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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第558回

HPの業務を継承したKeysightとAvago 業界に多大な影響を与えた現存メーカー

2020年04月12日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

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あらぬ方向に進んだAvago

 HPの祖業を今も守るKeysightと対照的に、まったく違う方向に進んでしまったのがAvago Technologyである。連載556回で書いた通り、AgilentのSemiconductor Products部門がKKRとSilver Lake Partnersという2社のファンドにより26億ドルで買収され、Avago Technologiesとして独立企業になった。

 当時AgilentでSemiconductor Produictsを率いていたのはDick M. Chang氏で、Chang氏はそのままAvago TechnologiesのCEOの座に就くことになったが、2006年にChang氏は会長に就任(2010年に退任)、CEOにはHock E. Tan氏が就いた。

Qualcomm買収に絡み、一時期はそこら中に顔が出まくっていたTan氏

 Tan氏はもともとICS(Integrated Circuit Systems)というクロックバッファなどを扱っている(その筋では)有名なメーカーのCEOを務めていた。

 ICSは2005年にIDTに買収されるが、その際にTan氏はIDTの会長になったものの、実務からは離れる格好になり、その代わりにファンドに招かれて2006年3月からAvagoのCEOに就任した。

 ちなみに2005年当時のビジネスはWireless Communications・Wired Infrastructure・Industrial/Automotive Electronics・Computing Peripheralsの4部門に分かれた形で、ディスクリート製品からASICまで幅広く手掛けていた。

 ただしここから、Avagoはビジネスのラインナップを一部入れ替え始める。2006年、ストレージ関連製品をPMC-Sierraに売却。またプリンター向けASICはMarvellに売却し、イメージセンサー関連はMicronに売却した。

 さらにIR(赤外線)関連製品は2007年に台湾Lite-Onに売却している。その一方で2007年にはPOF(ポリマー光ファイバー)関連製品のビジネスを独Infineonから買収した。

 ということで、新規株式公開を行なった2009年までの業績は下表の通り。こうしてみると、Agilentにいた時代から、売上はともかく利益の観点で言えばややお荷物に近い、あまり優良とは言えない業績だったことがわかる。

2019年までの業績(単位:ドル)
年度 売上 営業利益 純利益
2003 13億500万 -1億7500万 -1億7700万
2004 17億8300万 7700万 7300万
2005 15億5900万 4800万 3100万
2006 13億9900万 9400万 -2億2700万
2007 15億2700万 -1億500万 -1億5900万
2008 16億9900万 1億6000万 8300万
2009 14億8400万 4800万 4400万

 2009年の新規株式公開では6億4800万ドルを調達したそうで、よくこの業績で新規株式公開が好評に終わったな、という気がするが、兎にも角にもこれでAvagoはファンドの指図を受けずにビジネスを始められる環境が整ったわけだ。

 ただ新規株式公開の直後はまだそれほど状況は変わらなかった。2009年、Avagoは日本のネミコンを買収。またInfineonからBAW(バルク弾性波)フィルタービジネスを買収している。

 2013年にはRF CMOSを扱っていたJavelin Semiconductorを買収する。2014年5月にはLSI Corporation(旧LSI Logic)を買収し、8月にはPLX Technologyを買収している。

 その一方で、LSI Corporationが持っていたストレージコントローラー(SSDのコントローラー)ビジネスはSeagateに、またネットワークビジネス(Axxia Network Processorのビジネス)はインテルにそれぞれ売却している。

 こうした若干の入れ替えで、2014年は売上こそ大幅に伸びたものの、買収にともなう経費の増加などもあってか、利益はやや落ち込んでいる。

 このあたりまでは、まだAgilentというかHPの時代からの延長として考えられる範疇だった。2010年からは売上が伸びたら、きちんと利益も出せるようになっていたが、これは新規株式公開により自社製品に対しての投資がきちんと行なわれるようになったことが功を奏したからだ。

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