SDLアプリコンテスト受賞者インタビュー その3
函館高専もSOMPOも、実はごく短期間で一気に制作!
2019年10月26日 09時00分更新
クルマとスマホをつなぐ規格である「SDL」。賞金総額100万円の大規模なアプリコンテスト「SDLアプリコンテスト2019」が今年も開催されるが、実はSDL対応アプリを作るのは、それほど難しいことではない。
極めて簡単で、1行もプログラムを書いたことがない人でも楽勝!
――とまでは言えないが、本連載ではこれから、SDLとはどういったものなのか、対応アプリはどうやって作ればいいのかを解説する。そのなかで、基本的な要素のサンプルコードは掲載していくので、それらを参考に(もっと言えばコピペ)しつつ、ぜひ自分の思い付いたアイデアを実現していただきたい。
開催中の「SDLアプリコンテスト2019」(10月31日締切)。前回の第1回コンテストの受賞作品の作者たちは、そのアイデアをどのように考え、そしてどうやって作品としたのか。今回は、特別賞を受賞した2つのチーム、函館高専プロコン研究会と、SOMPO Digital Labにお話をうかがった。
まずは、函館高専プロコン研究会。函館工業高等専門学校の有志によるチームが作り出した作品は「ツンデレの女の子はお嫌いですか?」。女の子のキャラクターが車載機に常駐し、走行距離が伸びるに従って、だんだんそのセリフが“ツン”から“デレ”に変わってくるというものだ。
実際の開発期間は2週間以下!
―― そもそも応募された理由は?
函館高専プロコン研究会(以下函館高専) プロコン研究会というのがありまして、情報コースの担当の先生から、こういうコンテストがあるから応募してみないかと言われたのがきっかけです。
―― ほかにも色々コンテストがあると思うのですが、その中でもSDLアプリコンテストを選ばれた理由はあるでしょうか?
函館高専 正直なところ、たまたまその時期が空いていたから、というのがあります。3人のチームで、プログラミング担当と、セリフ含めたシナリオ担当、それから応募・発表用の動画編集担当と手分けしました。
―― それはいつ頃だったんでしょう。まず最初はどうされたんですか?
函館高専 2018年の10月か11月、秋頃だったと思います。そして、まずはSDLに触ってみるところから始めました。ぜんぜん知らない技術だったので。
―― 「Manticore」(Web上のシミュレーター)でいじってみたとかでしょうか?
函館高専 そうですね。けれども、実はそのあとしばらく放置していました。今年の年明けくらいに「まずいぞ、何を作ろうか?」という話が出てきて、そこから急ピッチで作り始めたんです。
―― 第1回は1月末が締切でしたが、じゃあ1月に入ってから考え始めて、どういうアイデアがでたんでしょうか。
函館高専 まずは安全運転という視点から考えようという話になりました、ちょうどあおり運転とかが話題になっていましたから。
それで、ちゃんとした、まじめなものを作ろうとしていたんですが、安全運転というので居眠りを防止、居眠り防止には誰かと話せればいいかなということになり、そこからなぜ「ツンデレ」になったのかは……。
普通のアイデアだとほかの応募者と重なるので、何かちょっと違うことをやろうと。学生のコンテストではないので、企業チームも応募するでしょうから、そこは“高専生”を出して行こう、高専生らしさを出せればいいと考えたんです。
―― 安全運転があって、居眠り運転を防ぐ、そのためには誰かと話す、そこに高専生らしさを足した結果が「ツンデレ」というのは、ちょっと飛躍がある気がしますが。
函館高専 いや、飛躍はないですね。何か行けると思ったんです。そして、そこからはキャラの好みの話になってしまって、3人中2人がツンデレ好きだったので、多数決でそうなってしまったんです。
ただし、距離によるキャラの変化がわかりやすいという理由もありました。いちばん顕著に出るのがツンデレかなと。
―― じゃあ、肝心な絵はどうしようと思われたんですか?
函館高専 実際のところ、運転中に画面をあまり注視しないようにというのもあったので、キャラにあまりこだわらなくてもいいかと。どちらかというとセリフのほうに力をいれました。
―― 作業分担としてはどこが重かったんですか?
函館高専 プログラミングはそれほど難しいものではなかったので、セリフを考えるほうが大変だったかもしれません。車両情報も、使ったのは走行距離だけですし。
―― 時間的にはどれくらい?
函館高専 2週間もかけていないです。アイデア1本勝負という感じでしたから。
―― その期間で、意図したものは実装できたんでしょうか?
函館高専 実は、エンジンを切ったら女の子の性格がもとに戻ってしまう仕様になっていて、そこをどうにかするのは間に合わなかったんです。
―― じゃあ高速道路を長距離走って、キャラがせっかく“デレ”になってるのに、途中のサービスエリアでエンジンを切ってしまったら、また“ツン”に戻ってしまうということなんですか? それは結構な欠点では?
函館高専 そうなんです。でも最大の欠点というか課題は、キャラが最も“デレ”になるには120km走らなければならないという、距離の感覚が北海道での値になっていることかもしれません。
―― なんと。でも、それは函館に住む人が実際に使うことを考えて作っている、ということでもありますね。
函館高専 やっぱり、自分がほしいものをつくるのが、一番いいんだと思います。僕たち3人に本当に需要があるもののほうが、作っていて楽しいですから。でももっと言えば、ツンデレな彼女がほしいです。
高いクオリティの作品も約1カ月で制作!
