このページの本文へ

前へ 1 2 3 次へ

ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第557回

HP Labsの直系の子孫といえる分離後のAgilent 業界に多大な影響を与えた現存メーカー

2020年04月06日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/) 編集●北村/ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

HPとHPEの分離を踏襲?
Agilentが2社に企業分割

 さて、前回の最後に2005~2012年の部門別売上を示したが、その2012年の部門別売上をもう少し細分化したのが下表である。

2012年の部門別売上
部門 Products Services& Others 粗利益(%) 営業利益(%)
Life Science 11億8000万ドル 4億200万ドル 50.8% 14.5%
Chemical
Analysis
12億1900万ドル 3億4000万ドル 51.4% 21.7%
Diagnostics and Genomics 3億9800万ドル 400万ドル 62.9% 16.1%
Electronic
Measurement
28億6200万ドル 4億5300万ドル 56.9% 22.7%
合計 56億5900万ドル 11億9900万ドル 52.6% 16.3%

 2012年から新たにDiagnostics and Genomicsという部門ができたが、これはDakoの買収にともない新設された部門である。ただしDakoだけではなく、Life Science部門の一部もこちらに移動している。

 それぞれについてProductsとServices&Othersの売上および利益率を示しているが、ここでElectronics Measurement(EM)と「その他全部」の売上がほぼ同等であり、また営業利益もそれほど変わらないということだ。実際比較してみると以下の数字になる。

Agilentが買収した企業
部門 売上 営業利益
EM 33億1500万ドル 7億5200万ドル
その他 35億4300万ドル 6億3200万ドル

 こうなってくると、そろそろ一緒の会社でやるよりも分割した方がむしろ融通が利くという判断を経営陣は行なった。最終的に2013年9月、AgilentをEMとその他で2つに分割するという、HPとHPEが分離したような企業分割が発表された

 残念ながら当時のリリースがオンラインで残ってないが、この当時のリリースによれば以下の説明がなされていた。

  • Agilentを2社の公開会社に分割する。1社はLDA(Life Science, Chemical Analysis, Diagnostics and Genomics)関連会社で、こちらがAgilentの名前を継承する。会社規模は39億ドル。もう1社はEM(Electronic Measurement)関連会社で、こちらは別の社名となる。
  • 今回の分割により、LDAおよびEMという、それぞれ異なるビジネスに経営陣が専念可能になる。
  • LDA会社は高成長のLDA事業に経営資源を集中し、変動の大きいEM業界の影響を抑制する。
  • EM会社は、かつてのLDA事業中心の投資から脱却し、自社の事業の経営資源を集中できる。

 2014年にEMはKeysightという社名になり、まずはAgilentの子会社として2014年8月1日から営業を開始、11月初旬をめどに独立するという形になった。

 Sullivan氏は引き続きAgilentのCEOを務め、一方KeysightのCEOには2009年からAgilentでEMのトップを務め、2011年からはAgilentのCOOになっていたRon Nersesian氏が就くことになった。現在もKeysightのトップ(会長・社長兼CEO)はNersesian氏が務めている。

Ron Nersesian氏。1984年にHPに入社。1996年に一旦Lecroy Corporationに移籍したが、2002年にAgilentに戻ってきた

HP Labsの直系の子孫といえる
分離後のAgilentは業績も好調

 EMを分離したことでAgilentは再び3部門になったが、その前後で部門がかなり変化している。

 2012年にはEMとChemical Analysis、Life Sciencesの3部門だったのが、同年6月にDiagnostics and Genomics部門が新設。

 これが2013年にLife Science and Diagnosticsという形でLife Sceience部門と統合している。

 2014年にはEMがKeysightとして分離され、一旦2部門体制になったのが、9月にAgilent CrossLab部門が新設。

 さらにLife Science and DiagnosticsとChemical Analysisが再編されなおされ、新たにLife Sciences and Applied MarketsとDiagnostics and Genomicsの2部門となり、Agilent CrossLabとあわせて再び3部門体制になった形だ。

 まずLife Sciences and Applied Marketsは製薬会社、ライフサイエンス研究、化学/エネルギー、環境及び法医学、食品という5つの市場に向けた分析機器やソフトウェアを提供する。

 2つ目のDiagnostics and Genomics Productsは、ガン診断に向けたさまざまな診断機器やソリューションと、ゲノミクス関連のソリューションが中心となっている。

 3つ目のAgilent CrossLabは、ターゲットとなる市場こそLife Sciences and Diagnostics部門とかなり近いが、こちらは研究所の運営支援(消耗品の提供や資産管理、サポートなど)を行なうビジネスとなっている。

 下表はそのKeysight分離後のAgilentの財務状況をまとめたものだ。2003年と2004年の数字は、EM部門の分を抜いた数字を示している。

Keysight分離後のAgilentの財務状況(単位:ドル)
年度 売上 営業利益 純利益 部門別売上
Life Sciences &
Applied Markets
Diagnostics &
Genomics
Agilent
CrossLab
2013年 38億9400万 2億2500万 7億3400万 20億3500万 6億3500万 12億2400万
2014年 40億4800万 2億3200万 5億4900万 20億7800万 6億6300万 13億700万
2015年 40億3800万 4億3800万 4億100万 20億4600万 6億6200万 13億3000万
2016年 42億200万 4億6200万 4億6200万 20億7300万 7億900万 14億2000万
2017年 44億7200万 6億8400万 6億8400万 20億8100万 8億6000万 15億3100万
2018年 49億1400万 3億1600万 3億1600万 22億7000万 9億4300万 17億100万
2019年 51億6300万 10億7100万 10億7100万 23億200万 10億2100万 18億4000万

 2013年は39億ドル規模だった売上は、2019年には分離直前に並ぶ51億ドルもの売上に成長しているのがわかる。

 稼ぎ頭はもちろんLife Sciences and Diagnosticsであるが、Agilent CrossLabも急速に売上を増やしており、またDiagnostics and Genomics Productsも10億ドルの売上に達して、立派に3本目の柱に成長していることがわかる。

 この成長を主導したSullivan氏は2015年に退任、後任にはChemical Analysis部門のトップを務め、2014年にAgilent CrossLabを編成したMike McMullen氏が就任している。

Mike McMullen氏。1999年から2001年には、HPの日本カントリーマネージャーを務めていたそうだ。(日本HPの社長というわけではなかった模様)

 現在のAgilentは、HPの祖業とはあまり関係ないビジネスが主体になるのだが、それでもAgilent Labs(CrossLabの方ではなく純粋に研究所)は1966年創立のHP Labsの直系の子孫ともいえるし、1973年発表された、MPUを利用した化学分析システムや1994年に発表されたDNA分析ソリューションなどは、まさに現在のAgilentの主力分野であるわけで、その意味ではやはりHPの一部であることには間違いはない。

※お詫びと訂正:Keysight分離後のAgilentに関する記述など、記事初出時の記載にいくつか誤りがありました。記事を訂正してお詫びします。(2020年4月8日)

前へ 1 2 3 次へ

カテゴリートップへ

この連載の記事

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン