後は三菱電機だけでなく、ITの枠を超えてさまざまな機器メーカーと協業していく方針だ。
Industry 4.Now HUBはグローバル組織として、日本(東京)のほかSAPの本拠地であるドイツ、そして米国と3カ所に設置された。SAPジャパン 常務執行役員でSAP Labs Japanマネージングディレクター/SAPアジア太平洋・日本地域イノベーション部門責任者のシュネード・カイヤ氏は、「日本は製造と産業オートメーションでリーダー的存在であり、SAPがビジネスプロセスで持つグローバルなリーダーシップと組み合わせることでパワフルなものになる」と述べる。日本のHUBを通じて、ドイツや米国における取り組みを学ぶこともできるという。
SAPジャパンで常務執行役員を務め、クラウド事業を統括する宮田伸一氏は、「SAPジャパンは、日本型デジタル変革フレームワークとして“3つのP”――『プロセス(Process)』『人/組織(People)』『場所(Place)』――を提唱してきた」と述べ、SAP Labs Japanが人/組織を、SAP Experience Center Tokyoが場所を、そしてIndustry 4.Now HUB TOKYOが活動のプロセスを、それぞれ担うものと位置づけた。