新CEOのPlatt氏が企業改革
分散経営から中央集権型に
ではこうしたことに対してPlatt氏はどう対応したのか? 最初に氏が行ったのは、Non Laid-off Polycy(従業員の首を切らない)の撤廃である。それだけでなく、大規模な部門の統廃合や撤廃、方向転換などにも手を付け始める。これまでの分散経営のスタイルから、中央集権型のスタイルに企業統治を改めようとしたわけだ。
この時期のHPの企業統治の“混乱”は、前田恒夫氏の「日本におけるCSRの展開-日本HPのケースから学ぶ“キャリア自律”を支える重要な要素について」という論文に散見される。
前田氏は日本HPに28年在籍されており、このうち1995~2000年はCSR(Career Self Reliance:キャリア自律。従業員が会社に頼らずに自身でキャリア形成を図る取り組み)活動に携わっておられた。
その前田氏の論文によれば、例えば冷戦の終結により、軍事関係の需要が激減したことを背景に、電子計測器事業部門の稼ぎ頭だった高周波測定器事業部を、わずか10ヵ月でビデオ通信機器事業部に転換したり、あるいはコスト競争力の減ったプリント基板工場を閉鎖してマレーシアに移管するという大鉈を振ったらしい。
当然こうした事業部の転換は、同時に大量の失業者を生むことになる。従来はNon Laid-off Polycyもあって、事業部の転換ができない(転換そのものは行なわれたことはあるが、新しい事業に対応できない人のために従来の職場を残していた)という縛りがあったが、こうした習慣を断ち切ったことになる。
もちろん、これをやったからといって急に中央集権型にシフトするわけではないが、少なくとも事業部門の枠を超えて中央から事業を管理できることを社内に示したのは間違いない。Platt氏はまた、Computer Business Executive Committeeも廃止したそうで、これでより迅速に意思決定することを目指した。
こうした努力がうまく行ったのか? という話はまた後でするとして、この後のHPの動向について語ろう。Platt氏は“Information Utility”と“Information Appliance”という2つを、HPの将来として掲げた。
Information Utilityとはネットワークの広範な普及であり、Information Applianceはそのネットワークを簡単に使うための仕組みだ。
実はこのInformation Utility、似たコンセプトであるInformation superhighway(情報ハイウェイ:Infobahnとも呼ばれた)をアル・ゴア氏が提唱しており、こちらとの類推で考えてもらえればわかりやすい。
情報ハイウェイはもともと、全米のすべてのコンピューターを高速通信回線でつなぐというもので、実際にクリントン政権が1993年に発足、ゴア氏が副大統領に就任した後はNII(National Information Infrastructure)として実行に移されるものの、結果から言えばインターネットの広範な普及のおかげでうやむやのうちに消えた、というものである。英語版のWikipediaによれば“It was a telecommunications policy buzzword”なんて書かれているのも当然であろう。
ただ1992年の時点ではインターネットは存在していたとはいえ、ごく限られたユーザーが使えるに留まっており、その意味ではInformation Utilityを明言したPlatt氏にはそれなりの先見の明があったとは言えるかもしれない。
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