消費電力と熱の傾向は?
CPUの基本設計は完全に同一で、ブーストクロックのみが違うRyzen 3000XTシリーズの消費電力は、既存のRyzen 3000シリーズと比べて大きく変わるのだろうか? ここではラトックシステムのBluetoothワットチェッカー「REX-BTWATTCH1」を使用し、システム全体の消費電力を比較してみた。システム起動10分後をアイドル時とし、「Prime95」のSmallFFTテストを10分動かした時の安定値を高負荷時とした。
アイドル時はどのCPUも横並びだが、高負荷をかけるとほんのわずかにT付きモデルのほうが消費電力が高くなった。しかし、Media Encoder 2020のエンコード処理などでの消費電力はこのSmallFFTテストよりも少し高くなる。ただし、Ryzen 3000XTシリーズでも特別大出力の電源ユニットに乗り換える必要はないようだ。
次のグラフは、SmallFFT実行中のCPUクロックや温度などを「HWiNFO」で約20分間追跡したものだ。なお、計測時の室温は27度。
コアの占有率を加味した平均実効クロックを見ると、コア数が最も多いRyzen 9 3900XT/3900Xが最も低くなる(TDPが105W制限なのでそこに収まるようにクロックが下がる)が、3900Xよりも3900XTのほうが50MHz程度上のクロックを示した。Ryzen 6 3600XTと3600Xも同様だが、こちらは100MHz近く開いている。全コア使用時でもT付きのほうがクロックは若干上がるし、コア数の少ないモデルのほうがより高クロックで動くと言える。
一方で、Ryzen 7 3800XTよりも3800Xのほうが高い値を示しているのが解せない。この理由(ツール側の読み取りのミスも疑われる)については時間切れのため追い込むことはできなかったので、機会があれば再び検証したい。
CPUのダイ温度も同様に追跡すると、クロックの高いT付きモデルのほうがTなしmモデルよりも3~4度高い値を示した。なお、先の平均実効クロックで妙な値を出したRyzen 7 3800XTと3800Xだが、ここでは普通に3800XTのほうが高い温度を示している。すなわち、温度が(Ryzenにとって)高すぎるため、クロックをやや抑える方向で制御が入り、結果としてRyzen 7 3800XTのクロックのほうが3800Xより低くなったのではないか、と推測している。特にRyzen 7 3800XTはテスト直後に温度が一気に上がってしまったため、その時点でクロックがあまり上がらないような制御になった可能性がある。
CPUの電力消費を制御するパラメーターであるPPTとEDCも追跡してみた。PPTの傾向は平均実効クロックと同傾向を示しているが、ここではTDP95WのRyzen 5 3600XT/3600Xがグラフの下部を占め、上部はTDP105WのRyzen 9/7が位置している。TDPが同じならCPUのコア数とPPTの上限値に大きな違いはないが、Ryzen 7 3800XTはいきなり140W近くまで上昇している。これはBIOSのチューニングによるものなのか、テスト用CPUサンプルの個体由来のものなのかは不明だ。
TDCはRyzen 9 3900XT/3900Xが95Wの枠を常時使い切っており、Ryzen 7 3800XTは一瞬で95Wに達した後は、Ryzen 7 3800Xよりやや上程度のところまで下がっている。平均実効クロックが伸びきらないことや、200MHzもブーストされている割に性能が伸びきらないのは、このあたりの挙動に秘密がありそうだ。
まとめ:ブースト上昇は薄氷のごとし、上位モデルの存在価値はやや疑問
Ryzen 3000XTシリーズはまさに「Matisse Refresh」と言うに相応しい、非常に新鮮味の薄いCPUと言うより他はない。Media Encoder 2020のように確実な差が出るケースもあったが、肝心のゲームでは従来のTなしモデルと大差ない結果に終わってしまった。価格差はRyzen 9/7で4000円以上あるが、「絶対にXTが付いてなければダメだ!」というこだわりがなければ、無理にRyzen 3000XTを買う意義はない。
本来エンスージアストが喜びそうなRyzen 9/7のリフレッシュ版ではあるが、パワー制限によってクロックの増分が性能として実感できないことのほうが多いのは極めて残念だ。どうせクロックを上げるなら、爆熱覚悟でパワーリミットを引き上げた特別版(昔風に言うならBlack Edition)を投入したほうが良かったのではなかろうか。
しかし、最安のRyzen 5 3600XTだけは、既存のRyzen 5 3600Xとの価格差が2120円と小さい割に性能差がきっちりと感じられる。CPUクーラーも付属しているので、6コアでも十分な用途ならば買って損はない。

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