クラウドから「エッジ」への動きが加速:Build/de:code 2019レポート 第13回
de:code 2019でベテラン.NET技術者4人が討論
クラウド化は不可避な流れ、.NETアプリをクラウドネイティブへ移行するには
2019年06月19日 11時00分更新
de:code2019で、「ベテラン技術者に聞く、『その.NETアプリ、クラウドでどうモダナイズするの?』」と題したセッションが開催された。壇上にあがったのは、日本マイクロソフト パートナー事業本部 テクニカルエバンジェリストの野村一行氏、日本マイクロソフト クラウド&ソリューション事業本部 技術営業本部長の平野和順氏、株式会社アークウェイ 代表取締役社長の森屋英治氏、株式会社FIXERエバンジェリストで内閣官房の政府CIO補佐官でもある鈴木章太郎氏の4名。.NET開発者にはお馴染みの面々だ。「何故、クラウドでモダナイズするのか?」、「リフト&シフトの先へ進むための指針」というアジェンダのもと、様々な意見が飛び交った。
最近MSのOSS愛が強すぎて.NETの分が悪い?
そもそもこのセッションは、「マイクロソフトといえば.NETの会社のはずなのに、Azure時代になり、『OSS愛しています!』とアピールが続く中で、どうもワールドワイドで.NETは分が悪いのではないか?」、「レガシーなワークロードに特化したのが.NET?」など、.NETで開発を行っている人の胸の中に湧き上がっていた不安について改めて意見を交わすことが目的だ。
参加者も、.NETにかかわって20年以上という人から、比較的最近.NETに触れるようになった人まで、幅広い参加者が集まった。
まず、自己紹介と共に、壇上のメンバーから.NETに対して感じている現状の課題があがった。
アークウェイの森屋英治氏は、「会社の中で技術者を育てるという観点から考えると、クラウドではなく、.NET自体のリ・アーキテクチャーが求められている時代で、そこでは.NET Coreの技術者が足りないし、育てていくべき。今、.NETのリ・アーキテクチャーが必要な時期という点を、皆さんと話していきたい」と強くアピール。
日本マイクロソフトの平野氏は、「僕がマイクロソフトに入った頃は、.NETのテクニカルエバンジェリストはJavaと戦っていたが、今は全然異なる。エンタープライズのお客様から、『エンタープライズ向けのコンテナサービスを使いたいんですが、Javaに書き換えないと駄目なんですか?』という問い合わせを受け、森屋さんに相談したところ、いかんですね!という話になった」と話した。
この平野氏の自己紹介を聞いた司会の野村氏は、「.NETはデスクップオンリーではないし、Webのワークロードだけではなく、ほとんど全てのアプリケーションのための統一プラットフォームとして、.NETがあるということを改めて認識した上で、今日のセッションを始めたい。特に最近ではAI、IoTなどに興味を持つ技術者が多いと思う。少し前であれば、AIの言語はPythonで決まりと思われていたが、ML .NETも1.0になって、.NETでもAI開発ができるようになったということを改めてお伝えしたい」と話した。
.NETからどのようにクラウドネイティブの世界へ移行するのか
続けて、「何故、クラウドでモダナイズするのか?」をテーマに話が進められた。前提として参加者に意見を求めると、「サーバーのメンテナンスを自社で行うのは辛い。自社でハードウェアを持つのは辛い」という声や、「ハードウェアがあるせいで、セキュリティパッチなどに追われる状況から解放されたい」という声があがった。
FIXERの鈴木氏は、内閣官房の政府CIO補佐という立場から、安倍政権以降に発表された「世界最先端デジタル国家創造宣言」、「クラウドバイデフォルト」の方針となっていることを資料で紹介。「5月24日に可決成立されたが、デジタルファースト法案によって、例えばパスポートを取る際、東京都に行って、本籍がある自治体に行ってと右往左往していた状態が一気通貫でできるようになる。法人登記といった作業も、スピードアップしてできるようになるといったことを実現するための法律になる。民間のクラウドもどんどん活用していこうという法律で、できるところからクラウドを使っていこうというもの」と法律面でも、クラウド利用推進の下地が出来ていることが紹介された。
また、政府CIOポータルには、「政府CIO補佐官技術タスクフォースディスカッションペーパー」として、議論の場が設けられている。パブリックコメントとしてコメントを入れられる場が設けられているので、「皆さん、様々な意見をここに寄せて欲しい」(鈴木氏)と呼びかけた。
では、.NETからどのような課程を経て、最終的には最もクラウドの強みを活かせるクラウドネイティブアプリケーションの世界に移行していくのか。それを検討するためのまとめとして、「.NETアプリケーション最適化モデル」が司会の野村氏からスライドで紹介された。
「このスライド通り、順番に移行していきましょうということではなく、それぞれの事情、背景などによって最適なものに落としていけばいい。ただ、最終的にはクラウドの強みを活かし、サーバーレス、マイクロサービスといった最先端アーキテクチャーであるクラウドネイティブアプリとなるのが理想的」(野村氏)。
この移行計画に対し、アークウェイの森屋氏は、「リフト&シフト大反対派で、IaaSも大反対派」と表明。これは、「10年間やってきて、デベロッパーがいなくなってしまう。最初からマイクロサービスを狙い、妥協して真ん中は行くなと。ここにマイクロソフトの人がいたら申し訳ないが(笑)、我々はクラウドが売りたいわけではない。デベロッパーを増やしていきたい。今は、クラウドでなくても、アーキテクチャーを変えなければならないタイミング。できれば、クラウドネイティブとはいかなくても、コンテナライズされた.NET Coreアーキテクチャーでデザインしていくことをデフォルトにして欲しい」と訴えた。
「これまで.NETは派生形で(新しいものが)出てきたが、10年ぶりにきちんとしたアーキテクチャーが示されている。これはもう行くしかないタイミング。ASP .NETも含めアーキテクチャーがかなり違うので、ここはきちんと抑えないといけない。Link、ライブラリはそのまま使えるので、命をかけてリ・アーキテクチャーして欲しい。クーバネティス、最新のPaaSが使えるのはもちろんだが、一番重要なのはデベロッパーで、.NETデベロッパーをしっかり作って欲しい」(森屋氏).
この森屋氏の訴えに平野氏が、「企業内のシステム開発部の皆さんから上がってくる声として非常に多いのが、アプリケーションの機能要件が変わらないのに、アプリケーションのコードに手を入れることになかなか理解を得られないという声」と開発者側の苦悩を明らかにした。「なんとか経営層の方にも理解してもらって、デベロッパーが萎縮することなく挑戦できるようなモーメンタムを起こしたい。そうしないと、いつまでも既存のアプリを塩漬けして、クラウドに載せる選択肢しかなくなってしまう。それでは最新プラットフォームのメリットを活かせない」(平野氏)。
また鈴木氏は、政府がクラウドバイデフォルトの方針を打ち出していることを踏まえて、「企業側もクラウドネイティブの世界を目指して欲しい」と民間も変化の時であるとした。
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