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Why Slack?で聞いたオープンな情報共有の課題と効能

クオカードとアビームが語るSlackのオープンコミュニケーション

2020年01月09日 09時00分更新

文● 指田昌夫 編集●大谷イビサ

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 社内の情報共有をスピードアップし、新しいアイデアを生み出したり生産性を向上させたりする基盤として、チャットアプリなどのオープンコミュニケーションツールが注目されている。この分野で世界1200万ユーザー、150ヵ国で利用されている代表的なツールの1つがSlackだ。当初は海外のスタートアップやIT企業から採用されたが、現在では世界で活動する大企業の利用も増えている。

 日本でも業種を問わず浸透しつつあるが、導入をためらう企業も多い。そこで、Slack Japanは導入検討中の企業へ理解を深めてもらうため、「Why Slack?」と題したイベントを定期的に開催。12月6日のWhy Slack?ではユーザー企業2社の事例が紹介された。

会場となったSlack Japan オフィスは満員

クオカードが追い求めた情報共有の最適解

 事例1社目はクオカードだ。経営企画部 経営企画課 主任の小林美智子氏が、Slack全社導入に至るまでの過程を説明した。

クオカード 経営企画部 経営企画課 主任の小林美智子氏

 クオカードは、社名の通りコンビニエンスストアやドラッグストア、書店などで利用できる「QUOカード」を発行している企業。従来のカード型に加えて、2019年3月からスマートフォンで送ることができるバーコード型のデジタルギフト「QUOカードPay」も発行している。QUOカードPayを贈られた人は、メール等で送られたURLを開くだけで、個人情報を入力することなく簡単に利用できるのが特徴だ。

 同社は、2017年12月に決済サービス事業を携帯電話等販売事業に次ぐ中核事業と位置付けるティーガイアの子会社となった。同時に「デジタルイノベーションラボ準備室」を設立、新しいデジタルギフトサービス(のちのQUOカードPay)の開発に着手した。そのラボの開発リーダーがチームのコミュニケーション促進のためにSlackを強く推したのが、同社のSlack導入の始まりだった。

 数あるコミュニケーションツールのなかからSlackを選んだ理由について、小林氏は「部内のメンバーのオープンコミュニケーションを促進するため。また、デジタル人材の求人をかけたときに、大手のIT企業などと人材の獲り合いになることもある。そのときに最先端のツールを使えるようにしておかなければ他に行かれてしまうため」と説明する。

 もちろん、Slackだけではすべての情報共有はできないので、ラボでのツールの使い方として、記録を残すべきストック情報はG SuiteやBacklogに記載し、日常的なやり取りのフローの情報はSlackを使用することとした。

 また、Slackにはアカウントを持っている全員に書き込みが公開される「パブリックチャンネル」と、メンバーを限定できる「プライベートチャンネル」があるが、ラボ内のSlack利用は極力パブリックチャンネルを利用することとし、個々のメンバーに直接関係ない業務の情報も共有するようにした。

社長の決断でSlackに一本化

 2019年3月に新サービス「QUOカードPay」が開始、準備室はデジタルイノベーションラボとして新たな開発に入っているが、このタイミングでラボのメンバーや社長の意向もあり、2019年5月よりSlackを全社に展開する。

 実は同社ではこの時期に全社のグループウェアも更新され、Microsoft365の利用を開始した。その標準チャットツールである「Microsoft Teams」(以下・Teams)との共存をどうするかが問題になった。検討の結果、Slackはオープンな話題、Teamsはクローズドな話題に使い分けることとし、社内に通知した。

 だが、この運用は失敗する。小林氏は「当初は、社内全員に読まれてしまうツールの利用に社員が尻込みしていたのと、大した連絡でないのにほかの社員の手を止めさせたくない、というような遠慮もあったようだ」と語る。また、一部の社員はSlackのような新しいツールを毛嫌いして、見ることすらしないなど、Slackで伝えた情報が逆に共有されていない事態にも陥った。「漠然とオープンなコミュニケーションを呼びかけただけだったので、社員にSlackを使うメリットを理解してもらうのは難しかった」と振り返る。

 その結果、重要な話はTeamsを使って特定のメンバー内に閉じてしまい、オープンコミュニケーションが活発にならなかった。小林氏は「つねに両方のツールをチェックしなければいけなくなり、かえって社員の業務効率が落ちてしまった」と振り返る。

 Slackを推すメンバーはSlackに一本化するよう経営企画部に直訴。経営企画部では議論を重ね、最終的には社長の判断で、すべての社内連絡はSlackで行なうよう、社内ルールを変更。1ヵ月の移行期間を経てSlackに一本化された。また、社内で共有する資料は、MicrosoftのSharePointに保存して、そのリンクをSlack上で共有することとした。

 Slackへのツールの一本化という方針が決まったことで、社内では積極派も慎重派も同じテーブルでSlackをどう使っていくかについての議論を深めていった。結果的にコミュニケーションの基盤として定着させることができたという。いまでも社外との連絡にはメール等も使われるが、社内の情報共有はすべてSlackで行なわれている。

 導入開始から約2年で、アカウント数は全社員の180名、これまで290のチャンネルが作成され、多いときで1日に134名、1000件以上の書き込みがみられるまで利用が拡大した。

 Slack全社導入による効果として、小林氏は、各部署(特に営業)の動向が他部署からよくわかるようになったこと、部署間の連携がスピーディかつスムーズになったことなどを挙げる。また、社員に配布されたiPhoneからも利用できるので、社外からのコミュニケーションも取りやすくなったという。さらに、小林氏は災害時の社員の連携ツールとしても期待していて、具体的な利用の準備を始めている。

 全社導入、そして一本化後も、社内からはSlackの運用に関して「個人情報をどこまで載せていいのか」「勤務時間外の書き込みについてのルールはどうするか」など、さまざまな課題が経営企画部に寄せられている。だが小林氏は「意見が出るのはむしろいいこと。1つ1つ議論して共通の方向感を持てるようにしていきたい」と評価している。

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