一方、企業として非常に完成度の高い作品を応募し、特別賞を受賞したのがSOMPOホールディングスだ。同社のSOMPO Digital Labによる作品「SOMPO-SDL」は、事故発生時にコールセンターへ自動連絡するほか、クルマの挙動を記録するなど、損害保険会社として本当に必要な機能をしっかりと作り込んだ。
―― 応募された経緯はどういったものだったんでしょうか。
細 慎(ほそ まこと)氏(以下細) 2018年の10月ごろにアプリコンテストがあることは知っていたんですが、SOMPO Degital Labという組織を立ち上げたばかりでほかのプロジェクトも忙しくて、厳しそうだねというので最初は見送っていたんです。
けれども、締切間際のタイミングで、これ、いいアイデアが出てきたらやろうかといった話になり、最終的に応募させていただきました。
―― 時期的にはいつくらいでしょうか?
城市 由佳理(じょういち ゆかり)氏(以下城市) 12月に入ってからだったと思います。
細 有志のメンバーで最初にMTGしたのが、締切の1ヶ月半前でした。
―― そのメンバーにはエンジニアもいれば、デザイナーもいるという感じでしょうか。
細 そうですね。アプリを制作できるひととおりのメンバーはいました。
わたしと城市と、ほかにデザイナー1名とエンジニア2名くらい、合計5~6名のメンバーで、企画を持ち寄って、正月明けからその企画を具現化しようと動き始めました。まずは企画をブラッシュアップして紙芝居のようなものを作り、それから実際に制作しはじめました。
―― 応募作品を最初に拝見したときに、SOMPOさんが何らかのソリューションをすでにお持ちで、それをSDLに対応されたのかと思っていたのですが、そうではないんですね。
細 はい。SDLのために、ゼロから作りました。
事故時の通報機能って高級車には付いていますよね。でも、いちユーザーにとって何が必要かというのをたくさんアイデア出しして、そこから必要なものを作り込みました。
―― メインの機能としては、事故時の通報と、挙動の記録ですよね。
細 事故時の前後何秒間かのクルマのデータを取れるので、それを可視化、アニメ化するという機能です。
―― その2つに絞るのは割と簡単に決まったんでしょうか?
城市 いくつかアイデアはありましたが、SOMPOじゃないと考えないようなものに絞ろうという方針でした。
細 キーワードとして「保険会社ならではの~」というのを我々の中に持っていましたので、選びやすかった部分もあります。
―― そして、いざ実装しましょうというときに、アプリのUIも何かパーツがあったのでしょうか? すごく完成度が高いように感じられたのですが。
細 それもゼロからです。いくらアイデアがあっても使ってもらえなければ意味がないので、こういうのがあったら使ってくれるよねというのを結構やりました。
―― 取得した車両データは?
城市 クルマの向きとスピード、アクセル・ブレーキをどれくらい踏んだか、あとはウインカーですね。アニメーションにはそれらを乗せようと作りましたが、コンセプトとしてはすべてのデータを、衝突前10秒と衝突後3秒は保存して、全部送るというものです。
―― 当初想定されたうち、どれくらいの機能を実装できたんでしょうか?
細 8割くらいです。例えばGoogleストリートビューに、実際の画像に車両の挙動を重ねて、この電柱にぶつかったから、というのをわかるようにするといったことは、企画としては考えていました。
―― 今後、御社の事業として本気で取り組むことをお考えでしょうか。
細 これがそのままサービスになることはないですね。
ただ、組織が7月に発足して、そもそも我々の実力、技術力って世間一般からするとどうなんだろうというのがありました。その立ち位置を知るために、コンテストで確かめてみようという意図もありましたので、評価いただけたのはいいモチベーションになったと思います。
―― 高い評価を得られた要因は何だと思われますか?
細 グランプリの「Instaride」さんそうですが、何らかの課題をちゃんと見つけられれば、それを解決するのは、あとは発想次第だと思います。課題をうまく見つけることが、結果につながっていくんじゃないでしょうか。
城市 利用者をちゃんと意識して、その立場で突き詰めることが大事だと思います。我々の場合は、その最初のディスカッションがよかったかのかな、と思っています。
「クルマとスマホをなかよくする SDLアプリコンテスト2019」
主催:SDLアプリコンテスト実行委員会(事務局:角川アスキー総合研究所)
協力:SDLコンソーシアム日本分科会、株式会社ナビタイムジャパン
後援(予定): 独立行政法人国立高等専門学校機構、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会ほか
応募締切:2019年10月31日(木)24:00
募集内容:エミュレーターか開発キット上で開発したSDL対応アプリ(既存アプリの移植、新規開発)
募集対象:年齢、性別、国籍等不問。個人・チームどちらでも応募可
応募方法:プレゼンシートと動作解説動画をWebフォームで応募
審査:審査員が新規性、UX・デザイン、実装の巧みさ等で評価
最終審査会:2019年11月22日(金)
審査員:暦本純一(東京大学情報学環教授)、川田十夢(AR三兄弟長男)ほか
グランプリ:賞金50万円+副賞
特別賞(5作品):賞金各10万円
公式サイト:http://sdl-contest.com/
(提供:SDLコンソーシアム)
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