前回のCentaurのCHA+Ncoreが意外に受けたようだ。VIAというかCentaueがまだx86を手掛けているという話もさることながら、AVX-32768のインパクトがそれなりにあったのではないかと思われる。などという話を編集部としていると、AI向けプロセッサーはもっとぶっ飛んだモノが多いということから、「ではAIプロセッサーを解説しましょう」ということで話がまとまった。
実は前回も説明なしにAI用語(学習/推論やネットワーク、ウェイト、活性化関数など)を紹介しているのだが、このあたりをきちんと説明した機会はASCII.jpでもあまりないようなので、まずは基礎知識を解説するところから始めたい。
意外と古いAIの生い立ち
そもそも論になるのだが、AIとはなにか? と言えば、大本で言えば人間の思考にあたるものをコンピューターで実現する、という取り組みである。
AI(Artificial Intelligence:人工知能)という言葉がこれを如実に物語っている。最初にこの言葉が登場したのは1956年夏のことで、米ニューハンプシャーにあるダートマス大学に、10人の人工知能研究社が集まって、2ヵ月にもおよぶブレインストーミングが行なわれた。これはのちにダートマス会議と呼ばれるが、このダートマス会議がAIの始まりとされている。
その後AIは2度興隆し、2度下火になった。初回は1956~1974年で、これは文字通り人間の脳を模したハードウェアを作り、そこで脳の(部分的な)シミュレーションを走らせようという、当時のハードウェア能力を考えると無謀ともいえる試みである。
その最右翼が連載280回で紹介したThinking Machinesのコネクションマシン、CM-1である。
もともとこの時期には、脳の中身はニューロンと呼ばれる神経細胞と、このニューロン同士をつなげるシナプスから構成されること、ニューロンそのものは1bit(つまりOnかOffか)のどちらかの状態しか持っておらず、On/Offの切り替えはシナプス経由で他の神経細胞から伝達されてきた神経パルス(100mV程度)を受けて行なわれること(ただし、この際に適度な係数が掛かる)、などはわかっていた。
CM-1はまさにこれをモデル化すべく、1bitのプロセッサー(これがニューロンに相当)を6万5536個並べ、この間を2次元メッシュでつなぐ(これがシナプスに相当)ことで、脳の置き換えを狙ったものだ。
あいにく、成人のニューロン数はおおよそ1000億個といわれており、6万個では全然足りなかったこと、2次元メッシュではシナプスのつなぎ方が不十分だったこと、そもそもその上で動かすモデルの研究が不十分だったこと、などさまざまな理由で、AIのプラットフォームとしてのCM-1はあまり芳しい結果は残せなかった。その後のコネクションマシンの話は先の記事に書いた通りである。
他にもさまざまなハードウェアが出たり、あるいは汎用プロセッサーの上でシミュレーションを行なったりしたものの、パッとした性能は出てこず、結局1974年頃にいったん下火になる。
解決策を提示する方向に切り替えた第2期
1980~1987年には、第2期の興隆が起きる。これはエキスパートシステムと呼ばれるものだ。第1期はある意味、脳をそのままシミュレーションするという方向性だったわけだが、第2期では脳のシミュレーションはおいておき、「もし○○なら××する」というルールを大量に積み重ねることで、事象に対して解決策を提示するというものだ。
これも一部ではうまく行ったのだが、実際にはうまく行かない方が多かった。というのは、エキスパートシステムは主に人が行なっていた作業の置き換えに使われたわけだが、人が行なっていた時は言わば「暗黙のルール」にあたるものが大量にあり、これをきちんと明示化できなかったり、ルール同士が矛盾したりするなど、たっぷり問題が出てきた。要するに「明示的にルールをきちんと文章化するのは意外に難しい」という落とし穴にはまったわけだ。
それでもこの時期、世界中でエキスパートシステムに向けた開発が大流行した。日本でも通産省(現経産省)がトータルで570億円を投じて第5世代コンピューターという国家プロジェクトを推進、最終的に1992年になにも生み出さないまま終了している。

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