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最新パーツ性能チェック 第302回

クロック微増のRyzen 3000XTシリーズと現行モデルの難解な性能差を30回試行で徹底比較

2020年07月07日 22時00分更新

文● 加藤勝明(KTU) 編集●ASCII

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100MHz/200MHzの差は体感できるのか?

 ここまでのベンチマーク結果から、CINEBENCH R20ではなんとかT付きモデルの優位性が見えたものの、それ以外の検証では差があるとは言えない結果となった。たった100MHzや200MHzのクロック増で性能が大幅向上するわけもないのでこれで結論としても良さそうだが、この体感しづらいクロック増分の効果をどうにかして視覚化したいところだ。

 そこで、今回はいつもの方法(3回ないし5回実行して中央値をとるやり方)で結果を比較するのではなく、結果を30回サンプリングして、その蓄積からRyzen 3000XTシリーズのクロック微増は効果があるのかないのかをはっきりさせてみたい。

 まずは「Media Encoder 2020」を利用して、「Premiere Pro」で作成した3分半程度の4K動画をH.264 VBR 80Mbps(1パス)でMP4にエンコードする時間を計測する。まずは30回エンコードした時の平均値を見てみよう。

「Media Encoder 2020」による動画エンコード時間(30回の平均値)

 30回サンプリングした結果、Ryzen 5 3600XTは3600Xに対して、およそ12.6秒短縮。Ryzen 7 3800XTは3800Xに対しておよそ4.8秒、Ryzen 9 3900XTは3900Xに対して2.7秒短縮したことを確認できた。つまり、上位モデルになるほどT付きの効果は薄れることがわかった。すでにT付きとTなしでTDPは変わらないと解説しているが、同TDPならコア数が多いほどCPUのパワー制限が発動しやすく、結果としてRyzen 7と9ではRyzen 9のほうがクロックを上げても効果が得にくいと考えれば合点がいく。

 そして、実際に30回の試行で各CPUがどんなタイムで終了したかをプロットしたのが下のグラフとなる。

「Media Encoder 2020」による動画エンコード時間を追跡したもの。横軸は試行回数で、縦軸はエンコード時間となる

 Media Encoder 2020による動画エンコード処理はRyzen 3000XTシリーズで確実に効果が出るアプリだ、と断言していいだろう。ただし、効果がはっきりと実感できるかと言えば、上位モデルになるほど難しくなる。

 AMDはRyzen 3000XTをゲーム用途に向いているとアナウンスしているが、実際のゲームでは動画エンコードのように効果が出るのだろうか? 今回はCPUの性能差が微妙すぎるため、手動計測による揺れを避け、ベンチマーク機能を備えたゲームでのみ検証することとした。

 まずは「Rainbow Six Siege」のDirectX 11モードで検証する。これまで筆者は結果がブレにくいVulkanモードで計測してきたが、直近のシーズン変更でDirectX 11のほうが高フレームレートが出て、かつ安定するようになったため、今回はDirectX 11を使用する。

 画質は「最高」をベースにレンダースケールを100%に設定し、解像度はフルHDのみで計測。GPUを十分暖めてから計測を始め、ベンチマークのランとランの間は30秒前後に収まるよう留意して計測を行なった(なお、後でわかったことだがラン間隔が少々違っても結果は極端にはブレない)。

 まずは平均フレームレートの30回ぶんの平均値を見てみよう。

「Rainbow Six Siege」DirectX 11、1920×1080ドット時の平均フレームレート(30回の平均値)

 3DMarkのGraphicsスコアーはコア数の少ないモデルのほうが有利だったが、Rainbow Six Siegeでは逆にコア数が多く、ブーストクロックも高いRyzen 9のほうが良い結果が出た。Ryzen 7 3800XTと3800Xのように平均フレームレートが伸びているケースもあれば、Ryzen 5 3600XTと3600XのようにTなしのほうが高い値を示しているものもある。動画エンコードほどキレイな結果は出ないようだ。

 では30回のサンプリングで各々どんな値を出したか、プロットした図をご覧いただこう。ここでは平均フレームレートに加え、カクつきの原因になりやすい最低フレームレートの傾向も追跡してみる。

「Rainbow Six Siege」の平均及び最低フレームレートの出方を追跡したもの。見やすさを重視して数値は非表示にしたので、縦軸の数値を参考にしてほしい

 プロットが重なりあって見づらいが、平均フレームレート(上側の折れ線)では、Ryzen 9 3900XT、Ryzen 9 3900X、Ryzen 7 3800XTの3CPUが一番上のゾーンを占め、そこから少し下の第2集団にはRyzen 7 3800X、Ryzen 5 3600XT、Ryzen 5 3600のプロットが集まっている。つまり、前述の横棒グラフと同じようにRyzen 9 3900XTと3900X、Ryzen 5 3600XTと3600Xの間には差がほとんど認められないが、Ryzen 7 3800XTと3800Xの間には差があると言えそうだ。

 最低フレームレート(下側の折れ線)はCPUごとに違いが出るかと予想していたが、実際はどのCPUもほぼ団子状態で、大きな差はなかった。

 もうひとつ、CPU負荷の極めて高いゲームの代表例として「Assassin's Creed Odyssey」でテストしてみた。画質は「最高」、解像度はフルHDのみで計測。これも30回の平均フレームレートを平均化したものと、試行ごとのプロットをご覧いただこう。

「Assassin's Creed Odyssey」の平均fps(30回の平均値)

 Ryzen 7と5においてはT付きモデルのほうが僅かに平均フレームレートが高くなっているようだが、その差は1fpsにも満たない。そういった意味では、少しでもフレームレートを絞り出したいエンスージアスト向けのCPUと言っても良さそうだ。

「Assassin's Creed Odyssey」の平均及び最低フレームレートの出方を追跡したもの。見やすさを重視して数値は非表示にしたので、縦軸の数値を参考にしてほしい

 横棒グラフではかろうじて平均フレームレートに差があるように見えたが、実際にベンチマークのランを繰り返してみると、Rainbow Six Siegeのように平均フレームレートがゾーンで分かれるようなことはなかった。このゲームにおいては、T付きCPUの威力は実感できないとほぼ断言できる。

 最低フレームレートも概ね同じ傾向だが、コア数の少ないRyzen 5 3600Xはフレームレートの落ち込みが激しく、クロックが100MHz高い3600XTのほうがより安定していることがわかった。ゆえに、このペアのみにおいてはRyzen 3000XTシリーズのほうが優秀と言っていいだろう。

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